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Vol.013 哺乳瓶の消毒には熱湯? レンジ加熱? ママ医師が指摘する消毒以外にも重要なこと

医療ガバナンス学会 (2019年1月21日 06:00)


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この原稿はAERA.dot(10月31日配信)からの転載です。

https://dot.asahi.com/dot/2018102900061.html

森田麻里子

2019年1月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

妊娠中にママ向け雑誌や育児書を読んでいて、一番不思議だったのは、哺乳瓶の消毒です。私の持っている育児書では、生後1カ月までは消毒するようにと記載されています。ネットを見ると少なくとも3~4カ月までとか、離乳食がはじまるまでと書いてあったりします。

確かに哺乳瓶を清潔に保つことは必要です。しかし、赤ちゃんといえばしょっちゅう指をしゃぶっているもので、当然指は雑菌だらけなのではないか、という疑問もあります。消毒までする必要は本当にあるのでしょうか? 消毒する必要があるとすれば、いつまでやれば良いのでしょうか?

哺乳瓶の消毒は、細菌から赤ちゃんを守るために行うのですが、実はミルクと関連する病気の原因菌はほとんど決まっています。「サカザキ菌」と「サルモネラ菌」です。液体ミルクは無菌なのですが、日本ではまだ販売されていません。しかし粉ミルクは、現在の製造技術では無菌にすることはできません。特にサカザキ菌は、土壌や水など環境中に多く存在する菌で、粉ミルクからもよく検出される上、髄膜炎などの重症感染症を起こすことがあります。1歳未満の赤ちゃんは感染のリスクが高く、特に危険なのは2カ月未満の赤ちゃん、早産や低出生体重児の赤ちゃん、そして何らかの理由で免疫抑制状態にある赤ちゃんです。

これまでにも多くのアウトブレイクが報告されており、2004年にはフランスで2人の赤ちゃんが亡くなっています。これを受けて、世界保健機関(WHO)は2007年に、粉ミルクの調乳を70度以上で行うようにという新しいガイドラインを発表しました。サカザキ菌は、71~72度に加熱すれば、およそ0.7秒ごとに10分の1の数に減らすことができます。これが、調乳温度が変更された根拠です。

実は哺乳瓶や調乳に使う道具の消毒も、このサカザキ菌の感染を防ぐのが主な目的です。というのも、粉ミルク自体ではなく、ミルクを溶かすために混ぜたスプーンや哺乳瓶を洗っていたブラシから、ミルクを通じてサカザキ菌に感染したと考えられるケースが過去にあったからです。サカザキ菌の一部の株は、特にシリコンやプラスチックの表面にくっついて繁殖し、バイオフィルムという膜を形成します。一般に、バイオフィルムが形成されると物理的に除去するのは大変で、薬剤への耐性も上昇すると言われています。できるだけバイオフィルムを作らせないことが大切ですし、バイオフィルムができてしまったら十分に消毒することが必要でしょう。このような観点から、WHOのガイドラインでは、哺乳瓶は1歳になるまで毎回消毒することになっており、イギリス国民保健サービスのホームページでもWHOのガイドラインに沿った内容が推奨されています(※a)(※b)。

一方で、アメリカでは消毒はしないのが一般的です。ミルクを作る際に勧められているのは、(1)ミルクを作る前に手を洗うこと、(2)哺乳瓶や哺乳瓶の乳首をよく洗うこと、(3)室温の場所に2時間以上置いてあったミルクは捨てること、の3つです。アメリカ小児科学会のホームページでも、食器洗い機を使うかお湯と洗剤で洗えば、消毒する必要はない、とはっきり記載されています(※c)。

消毒しなくても本当に大丈夫なのかについては、日本で行われた研究が1つありました。

2003年に大分県立看護科学大学から発表された論文では、哺乳瓶の消毒の必要性について検討する実験を行っています。哺乳瓶にわざと大腸菌などの細菌を付着させ、洗浄や消毒をした後に哺乳瓶に10mlの生理食塩水を入れて回収し、どのくらい菌が残っているかを比較しました。洗浄・消毒の方法は、98度/90度/60度のお湯を50ml哺乳瓶に入れて5分放置する方法、60mlの水を入れて5分/3分/1分電子レンジで加熱する方法、食器洗い洗剤とブラシで洗う方法、水道水とブラシで洗う方法の8パターンです。

その結果、60度のお湯や電子レンジ1分、ブラシを使って水道水で洗っただけの哺乳瓶には細菌が残っていて、ブラシ・水道水の哺乳瓶からは1ml中10~100個の細菌が検出されました。しかし家庭用の食器洗い洗剤で洗浄した哺乳瓶からは、90度以上の熱湯や電子レンジで3分以上消毒した哺乳瓶と同様に、菌は検出されなかったのです。菌がついた直後に洗浄しているので、バイオフィルムが形成されていないというのもポイントでしょう。1回だけの実験結果ではありますが、哺乳瓶を使った後にすぐ洗浄すれば、洗剤とブラシだけで清潔に保つことができることがわかります。

また、アメリカのガイドラインで消毒がないのは、食器洗い乾燥機が普及していることが一つの理由かもしれません。食器洗い乾燥機に入れれば、自動的に60~80度程度のお湯にさらされることになるので、サカザキ菌を減らす効果もある程度期待できそうです。

もちろん消毒するのがベストだとは思いますが、赤ちゃんはそもそも無菌ではないので、菌をゼロにするのを目指す意味は無いでしょう。どんな方法にしろ、菌が繁殖しないよう、道具を清潔に保つのが一番大切なことです。哺乳瓶は使ったらすぐに洗浄し、ブラシと洗剤を使って、ミルクの汚れをきちんと洗い落とすようにしてください。すぐに洗浄するのが難しい場合も、さっと水でゆすいでおくのがおすすめです。

そして赤ちゃんを感染から守るためには、手を洗うことも消毒と同じくらい、またはそれ以上に大切です。哺乳瓶を組み立てたり、調乳したりする前は必ず手を洗いましょう。夜中など、手を洗うのが大変なときは、手指消毒スプレーで手を消毒するのでも良いと思います。日本の粉ミルクの調査では、サカザキ菌が検出されたのは2~4%の検体で、その量も333グラム中1個と決して多いわけではありません。哺乳瓶の消毒が常識の国もあれば、そうでない国もあります。消毒ばかりが重視されがちですが、調乳前の手洗いや、ミルクを作ってからはなるべく放置しないなど、消毒以外の方法も合わせて、赤ちゃんを感染から守ってあげてくださいね。

(a)WHO“How to Prepare Formula for Bottle-Feeding at Home”

(b)NHS”sterilising baby bottles”

(c)アメリカ小児科学会 “How to Sterilize and Warm Baby Bottles Safely”

◯森田麻里子(もりた・まりこ)
1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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