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Vol.236 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム 抄録から(8)

医療ガバナンス学会 (2018年11月14日 06:00)


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2018年11月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年11月25日(日)

【Session 08】医療コミュニケーション 13:20~14:20

●若年がん患者のための選択肢
阿南里恵

私が子宮頸がんにかかった時、主治医が「子宮全摘出は免れないが、卵巣を残すことは出来るかもしれない」という選択肢を与えてくれました。卵巣を残しても子宮は喪失してしまうので、医学的な表現では「絶対的不妊」となります。しかし卵巣を残すことができれば、卵巣機能を保つことで、QOLの維持が可能になります。私は卵巣を残せたことを、今でも主治医に感謝しています。
現在、所属している日本がん・生殖医療学会では、がん治療時の妊孕性温存療法を推進しています。妊娠する能力のことを妊孕性といいます。がん種や進行期などの条件をクリアした患者は、がん治療前に卵子や精子、受精卵の凍結をしておくことで、治療後に子供を授かる可能性を残すことができます。
しかし、まだまだ十分な情報や選択肢が患者に提供されていません。そして何より、妊孕性を喪失する患者や喪失してしまった患者へのフォローやケアが、ほとんど出来ていないのが現実です。
私はがん・生殖医療と出会うまで、自身の卵巣は健康であると思っていました。ところが学会の理事長に勧められて検査を受けてみると、卵巣機能の数値が平均よりもかなり低いことがわかりました。初めは早発閉経が起こる前に卵子を凍結しておきたいと考えました。そうすれば代理出産で子供を授かることができるかもしれません。しかし、何度か理事長と話し合う中で、考えが変わりました。私は出産したことがありません。そのため無意識のうちに、健康な女性にとって出産は容易なものだと思っていたことに気づかされました。理事長は産婦人科医として、出産時のリスクや倫理的な問題などについて教えてくれました。命の大切さや儚さを知っているからこそ、誰かの命を自分のために危険にさらすことはできないと思いました。
そして、里親や特別養子縁組について学び始めました。すると、想像していたよりもずっと幸せな家族の形があることを知り、心が震え、大きな勇気をもらいました。現在はそれをがん・生殖医療の一つの選択肢に加えようと、他の理事たちと試行錯誤しています。
若年がん患者の治療後の人生は、まだまだ希望に満ち溢れているとは言えません。それを変えていくためには、がん治療医だけでなく、幅広い分野の医療者や医療以外の専門家との連携が必要です。がん治療後にまだまだ長い人生を歩んでいく若年がん患者が、希望を持って輝きながら生きられる時代が来るのを、心から願っています
●医師と製薬業界〜患者団体としての取り組み
會田昭一郎

製薬業界からの政官等への献金については、かねてから患者会としても重視している。医療はその性質上、規制行政の色濃いものである。献金は、厚労行政の基礎となる様々な法令・規則等について、少しでも有利な扱いを受けるための事業者団体等の行動であろう。だが、今回取り上げられている製薬業界から医師への多額の金銭が支払われていることについては、それだけ聞いても、患者団体にとって具体的にどのような影響があるのか、もう一つはっきりしない。
ところが医師への金銭の支払いが、治療にどの薬を使うのか、どの治療法を選択するのかという意思決定に大きな影響を与え、場合によっては客観的に見て患者にとっての最適な治療法が選択されないかもしれない、となれば、患者や患者団体としても看過することはできない。
患者は、主治医が自分にとって最適な治療法を選択し、治療してくれていると信じているが、実は必ずしもそうとは限らないのが現実だ。このことは薬の使用だけに限らない。以下のようなケースが考えられる。
(1)製薬会社から金銭等を受け取ることにより、専門家の中では効果が疑問視されていたり、高齢だったり、体調が悪かったりする場合でも、特定の薬を使用する。
(2)専門医制度等により、手術の実績を必要とする場合、放射線治療の適用であっても手術が選択される。
(3)内視鏡下手術など新しい術式のキャリアを積むため、無理に新しい術式が適用される。
(4)ダビンチ等が導入されると、放射線治療の適用も考えられるのに、病院経営上、償却のために手術が選択される。
医師と製薬業界の問題は、それだけでは市民レベルでのムーブメントとはなりにくいのではなかろうか。そこで患者会の視点を加え、誰もが「とんでもない話だ」「そんなことがあってはダメだ」と思えるようアピールし、市民レベルでのムーブメントが澎湃として沸き起こることを期待したい。
●ITデバイス活用による医療コミュニケーションの形
小川智也

近年、コミュニケーション手段は多用化し、私たちの日常生活にも様々な変化が起きている。その一つが、ITデバイスを活用した相互コミュニケーションのあり方であろう。周知の通り、世界のITデバイスの技術革新は、ここ10年間で驚くほどの飛躍を遂げ、様々なコミュニケーションツールを生み出した。
メールやメッセンジャー、SNSは、いまや日常生活の中で一般的なコミュニケーションツールとして当たり前のように利用されているが、医療現場においても同様にその活用が広がっている。
さらに、上記のコミュニケーションツールのみならず、あらゆるデバイスの活用が、患者と医療者間のコミュニケーションを円滑かつ正確にする。具体的には、非接触センサーや各種デバイスから収集されるバイタルデータの活用を指す。
病院内に限らず在宅や施設内でも、医療者は対象者の様々な客観的身体情報を事前に得ることができるため、効率的かつ効果的なコミュニケーションを生み出しやすくなると考えられる。また、本人の負担を軽減しつつ情報をリアルタイムに収集でき、介護者など医療者以外の関係者とも情報共有が可能になる。直接コミュニケーションがとれなくとも、情報共有を介した多者連携が可能となり、これまでにない新たなコミュニケーションの形を提案しているといえよう。
一方で、便利さゆえの弊害もあり得る。過剰な期待感から倫理的課題を勘案せずに個人情報を共有・活用するような事態は、勿論避けなければならない。
ITデバイスの医療分野への普及と活用は、あらゆる可能性を秘めている。私たち医療者は、医療に携わる者としての正しい倫理観を保ちつつ、新たな患者・医療者間のコミュニケーションの形態を創造し続けることが必要と考える。
●多様性に対応する医療通訳 ~現状と課題~
澤田真弓

国内における訪日及び在住外国人数の増加に比例し、外国人患者受入れのための多言語対応及び未収金防止対策といった医療機関側の体制整備が求められている。関連したトラブルやインシデントも報告されていることから、医療安全の観点からも、現場での危機意識は高まっている。このような状況を受け、自民党では「外国人観光客に対する医療プロジェクトチーム(PT)」が、内閣官房では「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ(WG)」が立ち上がり、再来年度までのスケジュールを含めた具体的な施策案が打ち出された。その中には、対面通訳・遠隔通訳・機械通訳といった医療通訳の手法についての特徴整理、医療通訳認定制度の検討、外国人向け医療コーディネーターの養成等が含まれる。こうした取り組みにより、医療機関における外国人患者受入れ体制整備は大いに加速することが期待される。
今後、対応について検討が求められるのは、国内で話者の少ない希少言語への対応についてだ。医療通訳認定制度で対象言語となっている英語・中国語等の主要言語については、医療機関による通訳の質の担保が一定程度可能となることが期待される。その一方で、ベトナム語やネパール語をはじめとした国内に医療通訳者及びその教育者が少ない言語については、国内需要が急激に高まっている。また今後更に高まることが予想されるにも関わらず、医療機関側で医療通訳者又は医療通訳事業者の選定基準を設けることは極めて難しい。
●ちょんまげ仮装訪問を通じた高齢者見守り活動
新村浩明

私は、福島県いわき市にある公益財団法人ときわ会常磐病院の院長を務めている。2014年12月より、仮装による高齢者のお宅訪問を行っている。
始めるきっかけとなったのが、クリスマスシーズンだったために医局にサンタクロースの衣装を見つけた時であった。これまで白衣を着て訪問診療を行っていたが、この衣装を着て行ったらお年寄りに喜んでもらえるかなと考えた。少し不謹慎な気もしたが、もともと仮装をするのが好きな自分は、後先を考えずにサンタクロースの格好で訪問診療に出かけた。行く先々のお宅で、最初は怪しい訪問販売の人と疑われたが、新村とわかると大歓迎で迎えてくださった。
そして1月は大黒様の衣装でお願いと、リクエストまでいただいた。依頼されれば断るわけにもいかず、大黒様の衣装をネットでレンタルし訪問診療に伺った。2度も仮装でお宅を訪問してしまうと、皆様、次は何だと大変期待をされるようになり、後には引けなくなってしまった。2月は梅の季節で水戸黄門、3月は花咲か爺さんの仮装をした。4月は桜吹雪の遠山の金さんしかないと考えたが、ちょんまげをかぶることはさすがに不謹慎すぎるだろうと抵抗感はあった。だが、もう勢いで行くしかないと、ちょんまげをのせて訪問することにした。これが想像以上にお年寄りたちに面白がられ、拍手喝采で受け入れてくださった。ちょんまげ姿で保険診療もないであろうと思い、この時から訪問診療ではなくボランティア形式の自宅訪問の見守り活動とした。
しばらくは院内外から、公益財団法人の院長が仮装は不謹慎だと批判の声も聞こえてきた。しかし、訪問先の高齢者の笑顔を見ていると、この活動は高齢独居や2人暮らしの方の癒しになっていると感じ、訪問できる人数は限られるが、今日まで月に1回仮装で訪問を続けている。今後は活動の規模を拡大するため、常磐病院看護部の協力を得て、さらに頻度を上げて訪問を行いたいと考えている。

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