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Vol.046 相馬市の学会展示「震災と原発事故からの健康対策の取り組み

医療ガバナンス学会 (2019年3月12日 06:00)


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福島県相馬市 保健師
伊東尚美

2019年3月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

平成30年10月末に「第77回日本公衆衛生学会総会」が福島県郡山市で開催された。相馬市は展示ブースを出展し、「大震災、原発事故からの市の健康対策の取り組み」として、災害公営住宅「相馬井戸端長屋」とホールボディカウンターによる「内部被ばく検査」について、パンフレットやポスター、井戸端長屋の模型などにより紹介した。通常、学会は研究者がその成果を発表する場ではあるが、私たち自治体職員も現場から発信することで東日本大震災後の地域の実情を多くの方に知っていただくことができた。本稿では、相馬市のこれまでの取り組みの一部を紹介するとともに、当日のやりとりを紹介したい。

そもそも私が相馬市の職員として学会会場にいるなんて、1年前には想像もつかなかったことだ。震災後の福島のために少しでもお役に立ちたい、そんな思いで帝京大学大学院公衆衛生学研究科に入学した。課題研究では、富岡町のデータをお預かりし肥満の要因を検討する機会を得た。そのような時、同じ浜通りの立谷秀清・相馬市長の著書を読み、災害公営住宅を住民が集える長屋形式にする、というアイディアに興味がわいた。その「長屋」を回る保健師を探しているという話を頂き、二つ返事で引き受けた。「相馬井戸端長屋」は、高齢者向けの災害公営住宅であると同時に、震災前より相馬市が力を入れている孤独死対策も兼ねた、相馬市のユニークな施策である。NPOによる毎日の昼食配布が、また医師による健康相談や保健師による訪問が、体調不良の早期発見と早期の医療機関への受診につながった例もあり、超高齢社会に何らかの示唆や提案ができるものと思っている。この「相馬井戸端長屋」については、過去に森田知宏医師による報告もご参照いただきたい。http://medg.jp/mt/?p=5860

立ち寄ってくださる方々の生の声を聴けるのは、学会展示の醍醐味だ。「洗濯機や食堂がある共用室が『井戸端』で、情報交換や助け合いが生まれるという仕掛けに感心した」、「アパートで独り暮らしだったら近所の人の体調までは気にかけない」という感想があり、「普段から言葉を交わす以上の交流がなければ、災害時助け合う関係なんて難しいものだ」と災害に備えた平時のコミュニティのあり方にまで話は及んだ。「一人暮らしがしたいけど、孤独も避けたい人には良い」住居であるし、「周囲に迷惑をかけずに過ごしたいという日本的なものを感じる」という意見に私も同感だ。一方で、生きがいや健康づくりの視点から、「畑仕事をすることで自然と体を動かせて、育てる楽しみを持てるような自家用畑を併設できたら良いのでは」等の助言もいただけた。

さらに、相馬市では平成24年度から開始したホールボディカウンターによる「内部被ばく検査」についても展示した。平成29年度の放射性セシウム134、137の検出率は高校生以上の大人で99.59%、中学生以下の子どもで100%が未検出だ。現在の相馬市で生活を続ける上での慢性的な内部被ばくが問題となるレベルにはない。なお、「内部被ばく検査」の結果については、相馬市ホームページでも公表している。

https://www.city.soma.fukushima.jp/benri/kenko/h30_naibuhibaku_kouhyou.html

ここまで状況が改善していれば「これ以上被ばく検査を続ける必要がどこにあるのか」という問いも聞かれた。しかし、チェルノブイリ原発事故後、住民の内部被ばくが最も問題になったのは実は事故後10年以上経った時だ。被ばく検査を継続し、放射能教育を続けていく必要がある。そして差別の問題も避けられない。今となっては差別の報道も少なくなったが、自分が福島県の出身であることを言えない子どもたちもいる。また、「福島県出身者とは結婚させたくない」、病気になれば「被ばくしたからだ」「なぜ避難しなかったのか」など、今後も福島のこどもたちが不当な扱いを受ける可能性があることは、チェルノブイリ周辺の地域の住民が30年たった今も差別が続いていることを考えれば尚更だ。「内部被ばくがないことを証明し続けることは、福島の子どもたちの未来を守ることになるね」とはその通りで、自治体として被ばく検査を続けることの意義はそこにある。漁業の現状報告から「食品の徹底した汚染管理が行き届いていて、むしろ安全」と言った方、おっしゃる通りで、市販の食材だけを食べている方からは決して内部被ばくは検出されていない。「相馬の美味しいヒラメやホッキをまた安心して食べられる」と認識を新たにした方もいた。全国から学会に参集した皆さんに相馬市の現状を直にお伝えできたことは嬉しく思った。

市役所から自治体の職員として、被災地の健康対策の取り組みを学会の場で積極的に発信することができた。なかなか市町村レベルの取り組みを伝える機会は少なく、情報を共有できたのは大変有益だった。震災後の健康問題が気になっていた私に、相馬市で保健師の仕事が与えられたのは、ご縁があってのことだ。このタイミングで県内開催の日本公衆衛生学会に参加させていただけたのは何とも感慨深い。東日本大震災後の福島県は着実に復興への歩みを進めているが、今なお4万人を超える多くの県民が避難生活を続けている。避難の長期化や生活環境の変化で健康問題を抱えているのは、相馬市だけではない。相馬市役所の方々のご理解とご協力があって、このような情報発信の場を持つことができたことを
感謝したい。またこのような自治体で仕事をさせていただけることを感謝し、今後も地域の方々の健康にかかわっていきたいと気持ちを新たにした。

〇伊東尚美(いとう・なおみ)
福島県郡山市出身。福島医大看護学部卒業。総合病院看護師、福島医大看護学部助手を経て、2018年4月より福島県相馬市にて保健師。公衆衛生学修士。

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