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Vol.268 東京医大「女子差別」で露わになった医学部の闇 現役女性医師が憤激

医療ガバナンス学会 (2018年12月28日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(8月15日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2018080900083.html

山本佳奈

2018年12月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、東京医科大入試の「女子差別」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

【女子学生比率が高い医学部はどこ? ランキングはこちら】

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東京医大が入学試験において女子受験生を一律減点し、恣意的操作を行っていたことが発覚しました。それに加え、浪人生も不利に扱う点数操作が遅くとも2006年入試から続けて行なわれていたことも、調査によって報告されています。さらには、一般入試だけでなく、推薦入試や地域枠入試でも操作があった可能性があるといいます。裏口入学に続く、前代未聞の不祥事であり、海外でも報道され注目を集めているこの問題について、お話ししたいと思います。

東京医大は、女子の合格者数を3割程度に抑えていた理由として、女性は結婚や出産で医師を離職するケースが多いことや、短時間勤務になりやすい女性医師を増やしたくないこと、さらには緊急手術が多く勤務体系が不規則な外科系の診療科では、「女3人で男1人分」と、出産や子育てを経験する女性医師は男性医師ほど働けないことをあげていました。系列の病院で勤務する医局員不足を懸念しての「必要悪」であり、「暗黙の了解」であったといいます。

■東京医大の言い分を聞いて愕然

私は、東京医大の言い分を聞いて愕然としました。医学生を、自らが経営する病院で働く労働力としか考えていないと思ったからです。

一般に、女性の労働力率は、結婚や出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いたころに再び上昇することが知られています。これを「M字カーブ」といいます。女性医師も例外ではありません。平成18年度厚生労働科学研究「日本の医師需給の実証的調査研究」によると、女子医師の就業率は、医学部卒業後減少傾向となり、卒後11年目(36歳)で76.0%まで落ち込んだ後、再び回復しています。

■同期医師との給与格差が3倍に

確かに、結婚や出産を機に大学病院をやめる女性医師はいますが、多くは復職しています。ベビーシッターを雇いながら勤務を続ける医師もいれば、出産後すぐに復帰して第一線で働く医師もいます。さらに、多くの女性医師は、職場や働き方を変えながら医師を続けています。いや、生活を考えれば、そうせざるを得ないのです。東京医大の後期研修医の月収は20万円。残業代などがつくそうですが、これでは生活できないからです。東京医大の経営者にしてみれば「退職」なのですが、当事者の女性医師からしてみれば「転職」なのです。東京医大の経営者は、自分のところで働く医師にしか関心がないのでしょう。

私の大学の同期の事例を紹介したいと思います。彼女は、初期研修医中に出産し、産休を取ったのち復職しました。現在、後期研修医4年目として大学病院に勤務していますが、月収は20万円ほど。子育て中であるため当直はせず、定時勤務にしてもらっているものの、定時では当然ながら帰宅できず、なんとか保育園のお迎えに行っているといいます。また、残業代は出ないため、生活はギリギリ。一方、同期の男性医師は、医局の関連病院に勤務しているため、給与は3倍ほどあるそうです。彼女の大学病院での仕事は、検査や手術の立会いと入院管理。専門医を取得するまで頑張りたいけれど、このままでいいのか不安だ、といっていました。

■「裏口入学させればずっと働く医局員を確保」

今回の東京医大での事件を知り、私は、医学部の入試の目的は、労働力を選別し囲い込むことだと考える様になりました。大学経営者にとっては、卒業後医師として自らが経営する大学病院や系列病院で働いてくれる人を選ぶ採用試験なのです。入試の合否の基準に卒後の働き方が入っていることが、その証左です。この点で、裏口入学は意味があったのでしょう。コネ入社と同じで、医師になるための「切符」をくれた大学には頭が上がらず、医局員として一生働かざるを得ないのですから。大学の経営者にしてみれば、裏口入学させてあげるだけで、謝礼を得るだけでなく、ずっと働いてくれる医局員を確実に確保することができます。お安いご用なのでしょう。

実は、これは入試に限った話ではありません。医学部は教育機関ですが、学生を「将来の労働力」と見なしていると感じることが多いのです。これは東京医大に限った話ではありません。

こんなことがありました。

医学生時代、各科で実習する度に入局説明会や歓迎会に誘われました。そこで、「女医は医局に入らないと仕事を続けられない」と繰り返し言われました。ある外科を研修しているときには、女性医師が「女を捨てた」と言われているのを耳にしました。外科は出産や子育てなどはできないのだな、と学生ながら感じました。別の科では、オンオフがはっきりしているから女性も働きやすいよ、としつこく言われたこともありました。一番驚いたのは、産婦人科の40代の女性医師が、「私が結婚した当時は、子どもは産まないで必死に仕事をしなさい、と結婚式のお祝いの言葉で言われるような時代。それに比べたら今は良くなったほうよ」と言っていたことでした。典型的な「男社会」の中で、女性医師が生きて行くのは大変だと、その時、肌で感じたことを覚えています。

医局の勧誘だけでなく、今春導入された「専門医制度」も医師や医局員不足対策として「囲い込み」をしているにすぎません。専門医制度では、若手に「専門医」という肩書きをチラつかせ、医局員として働かせています。専門性とは一生かけて取得していくものではないのでしょうか。数年で取得できるはずがありません。まして、学会費を支払い、学会に参加し、決まった症例数と決まった年数をクリアすれば取得できるなんて、どう考えてもおかしな話です。「専門医」って何なのでしょうか。

ただし、これは教授からすればありがたいことなのです。最も働いてくれる30代前半までの医師を、専門医取得と称して囲い込む。そして、後期研修を終えれば、「雇い止め」し、新たな若手を「教育」という名のもとで縛り付ける。一般的なら、こんな有期雇用は認められないでしょう。

■「女子差別」問題が浮き彫りにした医師の囲い込み

女子受験生を一律減点し、恣意的に減らしていたことは「女子差別」であることに間違えはありません。けれども、根底に隠れている問題は、日本では「医学教育」という名の下、大学において入試や専門医の名を語った医師の囲い込みや就職活動が行われているという現状があることです。大学は本来、学生の味方です。優秀な人材を低コストで調達したい企業とは利益が相反することがあります。ところが、このことが全く認識されていないのです。

そもそも、医学教育に大学附属病院は必須ではありません。周辺の病院に協力してもらえばいいのです。米国では当たり前に行われている医学部と大学病院との分離を考える時期にきているのではないでしょうか。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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