医療ガバナンス学会 (2018年12月25日 06:00)
この原稿は月刊集中12月末日発売号からの転載です。
井上法律事務所所長 弁護士
井上清成
2018年12月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2 各種の院内事故調査マニュアル
診療経過の整理は医療機関自らが院内で行うべき、というコンセプトで、識見がある諸先生方によって各種の院内事故調査マニュアルがすでに公刊されている。
代表的なものをほんの少しだけ挙げると、日本医師会作成の「研修ワークブック 院内調査のすすめ方」、松村由美氏編著の「京大病院 院内事故調査の指針 医療安全管理部における対応の実際」、飯田修平氏編著の「院内医療事故調査の指針」などがある。いずれも優れたものではあるが、それぞれに力点などの違いもあるので比較しつつ参照されることをお勧めしたい。
なお、院内調査そのものではないが、院内調査のあり方に大きな影響を与えるものとして、医療事故調査・支援センターが独自に実施する「センター調査」がある。その「センター調査」のやり方について、医療事故調査・支援センターでは「センター調査・報告書作成マニュアル」を定めているらしい。もちろん、有識者が集まって作成したものであろうから、おおむね良好なものではあろう。しかしながら、かつてのスキームそのままの「個々の医療行為に対する医学的評価」や「標準的医療からの逸脱」といった類いの名残りが見られ、もうひとつ新しいスキームに移行し切れていないように感じられる。徐々にでも構わないので、着実に新しいスキームに移って行ってもらいたい。
3 事故調査・報告書作成に必須のポイント
もとに戻って、そもそも院内医療事故調査における必須のポイントは、何と言っても、「当該医療従事者のヒアリング」であろう。医療事故調査制度についての平成27年5月8日付け厚生労働省医政局長通知(9頁)においても「調査の対象者については当該医療従事者を除外しないこと。」、「当該医療従事者のヒアリング※ヒアリング結果は内部資料として取り扱い、開示しないこと。(法的強制力がある場合を除く。)とし、その旨をヒアリング対象者に伝える。」などと明示されている通りである。
さらに、院内医療事故調査を行った後に作成される「院内医療事故調査報告書」における必須のポイントは、何と言っても、報告書の「非識別加工」(注・「匿名化」よりも厳格。)であろう。医療事故調査制度に関する平成27年5月8日付け厚生労働省令改正により、医療法施行規則第1条の10の4第2項に「当該医療事故に係る医療従事者等の識別(他の情報との照合による識別も含む。)ができないように加工した報告書」と定めて、「非識別加工」が明文化されたのである。
このように、事故調査においては「当該医療従事者のヒアリング」が、報告書作成においては「非識別加工」が、それぞれ必須のポイントと言えよう。くれぐれも法令を順守して、適切な院内事故調査を実施してもらいたいところである。
4 自律的な医療安全推進を
以上、端的に「院内医療事故調査・報告書作成マニュアル」の要点を述べた。この目的とすることは、他律的ではなく自律的に、当該医療機関自身そして当該医療従事者自身が医療安全を推進していくべく活動してもらいたい、ということである。他律でなく自律こそが、本当に質・量ともにグレードの高い医療安全の推進につながっていく。
http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_266.pdf