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Vol.238 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム 抄録から(9)

医療ガバナンス学会 (2018年11月15日 15:00)


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2018年11月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年11月25日(日)

【Session 09】性教育 14:20~15:30

●性教育後進国ニッポン? 性情報の海に、沈まないチカラを
染矢明日香

2018年3月、東京都内公立中学校の性教育の授業で性交や中絶、避妊を取り上げたことについて、ある都議が「不適切」と都議会で取り上げた。東京都教育委員会も「国の学習指導要領にない」「中学生の発達段階に合わない」と課題がある旨答弁し、波紋が広がった。日本の性教育が政治権力や行政などによって抑圧され、国際的な標準からはるかに遅れている現状があらためて示された。ユネスコなどによる国際的な性教育のスタンダード「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、包括的な性教育は性行動を早めることはないばかりか、より慎重化させると結論付けている。
私は、性の健康教育についての講演や情報発信を行うNPOピルコンの代表をしている。私たちの無料メール相談には、高校生からの妊娠不安の相談も頻繁に届く。中高生たちの性知識は乏しく、あまりに無防備な状況だ。そして、妊娠すれば、中絶をするか、出産後に学校中退、ひとり親になり、貧困へとつながっていく。10代の母による出産は年間1万件以上、10代の中絶は年間約1万5千件行われている。ITが普及し、子どもたちは性のことを不正確な性情報やフィクションであるAVから学んでいく。SNSを通した10代の性被害も年々増加している。
また、日本ではアフターピル(緊急避妊薬)にアクセスするハードルの高い状況が続いている。性や妊娠・出産に関わるすべてにおいて、本人の意思が尊重され、そのために必要な情報を得ることができ、自分にあった選択肢にアクセス可能であることは、当然の権利である。
あふれる性情報の海にいる子どもたちに、ジェンダー平等と多様性に基づく科学的な性の知識や人間関係について学ぶ機会があり、彼らが困った時に、子どもを搾取する大人ではなく、適切な社会資源・選択肢とつながることができる環境整備が急務である。
●宗教と性教育と若者
妹尾 優希

私はスロバキアのコメニウス大学で、英語で医療を学んでいます。
中高時代を過ごしたニュージーランドでは、無信教が国民の42%を占め、宗教人口の大半を占めるキリスト教徒もカトリック、英国教会、長老会に分かれています。性教育は義務教育開始と同時に、4~5歳から始まります。初期には日本と変わらず男女の身体や成長の違いについて学びますが、小学6年生から高校生にかけては、避妊や性感染症、中絶による将来の不妊のリスクを学びます。2017年の15~19歳の人口千人に対する出生数は15、中絶数は9.2で、他方、日本の同年代の出生数は4、中絶数は24.4でした。出生数と中絶数の合計を比べると、日本の10代の方が若干、性の機会が多いことが分かります。ニュージーランドで10代の出産率が高い背景には、若い母や母子家庭の待遇がよく、若年の出産が歓迎されていることが挙げられます。
この夏に医療実習先として訪れたモロッコは、イラスム教が国教です。原則的には婚前の男女の性交渉は認められておらず、義務教育課程の性教育も実施されていません。しかし、実際には「女性器から出血のない性行為」は容認されています。実習中は、HIV、肛門がん、梅毒の患者さんが多い印象でした。HIVの2016年の感染者数は22,000人で、罹患率を日本と比べると約4.8倍ほどです。
スロバキアでは、カトリック信者が国民人口の6割を占め、力を持つ教会が人口中絶に大きな影響を与えています。今年6月には人口中絶の禁止が法案に上がりました。大学の医療倫理では、「障害を理由にした中絶は許容されるべきでは?」と発言した学生が、教授に叱咤されたのを見たこともあります。一方で、性教育の内容はEUの規定の下に宗教や道徳の授業で実施されています。スロバキアの若者の性動向は日本と大差ない印象です。2015年の合計特殊出生率は1.37と、日本の1.46よりも低い反面、中絶しにくい社会背景から第一子出産年齢の8.3%を15~19歳が占め、EU平均の3.9%を大きく上回ります。
今回は、私の滞在経験のある国々の性教育と若者の性環境について紹介し、宗教性や性教育が実際の若者の性行動にどのように反映されているかについてお話しします。
●育現場における、性教育のリアリティとシンパシー
鈴木 朝雄

20歳未満1万5千人、20歳~24歳3万8千人、妊娠を望んでいた結果ではなく、不本意ながら人工中絶を選んだ人数です。中絶を選択せざるを得なかった発端はどこにあるのでしょうか?
確実に言えることは、現在の性教育は中高生の現実とかけ離れている、ということです。
高校進学とともに生徒たちはほぼ100%、スマホを持つようになります。そうなると様々な情報が一気に入って来るようになります。色々な“要因”が一気に増えることになります。
また現在、未成年の性交経験者は、中学生は女子20人に1人・男子25人に1人。それが高校生になると女子4人に1人・男子7人に1人が経験者となります(青少年の性行動全国調査)。
ところが、実際の教育現場において意思決定の中心になっているのは、自身が中高生であった時に携帯さえ無かった世代です。彼らは中高生の性の現実に全く共感できません。自分の経験を元に、「そもそもSEXをしない教育を中心にすべきであって、踏み込んだ内容は必要ない」と判断しがちです。
しかも教育現場において性教育は多くの場合、「科目」ではなく「特別教育」「道徳教育」の位置付けです。熱心な教員がいる学校では計画されますが、学校関係者、特に校長先生の価値観に開催が左右されることが多いのです。
先生たちは結局、教育指導要領に基づいた指導に終始します。中学生では、まずは保護者への性教育実施の理解を優先します。内容は「健康な生活と疾病の予防」の一環として「性的接触」が触れられるにとどまります。高校生では、教育指導要領で「結婚生活と合わせて教育する」ことが主軸に据えられています。結婚生活という基本的概念の中で必要時にするものが避妊であり、コンドームの使用についても、夫婦間において避妊が必要な場合の知識、とされています。
こうして教育現場では、リアルな性について先生が触れてはいけない、生徒に対し公言してはいけない、とされています。性教育とリアルとの乖離が、生徒のシンパシーを失わせているのです。
まずは、現実に即すよう、教育指導要領の改訂が必須ではないでしょうか?
●同世代の女性に伝えたいこと
山本 佳奈

「性感染症の検査、受けたことはないです…」、これは同世代の女性からよく聞かれる回答だ。私は、緊急避妊薬を希望してクリニックを受診する女性に、性感染症の検査の有無を聞いている。緊急避妊薬を希望するということは、避妊に失敗した、又は避妊していなかったということ。検査を受けたことがない、検査を知らない、という女性には、性感染症に感染するリスクがあることはもちろん、性感染症のいろはや検査の必要性についてお伝えしている。
『Nature』誌によれば、米疾病予防管理センターは今年8月末、米国内の性感染症が増加傾向にあることを発表した。日本も他人事だとは思っていられない。梅毒が昨年までの推移に比べ急増しているとの報告が相次いでいる。もちろん、梅毒だけが性感染症ではない。日本で最も感染者数の多い性感染症は、クラミジア感染症で約2万5000人。次いで性器ヘルペスの約9300人、淋菌感染症の約8100人と続く。性感染症は症状を自覚しにくく、病院を受診していないケースも多いと考えられるため、氷山の一角にすぎないだろう。
性感染症の増加の原因の一つとして考えられているのが、SNSの普及だ。我々は、出会い系アプリの登場が性感染症増加の原因かもしれないという仮説を立て、出会い系アプリの普及と梅毒の増加との相関関係について調べている。
「クラミジア感染症に、まさか自分がなるとはね…」。友人は当事者になって初めて、性感染症が身近な問題であることを理解したそうだ。性感染症に感染しないと思い込んでいたことや、低用量ピルの内服で避妊していたことから、コンドームは一切使用していなかったと言う。
我々は今年の4月、性感染症の知識を有する看護師を対象に、性感染症の認識や行動の実態についてWEBアンケートを行った。性感染症と不妊の関係性の認識率は高かったにもかかわらず、性感染症検査の実施率は低いことが判明した。
恥ずかしながら、医学部の講義で学ぶまで、性感染症が身近な問題だと思ってもいなかった。自分のカラダを守る手段として、もっと早く知っておきたかったし、知っておくべきだったと思っている。今回は、調査結果や私の取り組みを含め、お話させていただきたいと思う。
●コンドームを通じてできること
林 知礼

コンドームという商品は、避妊と性感染症の予防を目的としたツールである。しかしながらインパクトが強い商品であるがゆえに、良くも悪くも是非を問われる場面が多々ある。良い評価では、技術力・品質の高さが評価されること、啓発的な意味合いでシンボリックな存在として効果的な活動に活用されていること。悪い評価としては、アダルトなイメージやセックスを助長するシンボルとして捉えられること。いまだに商品の表現や露出に関して多くの制約をされることがある。
コンドームには技術的な面と社会的な面で価値があり、そのことをきちんと伝えることがメーカーの役目と感じている。日本のコンドーム製造技術、そして品質や安全管理は世界でもトップクラスで、昨今のいわゆるインバウンド需要でも高い支持を集めている。特に薄さを極めた商品は、秀逸な商品として世界的にも評価が高い。一方で社会的な面では、日本の国民性に左右されるところもあるのかも知れないが、まだまだ理解されていないところも多い。しかしながらほぼ全ての人に関連する「性」の問題をコントロールできる非常に簡便なツールであり、時によっては使用の可否が人の心まで投影することもある。
コンドームがすべてを解決するものではもちろんないが、その意義について知らなかったり、きちんと考える機会のなかったりするまま成人する人がいることは、日本ほどの知性や経済性を持った国として、非常に残念なことではないだろうか。

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