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Vol.242 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム 抄録から(11)

医療ガバナンス学会 (2018年11月19日 15:00)


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2018年11月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2018年11月25日(日)

【Session 11】ITと地域医療 16:30~17:10

●横須賀市中2ピロリ検診の導入に関して
水野 靖大

横須賀市は、2019年度から中学2年生に対するピロリ菌の検査と除菌を公費で行う方針とした。これは、現在大人に対して市民健診として行っている胃がんリスク検診に見られるいくつかの問題点を解決するためだ。受検率の問題、除菌後胃がんの問題、そして次世代への伝搬の問題だ。そこで、網羅的に検診を行うことができ、胃がん発症のpoint of no returnを超えず、子育て世代前、という要件を満たす中学生での検診を検討した。さらに、メンタル的に難しい受験期を避け、体格的に大人量の薬が内服可能な2年生に検診を行うことにした。
この検診は、通常とは異なる流れで実現した。通常、新しく検診を作ったり、検診を変更したりする場合は、行政すなわち横須賀市の場合は保健所長と保健所健康づくり課市民健診係と協議を重ね、その内容を市議会にはかって承認された場合に予算がつくという流れがある。しかし、今回は違う流れになった。まず、市長が変わって新しく生まれ変わった議会で、議員提案の条例を策定する試みがあった。いくつも提出された条例案のうち、全員一致で採用された条例が横須賀市がん対策条例であった。この条例のシンボリックな具体的動きとして中2ピロリ菌検査・除菌が検討された。これは元々横須賀市医師会から横須賀市の自民党市議団向けに要望を出していたものだった。このため、まず行政がこの検診を実現化しようとした。通常は、とかくブレーキ役を担う市議会も自分たちで策定した条例のシンボルたる検診だから実現に協力した。さらに医師会も、元はと言えば自分たちが要望していた検診なので、もちろん協力する、という誰もが実現に向けて協力する環境の中でこの検診は生まれた。
この検診が、主人公たる中学生にどう受け止められ、どのように育っていくかはこれからの課題だが、少なくともこの検診は皆に望まれて生まれてきた。
●都市部在宅医療クリニック発、これからの医師の学びの拠点づくり
山口 高秀

2006年に救命センターを後にして、在宅医療をはじめ、自身の力量不足で生じる多くの失敗に対しての反省と、時折いただける感謝の言葉を原動力として、がむしゃらな現場活動を行う約12年間が経過した。現在、神奈川と兵庫の5つのクリニックで約2000人の在宅患者を抱えるグループとなった。その中で、月並みな表現だが「当該地域においては、依頼があれば断ることなくその患者が亡くなるまでの健康責任者となり、その置かれた状況と希望を理解し、様々な社会資源とよい関係性を維持し、効果的な連携デザインを構築し、その中で最新の知見に基づいた介入行為を24時間体制で行うこと」により、当グループの理念である「安心で安定した幸せな療養生活をできるだけ多くの場所に実現する」という信念を確立してきた。
この信念は、同じ寿命をもつ人間が人間を診るという前提がある以上、また、24時間体制である以上、一人医師で行うこととは矛盾する。さらに、永続的にチームで活動する必要があるため、個人の学びではなく、互いの学びを共有し、ともに成長していくための組織学習が必要となる。そして、永続的なチームとなるためには、医師が継続的に参加し続け、退職していくという新陳代謝を支える力が必要となる。最後に、これを社会インフラとするならば、この実践の場をあまねく人の住むエリアと整合させることが必要になってくる。
昨今の、医師の偏在をなくすために医師の働く場所を強制する仕組みや、報酬による誘導は、本質的な対応ではないと考える。大切なのは、地域医療に取り組む医師が、組織で学習し、永続的に活動を行うことのできる拠点づくりであり、そこに最大投資すべきであると考える。そして、その芽は都市部の在宅医療にすでに存在する。
本発表では、遅きに失したかもしれないが、在宅医療を出発点とした、医師の学びの拠点づくりの取り組みを、開業からの経緯を交え共有したい。
●在宅医療とSNSの相性
紅谷 浩之

オレンジホームケアクリニックは福井県福井市に拠点を置き、在宅医療を専門とするクリニックである。現在の患者数は約300人で、年間約100人の在宅看取りを行っている。診療エリアは原則として半径16キロ圏内であるが、近隣に他の医療機関が存在しないなど地方特有の状況を考慮し、より遠方の地域への訪問診療も提供しているのが実情である。
2018年2月、福井県内を記録的豪雪が襲った。交通網は寸断され、約2週間にわたり患者宅までの移動は困難となった。片道30キロ以上離れた場所に住む重度の心不全を抱えた2歳女児の訪問診療は、携帯型端末を用いた遠隔診療へと切り替えて行われた。女児の両親と医療従事者の間では、平常時からSNSを使用した情報交換が頻繁に行われており、健康状態だけでなく、ケアに関連する様々な心理的・社会的話題が共有されていた。結果的に、豪雪期間の前後で女児の健康状態の悪化は見られなかった。
SNSは平常時と災害時の両方で重要な役割を果たすと考えられる。平常時には医療従事者と患者・家族間のコミュニケーションを円滑にし、災害時には交通網が寸断されても比較的維持される通信機能を活用し、必要に応じたタイムリーな介入が可能になる。医療従事者患者・家族間で、SNSの利用に慣れていることが必要であろう。
訪問診療では、病状に加え、生活全般をみておくことが重要である。そのことが、災害時に患者宅を直接訪問する必要があるかどうか、適切に判断するための材料になる。一般的に、災害時には患者の状態は容易に悪化し、サービス全体の能力は低下する可能性がある。
今年度の診療報酬改定で、遠隔診療に関する取り扱いが充実した。現時点では診療点数こそ低いが、各地のニーズに合わせて今後さらに普及していくだろう。また、医療・介護現場でのロボット活用も進んでいる。遠隔操作可能なものも多く、在宅医療においてどのような役割が期待できるかについても、議論を深めたい。

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