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Vol.045 エネルギーという悪魔:(4)いわき平の寒椿

医療ガバナンス学会 (2019年3月11日 06:00)


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浜通り 永井 雅巳

2019年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現在クリニックのある平には市役所や市立美術館、イベントホールとともに震災後には多くの高層マンションが建つ。秋にもなると街路樹のヤマボウシは裸になった枝に小さな暗い赤い実をつけ、公園の欅はサラサラとその葉を散らす。イベントホールに隣接した小さな公園には欅の巨木以外にも樅(モミ)、椛(モミジ)や山毛欅(ブナ)や寒椿など高低様々な樹木があるのもこの街の特徴だ。ヤマボウシ実を齧るとほのぼの甘い。冬の赤い実と言えば、南天と梅擬(ウメモドキ)もある。正月の色だ。里山の中腹では、真っ赤な実を藤の房のように垂らした南天を見ることができるし、郷の家々の生垣には、梅擬が淑やかにその赤い実を飾っている。このような家には、間違いなく桃紅色の寒椿の花も見ることができる。寒椿は長くその花を楽しめるが、やがて霜枯れた庭地を桃紅色の絨毯で敷きつめることになる。

今年1月18日の各社新聞によると、日立製作所が進めていたイギリスでの原発計画が凍結となったようだ。昨年12月には三菱重工業が参画するトルコでの建設計画も断念にむけた調整に入ったらしい。2006年に経産省が主導し、政権と企業がタッグを組んで進めてきた原子力立国計画は頓挫した。頓挫には様々な要因があろうが、各国の為政者に対し、国民は原発にノーと言っているように思う。原発と経済の関連について、長島清一氏の「日本資本主義と原発事故」という優れた論文がある(商学論纂・中央大学・第55巻第5・6号、2014年)。少し長い引用となるが、文中、氏は「従来からの“原子力村”を温存させた災害便乗型資本主義からの決別の重要性」を説き、そのためには、「輸出主導型成長から内需主導型発展に転換しなければならない。
自然エネルギーを基幹とした脱原発社会を目標にし、第一次産業を自立化させて輸出産業へ成長させていかねばならない。国内に豊富に存在する自然エネルギーに立脚した地方分散型の地産地消の国土開発を地方が主体となって進め、過疎地を活性化させていけば地方の雇用増進にもなる。地方主導型の経済発展への転換である。また文化資産や社会資本の充実、医療・介護・教育などのサービス活動を充実させていけば、おのずと外国からカネやヒトは日本にやってくるだろう。日本が誇るべき文化や科学技術や知的創造力、そして緑豊かな国土環境を生かしていくようなグリーン経済化、いいかえれば、自然エネルギー社会・第一次産業を再生した社会・そして脱原発社会を建設することに成功すれば、輸出主導型経済から内需主導型経済に転換できるであろう。そして世界に脱原発の技術と自然エネルギー技術を輸出すべきであろう」と述べている。まさに、今、この国が傾注すべきは、原発を創ることではなく、いかに安全に廃炉にするかということだ。

さて、福島では震災以後、「再生可能エネルギー推進ビジョン」を掲げ、太陽光、風力、小水力、地熱、バイオマスエネルギーなどの開発・推進・導入を通じて、2040年ごろを目途に、県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで生み出すとしている。ただ、福島では県内の需要だけでなく、関東のエネルギー需要への対応も求められており、国ぐるみで推進しなくてはいけない喫緊の課題だ。地球温暖化による異常気象は単なる環境団体や未来の子供たちの問題ではなくなり、現代に生きる私達全ての問題となっている。

一方、2016年4月電力事業は自由化され、大電力会社の支配は終焉した。経産省の発表によると、電力の契約先を新電力に切り替えた家庭が2018年3月末で約622万件に達し、はじめて件数レベルで10%を超えたそうだ。新電力の中には、100%再生可能エネルギーを目指す有望なものも多数ある。たとえ、アーミッシュのような生活をしなくても、一人一人、一企業一企業の努力で、電力需要の削減はさらに可能となろう。石炭、原子力と、たった150年ほどの歴史の中で翻弄されてきた浜通りで、また石炭(火力)を推進するのではなく、クリーンエネルギーを大切に、少しだけ使っていく文化を創造しよう。

宇沢弘文先生は、“社会的共通資本”という概念を「一つの国あるいは特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」と定義し、その構成成分として、(1)自然環境(山、森、川、海、土壌、大気など)、(2)社会的インフラ(道、橋、水道、電力など)、(3)制度資本(教育、医療など)に分類した。そして、これらに属するすべてのものは、国家的に管理されたり、利潤追求の対象として市場に委ねられてはならず、それぞれの職業的専門化集団によって、専門的知見と職業的倫理観に基づき、管理・運営されなければならないと説いている。

また、現宰相は先立つ自民党総裁選の立候補を表明する演説の中で、子どもたちの世代、そして孫たちの世代に美しい伝統あるふるさとを、そして誇りある日本を引き渡していくために、あと3年、自民党総裁として、首相として日本のかじ取りを担うとその決意・覚悟を述べている。宰相に見えている美しい伝統あるふるさと、誇りある日本はどのようなものか。経済が優先するのではない、美しい伝統あるふるさと、誇りある日本を得るために経済政策があるのだ。一部の企業や富裕層を守るための経済政策ではなく、国民の多くが安心できる政策立案である。産業革命当時と異なり、富裕層が富めば中間層以下も豊かになる時代ではなくなった。富める者は益々富み、貧しいものは益々貧しくなっている現状がある。宰相ひとりに責任を負わすことはできない。われわれ全ての国民が、子の世代、孫たちの世代に美しい故郷を、誇りある日本を残せるよう考え、行動しなくてはいけない。国民は、一部の人たちから、この国を、この国や地球の将来を、守る義務がある。エネルギーという悪魔に対して、今、毅然と立ち向かう覚悟が求められている。

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