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Vol.244 「特定行為に係る看護師の研修制度」をめぐる現場の混乱-2

医療ガバナンス学会 (2018年11月20日 15:00)


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※本稿は、2018年9月23日に開催された看護未来塾 第5回勉強会( https://www.kangomirai.com/ )で行った講演内容を加筆、一部修正したものである。

神戸市看護大学大学院 看護学研究科 博士前期課程
基盤看護学領域 看護管理学専攻
樋口佳耶

2018年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2.「特定行為に係る看護師の研修制度」をめぐる現場の混乱
このような状況なので、現場も、当事者である修了生も混乱しています。病院のHPを見るとその様子がわかりますので、いくつかご紹介します。
まず、1つ目の病院です13) 。中ほどの※の部分には、「『特定看護師』という呼称は、日本NP大学院教育協議会の商標登録であり、その使用には一定の条件があります。当院採用の者は条件を満たしているため、『特定看護師』呼称を使用しております」とありますが、「特定看護師」は商標登録ではありませんし、この説明を読む限り、おそらく「診療看護師」と誤解して書いているのだと思います(「診療看護師」も商標登録ではありませんが)。なお、「日本NP大学院教育協議会」ではなく、正しくは「日本NP教育大学院協議会」です。「特定看護師」を「Nurse Practitioner」と英語表記していることにも違和感があります。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_244-1.pdf

2つ目の病院のHPには、「ナースプラクティショナー」のインタビュー記事が掲載されていました14)。「NPになるためにはどういった研修が必要ですか?」という質問に対して、「NPには診療看護師と特定看護師があります」と答えています。法律上、日本には「NP」も「特定看護師」も「診療看護師」もいませんし、修了生(特定行為研修を修了した看護師)が他の看護師と異なる点は、特定行為を個別的指示ではなく包括的指示でできることのみです(特定行為は「診療の補助」なので、看護師なら実施可能)。次の「NPの仕事内容を教えてください」という問いには、「…動脈血採血、動脈ライン挿入、気管挿管、挿管チューブ抜管、中心静脈カテ抜去…」と述べています。このなかの気管挿管、挿管チューブ抜管は特定行為ではありませんが、特定行為と同列に並べてあるこの記載の仕方は非常に紛らわしいといえます。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_244-2.pdf

3つ目の病院は、「診療看護師」へのインタビュー記事を掲載していました15)。まず、「〇〇病院を選んだ理由はなんですか?」に対して、「診療看護師を募集している病院を探していましたが採用を宣言している病院はほとんどなく、院長に入職を打診されました。トップがナースプラクティショナー(以後:NP)の採用を考えているという事は、組織がとても柔軟的な方向性を持っていると感じました」とあります。最初に「診療看護師」、次に「ナースプラクティショナー(以後:NP)」と出てきます。さらにその下、「どんな特定看護師になりたいですか?」という問いには、「すべての職種から、特定看護師に容易にアクセスできる存在になりたいと考えております」と答えており、ここでは「特定看護師」なんですね。たったこれだけの記事の間に、「診療看護師」「ナースプラクティショナー(NP)」「特定看護師」と3つの言葉が出てきます。「一体あなたは何者?」と、思わず言いたくなってしまいます。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_244-3.pdf

最後に、今年1月に開催された「医師の働き方改革に関する検討会」の資料をご紹介します16)。「特定行為外の行為を実施するためには、医師の『診療の補助行為』として…」とあり、特定行為に含まれていない「CV挿入」や「胸水穿刺」が行われていることがわかります。これが許されるのなら、「検討を重ね、試行事業を行い、21区分38行為の特定行為を決めた意味は何だったのか?」「特定行為の議論は何のために行ったのか?」と疑問に感じます。
前述した名称のことも含め、このように「やったもん勝ち」「言ったもん勝ち」で、既成事実が積み重ねられている現状があります。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_244-4.pdf

3.まとめ
以上のように、看護職はじめ医療従事者間でも、「特定行為に係る看護師の研修制度」に関する正確な理解が広がっていないのが現状で、修了生自身も、修了生を雇用している病院・施設ですら、混乱している様子が伺えます。「特定看護師」「診療看護師」「ナース・プラクティショナー」など様々な名称が飛び交っていますが、それぞれ何をする人なのかがよくわからない。本制度に関する最大の問題は、看護サービスの受け手にとってわかりにくい制度となっていることではないでしょうか。
本制度に関しては様々な角度から是非が論じられており、「推進派」「慎重派」などと分けられることもありますが、そんな簡単な話ではありません。いろいろな団体、立場の思いや利害が絡んでおり、現状を把握し、本質をとらえることは本当に難しいと感じます。
看護職の立場としては、「看護サービスの受け手にとってメリットがあるものかどうか?」という視点を忘れずに、この問題に向き合っていくことが求められると考えます。

【参考文献】
13)目白病院. 特定看護師Nurse Practitioner.

http://mejirohp.jp/NursePractitioner.html

(accessed 2018-10-13)
14)北部地区医師会病院. ナースプラクティショナーについて.

http://hokubuishikai.com/nurse/%E4%BB%AE%EF%BC%89%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E9%83%A8%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/%E5%B0%82%E5%BE%93%E3%83%BB%E8%AA%8D%E5%AE%9A%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%B8%AB%E3%81%B8%E8%81%9E%E3%81%8D%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%EF%BC%81%EF%BC%81/%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6

(accessed 2018-10-13)
15)東京西徳洲会病院:先輩ナースインタビュー.

http://www.tokyonishi-nurse.jp/about/voice/voice_22.php

(accessed 2018-10-13)
16)第6回 医師の働き方改革に関する検討会:心臓血管外科におけるチーム医療 医師の勤務環境改善策.

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000191035.pdf

(accessed 2018-10-13)

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