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Vol.243 「特定行為に係る看護師の研修制度」の現状と課題-1

医療ガバナンス学会 (2018年11月20日 06:00)


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※本稿は、2018年9月23日に開催された看護未来塾 第5回勉強会( https://www.kangomirai.com/ )で行った講演内容を加筆、一部修正したものである。

神戸市看護大学大学院 看護学研究科 博士前期課程
基盤看護学領域 看護管理学専攻
樋口佳耶

2018年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.「特定行為に係る看護師の研修制度」の現状、関連団体の動き
2015年10月1日から施行となった「特定行為に係る看護師の研修制度(以下、本制度)」は、始まって約3年が経過しました。本制度の詳細は、厚生労働省のHP1)をご参照いただけたらと思いますが、主な現状は次の通りです。まず、本制度が開始となった当初の目標は「2025年に向け10万人以上養成」でしたが、2018年3月末日時点の特定行為研修修了生(以下、修了生)は1,006人と2)、目標数には程遠いことがわかります。また、本制度の目的は、「今後の在宅医療等を支えていく看護師を計画的に養成していくこと」とされていますが、2018年3月末日時点の修了生の就業場所をみると、全1,041人中「病院 870人」が最多であり、「訪問看護ステーション 47人」「その他 36人」と続いています3)。つまり、修了生の多くが病院で働いており、在宅には出ていけていません。

本制度に関する日本看護協会の動きですが、2018年度の重点政策・事業のひとつに「看護職の役割拡大の推進と人材育成」を位置付けています。そのなかには、特定行為研修に関連して、「認定看護師制度の再構築」「特定行為に係る研修制度の活用の推進」「ナース・プラクティショナー(仮称)制度の構築」の3つがあります。最近、耳にすることが増えてきた「ナース・プラクティショナー」ですが、日本看護協会のHPをみると4)、具体的なことは決まっておらず、まだまだ検討中の段階であることが読み取れます。
ここで、「ナース・プラクティショナー」という用語について、少し整理しておきます。まず、「診療看護師(NP)」です。日本NP教育大学院協議会は、「日本NP教育大学院協議会が認めるNP教育課程を修了し、本協議会が実施するNP資格認定試験に合格したもので、保健師助産師看護師法が定める特定行為を実施することができる看護師」を、「診療看護師(NP)」と定義し、独自に認定を行っています5)。「大学院におけるNP教育課程の認定に関する基準等詳細」はHPでは公開されておらず、「要問合せ」と記載されていました。なお、2018年3月までに359人の「診療看護師(NP)」が誕生しているということです6)。
日本NP教育大学院協議会とはまた別に、日本看護系大学協議会(JANPU)は、JANPUの認定を受けたナースプラクティショナー教育課程(46 単位)を修了した者に対して「JANPU ナースプラクティショナー(JANPU-NP)」という資格の認定を実施することを、平成30年度定時社員総会で決定しています(現時点で4人が上記教育課程を修了7) )。なお、認定審査の受験資格要件、審査方法等は検討中で、2019年度中に詳細が決定するようです8)。

ここまで、看護系の学会や団体の動きを見てきました。次は医学系です。今年(2018年)の8月末に、日本外科学会が「外科医の労働時間短縮のための制度創設の要望」を出しました9)。日本外科学会は本制度の議論が始まった当初から、NP(Nurse Practitioner)やPA(physician assistant)の導入を希望していました。
少し長くなりますが、要望書の一部をご紹介します。「医師の働き方改革に関する検討会における『医師の労働時間短縮のための緊急的な取組』においては、書類作成や静脈注射等の業務を原則、医師以外の職種が分担して実施することに加え、特定行為研修を修了した看護師の有効活用が掲げられており、その活用も期待されるところですが、外科医の業務のうち多くの時間を占める手術後の病棟管理業務といった業務を、安心して、包括的にタスク・シフティングするためには、現在の特定行為研修制度は、個別の行為ごとにしか業務を担うことができないものであり、研修終了者も1000名にも満たないような状況です。
このような状況を踏まえれば、外科医の働き方改革を進めていくために、十分な医学的臨床能力を有していることが担保され、手術後の病棟管理業務、術中の補助等を担うことができる医療職種が速やかに充実していくことが必要です。日本外科学会としては、諸外国のように、外科医の技術の維持と働き方改革を両立できる新たな制度創設を要望します」と述べられており、現行の制度では、日本外科学会が望んでいたような「タスク・シフティング」ができず、新たな制度をつくってほしいと要望していることがわかります。
次は、日本慢性期医療協会です。「⽇本慢性期医療協会は、特定看護師制度はこれからの⾼齢者の増加に対して、医療の中で重要な資格であり、病院や、施設、在宅いずれの場所でも十分な活躍ができるよう⽇本看護協会に協⼒してゆく」と、本制度に賛成の立場を表明しています。2018年9月13日の定例記者会見では、「特定行為の実施状況に関するアンケート」を行った結果から浮かび上がってきた本制度実施上の問題点として、「特定看護師業務について医師の理解が得られない」「患者や家族に特定行為自体を拒否される」「通常業務中に特定行為ができない」「特定行為を行うことに不安がある」といったことが挙げられていました10)。これらをみると、「こんな状況の中で、そもそも特定行為をする必要があるのだろうか?」と思ってしまいます。

いま出てきた「特定看護師」という言葉に関しても、少し触れておきます。これまで、私の身近にいる看護師が「特定看護師」と口にしていたら、「そんな看護師はいないよ!」と言っていたのですが、日本看護協会のHPで、「特定行為に係る看護師の研修制度の普及・活用にあたっては、『特定行為研修を修了した看護師』を略して『特定看護師』と呼称することは問題ありません」と書かれるようになりました11)。本制度に関しては、「指定研修機関における研修を修了したことの看護師籍への登録は、あくまで研修を修了したことを確認するためのものであって、国家資格を新たに創設するものではない」と「特定行為に係る看護師の研修制度について(厚生労働省 チーム医療推進会議)」に明示されており12)、日本看護協会のHPでも、「法律上、『特定看護師』という資格はありません」「…新たな資格をつくる制度ではありません」と述べられています11)。しかしながら、「特定看護師」と一口にいっても、特定行為21区分38行為中の1区分だけ修了した人、21区分すべて修了した人、大学院で教育を受けた人、そうでない人…すべてが含まれていて、非常にわかりにくいことになっています。

【参考文献】
1)厚生労働省:特定行為に係る看護師の研修制度.

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077077.html

(accessed 2018-10-13)
2)厚生労働省:特定行為研修を修了した看護師数(特定行為区分別).

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000213470.pdf

(accessed 2018-10-13)
3)厚生労働省:都道府県別 特定行為研修を修了した看護師の状況.

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000345594.pdf

(accessed 2018-10-13)
4)日本看護協会:ナース・プラクティショナー(仮称)制度の構築.

http://www.nurse.or.jp/nursing/np_system/index.html

(accessed 2018-10-13)
5)日本NP教育大学院協議会. https://www.jonpf.jp/
(accessed 2018-10-13)
6)日本看連盟:会長のマンスリーメッセージ「ナースプラクティショナー」ご存じですか?

http://kango-renmei.gr.jp/monthly/35273

(accessed 2018-10-13)
7)日本看護系大学協議会:一般社団法人日本看護系大学協議会 平成30 年度定時社員総会議事録.

http://www.janpu.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/07/H30GMCN-ForHP.pdf

(accessed 2018-10-13)
8)日本看護系大学協議会:「JANPU ナースプラクティショナー」資格認定の実施について.

http://www.janpu.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/07/%E8%B3%87%E6%96%998%EF%BC%9AJANPU-NP%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E5%AE%9F%E6%96%BD%E3%81%AE%E6%8F%90%E6%A1%88%EF%BC%88%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%88%EF%BC%89.pdf

(accessed 2018-10-13)
9)日本外科学会:外科医の労働時間短縮のための制度創設の要望.

http://www.jssoc.or.jp/other/info/info20180830.html

(accessed 2018-10-13)
10)⽇本慢性期医療協会:定例記者会⾒ 平成30年9月13⽇.

https://jamcf.jp/chairman/2018/chairman180913.pdf

(accessed 2018-10-13)
11)日本看護協会. 生涯学習支援 特定行為研修 よくあるご質問.

https://www.nurse.or.jp/nursing/education/tokuteikenshu/faq/index.html

(accessed 2018-10-13)
12)厚生労働省:特定行為に係る看護師の研修制度について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000031m8d-att/2r98520000031mde.pdf(accessed 2018-10-13)

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