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Vol.249 診療経過の整理は医療機関自らが院内で行うべき

医療ガバナンス学会 (2018年11月26日 09:00)


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この原稿は月刊集中12月号からの転載です。

井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2018年11月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.経過整理は誰が行うのか?
医療事故等が生じた場合、診療経過の整理は誰が行うべきものなのであろうか。
素朴な論点ではあるが、これこそが医療事故調査制度・産科医療補償制度・民事医療過誤訴訟・医療刑事捜査などに共通する大前提の重要問題なのである。結論から言えば、典型的には、現行の医療事故調査制度では病院・診療所自身の院内委員会、旧来型の医療事故調査制度の原案では第三者委員会(国公営の医療安全調査委員会)、産科医療補償制度では旧来型の医療事故調査制度の原案と同様に第三者委員会(第三者型の原因分析委員会)、民事医療過誤訴訟では患者側の弁護士(究極は裁判所であるが、主導は患者側弁護士)、医療刑事捜査では警察官、であると言ってよい。
大雑把に分類すると、院内(当該医師ら自身)―院外(弁護士も含めた中立の第三者)―患者側弁護士・警察官、というように分けることができよう。「診療経過の整理は誰が行うか?」の比較表を参照されたい。

2.証拠保全と患者側弁護士による整理
医療事故調査制度や産科医療補償制度が始まる以前までは、民事は典型的には、カルテの証拠保全とそれに基づく患者側弁護士による診療経過の整理、が主流であった。その後は証拠保全ではなくカルテ開示請求とそれに基づくカルテ開示が多くなってはいるが、その本質は証拠保全の場合と同じく、整理の主役は患者側の弁護士である。刑事の場合も同様の構造であって、家宅捜索によるカルテ押収(または、カルテの任意提出)とそれに基づく警察官による診療経過の整理にほかならない。つまり、主役は警察官である。
民事医療過誤訴訟や医療刑事捜査は、今もってこのような構造のままだと言ってよいであろう。

3.第三者委員会による事故調査と原因分析
主導権がもっぱら患者側弁護士や警察官にあるのでは上手くないだろうという反省から、今から20年前から10年前ころに形作られてきたのが、第三者委員会による事故調査と原因分析といったスキームであった。もちろん、医療側と患者側の間の中立を指向するものであるから、医療側と患者側の折衷型の第三者委員会を目指すことになる。その典型が、旧来型の医療事故調査制度の原案(医療安全調査委員会)であり、産科医療補償制度における(第三者型の)原因分析委員会であった。
それらはやはり医療側と患者側の間の中立を指向するものであったため、当然、第三者委員会の委員には患者側弁護士の代表が重要な存在とならざるをえない。現に、制度創設10周年になる産科医療補償制度では、原因分析委員会には患者側と医療側のそれぞれの弁護士達が二人セットで委員として入っている。

4.院内委員会による事故調査と原因分析
しかし、以上の患者側弁護士や警察官はもちろんのこと、中立の第三者委員会であっても、やはりいずれも当該病院・診療所(当該医師ら)にとって自律的なものではない。そもそも診療経過の整理は当該病院・診療所自身(当該医師ら自身)が行うべきである。他律的なものに丸投げして委ねるべきではない。
このような反省の下で、古い他律的なスキームに代わって、新しい自律的なスキームが提唱されるようになった。それが近時、院内医療事故調査委員会を主役とする新しい医療事故調査制度に結実したのである。
かつての産科医療補償制度と近時の医療事故調査制度とを比べてみると、「産科医療補償制度と医療事故調査制度」の比較表にある通り、産科医療補償制度はいかんせん旧来型のスキームなので、既に古くなってしまった感は否めない。それに、「紛争の防止・早期解決」を制度目的として掲げたものの、産科医療補償制度絡みの重度脳性麻痺に関する訴訟だけが訴訟件数も提訴割合も近時、激増しているようである。つまり、「紛争の防止・早期解決」の制度目的は失敗してしまった。
それに対して、この新しい医療事故調査制度は実施から3年を経過したが、毎月31件くらいの医療事故報告件数となっており、当初の見積りのとおりで手堅く推移していると評しえよう。特に医療事故調査制度のために炎上した事例も生じていない。このまま手堅く推移し、全国に医療安全が推進されていくことが望まれている。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_249.pdf

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