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Vol.228 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム 抄録から(4)

医療ガバナンス学会 (2018年11月8日 15:00)


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2018年11月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年11月24日(土)

【Session 04】16:20~17:20

●製薬企業と医師の金銭関係の透明化のために
尾崎章彦

製薬企業は薬剤の販促活動の一環として、医師に講演や原稿執筆、コンサルティング業務を依頼し、医師はその見返りに金銭を受領する。その実態はパンドラの箱と捉えられ、内実は明らかではなかった。ワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所が共同で作成した「製薬マネーデータベース」は、その詳細な分析を可能とした。私たちが行った調査により、学会理事や医学雑誌編集者、ガイドライン委員会、がん薬物療法専門医などに、多額の金銭が支払われている実態が浮かび上がってきた。このような製薬企業と医師の関係性に違法性はない。しかし、医師の処方を歪め、患者の不利益や国民皆保険制度の疲弊につながっている可能性がある。私たちは、様々な媒体でこの問題について情報発信を進めるとともに、近日、データベースを一般公開する予定である。
一方で、解決すべき問題も多い。例えば、製薬企業は、講演会に関わる食費や宿泊費、交通費などを個別の医師に紐づけて公開していない。しかし、これらの利益供与も医師の処方の歪みにつながりうる。加えて、循環器科や整形外科などの領域において莫大な利益を得ている医療機器メーカーは、医師への支払いについて情報公開を行っていない。
もう一つの重大な問題は、企業から医師に対しての直接の支払いについて情報公開が進むことで、非営利組織や一般社団を介した迂回献金が増加し、製薬企業と医師の金銭関係そのものが見えにくくなる可能性である。実際に、先端医療研究支援機構(ACRO)と呼ばれる非営利組織を介して、製薬企業から様々な医師や臨床試験に資金提供が行われていた実態が明らかになりつつある。私は昨年来、CREATE-X試験という乳がんの臨床試験の金銭問題について調査を続けているが、試験薬の販売元である中外製薬が同試験に多額の資金提供を行う際にも、ACROは一役買っていた。
薬剤や医療機器は莫大な利益を企業にもたらすため、その臨床使用を巡っては、様々な利害関係者の思惑が関わる。その透明性が少しでも高まるように、現場から少しずつ解決への取り組みを続けていきたい。
●似た薬を作る会社が多過ぎる
川口恭

「画期的な新薬の開発を通じて、世界の医療に貢献してきました」とウェブサイトで自画自賛する日本製薬工業協会(製薬協)には2018年5月現在、「研究開発志向型」(同)の71社が加盟しているという。
彼らがどれだけの「画期的な新薬」を作ってきたのか、「品目は約1万6千程度」(厚労省ウェブサイトの記述)あるという薬価基準収載品目リストをしげしげと眺めてみる。71社が「画期的な新薬」を作ってきたのなら、最低でも71種類は「画期的」と呼ぶに値するような、それまで世の中に存在しなかった作用機序の「ピカ新」(ファースト・イン・クラス)薬がなければおかしい。しかし、似た作用機序の薬がゾロゾロと出てくるばかりで、ピカ新は彼らの商品の中に指折り数えるほどしかない。
つまり看板に偽りありで、日本の製薬会社は「画期的な新薬」を作らないでも「研究開発志向型」を自称し存続できたことになる。それが可能だった理由を端的に言えば、「画期的でない薬」にも高い薬価がつき、儲かったからだ。保守的な規制当局や沸騰しやすいメディアの存在もあって、真に「画期的な新薬」へと挑むのはリスクが高過ぎたという事情もあるだろう。
この構造こそ、我が国の医師と製薬会社の関係を不幸なものにしてきた、と考える。
患者の利益を最優先しなければならない医師の倫理から見て、製薬会社から利益供与を受けながら処方判断を行う医師には、同情の余地がない。とは言え、似た作用機序の薬でどれを使っても結果に大差はないなら、製薬会社との関係で処方を選んだとしても良心の呵責を覚えにくかろう。
一方の製薬会社からすれば、医師に処方さえさせれば確実に利益を得られるのだから、その一部を使って医師に利益供与するのは、営利企業として極めて合理的な判断だ。
ただし、製薬会社が得る利益の原資は社会で広く負担している保険料だったり税金だったりするわけで、利益供与には企業側と医師側の双方に後ろめたさがつきまとう。その後ろめたさは犯罪の温床でもあり、社会保障財政の先行きが案じられる現在、そろそろやめてもらわないと困る。
●最後の砦となるために
渡辺周

ワセダクロニクルは医療ガバナンス研究所と共同で、「製薬マネーデータベース」をつくった。医師の名前を入れれば、どの製薬会社から何の名目で資金を得たかが一発で分かる。透明性を高めることにより社会全体で製薬マネーを監視しようという試みだ。アメリカやドイツではすでに同様のデータベースを公的機関やジャーナリズム組織が作成し、公開している。
このデータベース、実は私が朝日新聞にいたときの2014年に作った。だが朝日新聞は、データベースを一般公開しなかった。この年は、従軍慰安婦の検証、池上コラムの不掲載問題、原発吉田調書の取り消し事件で朝日新聞はバッシングに見舞われ、みるみるうちに消極的になった。
公開は実現しなかったが、2015年4月にデータベースを元にした製薬マネーの検証を始めた。だがキャンペーンも途中で打ち切りとなった。「朝日新聞も広告や事業で製薬会社から金銭を得ている。まずは社内の検証をして公表してから」。これが当時の朝日幹部の説明だったが、検証結果が公表されることはなかった。
今回、データベースの作成には3000時間を要した。製薬各社は、医師への支払いを自社のホームページで公表しているものの、データを取り込めないように様々な細工をしているからだ。これだけの作業を、朝日新聞でも東京大学でも製薬協でも厚労省でもなく、医療ガバナンス研究所とワセダクロニクルという小さな所帯がやり遂げた。大切なのは根気と覚悟だ。
この取り組みは、「医師とジャーナリストの共闘」という世界的に新しい挑戦でもある。10月に韓国ソウルで開かれたGIJN(Global Investigative Journalism Network)の大会では、医療ガバナンス研究所と共同で発表し、各国のジャーナリストたちが関心を示した。アジアのジャーナリズム組織との共同プロジェクトが生まれた。
患者さんの最後の砦となるためにはどうしたらいいか。職業人としての矜持と覚悟を持った「個」が連帯することだと、私は思っている。

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