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Vol.048 バレエ、フィギュアスケート…過度な減量が選手生命を奪いかねない理由

医療ガバナンス学会 (2019年3月15日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(12月19日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2018121400014.html

山本佳奈
2019年3月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

華やかなイルミネーションに包まれ、街はすっかりクリスマスモード。クリスマスをテーマにしたバレエ「くるみ割り人形」は、この時期にたくさん上演されます。わたしも、毎年欠かさず見に行く演目の一つです。

バレエは、筋力、強さ、持久力、柔軟性、敏捷性を必要とする舞台舞踊。そのために、厳しいトレーニングが欠かせず、細く締まった体格を維持しなければなりません。

余談ですが、バレエ好きが高じてレッスンに通うようになった私。軽やかに飛んだり回転したりしているように見えますが、想像以上にハードです。バレエの先生は、引き締まった体型でスタイル抜群。もちろん、バレリーナは皆すらっとしていて、骨折しないかしら、と心配になってしまいます。

実は、バレエに限らず、審美系のスポーツである新体操やフィギュアスケート、持久系のスポーツである長距離など多くの競技で、女性選手は減量をしているといいます。厳しいスポーツの世界で戦う上で、痩せ体型となることが競技パフォーマンスをあげるために有利であるとされがちであることや、審美を気にするあまり、食事摂取量を減らしてしまうことが原因です。

しかしながら、過度な減量は選手生命を奪いかねません。継続的に激しいトレーニングを行う女性は、利用可能なエネルギーが不足する(low energy availability: 利用可能エネルギー不足)リスクがあります。運動によるエネルギー消費量が、食事によるエネルギー摂取量を上回った状態です。中には、極端な食事制限や、食事を摂取した後に嘔吐するなど、摂食障害を引き起こしているケースもあります。

この状態が続くと、女性ホルモンや骨代謝に異常をきたします。エネルギー不足が続くと、脳から女性ホルモンの分泌が低下し、排卵がなくなる無月経に陥ります。無月経が長く続き、女性ホルモンの量が少なくなってしまうと、骨密度は低い状態にとどまってしまうことになり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を引き起こしてしまうのです。low energy availability、無月経、骨粗鬆症は、女性アスリートの「三主徴」と呼ばれています。

2016年5月11日の米国の地方紙において、女性アスリートの健康に関する記事が大きく取り上げられていました。ダイエットによる貧血、月経周期の乱れ、骨密度の低下の3つの問題が、女性アスリートの健康に大きな影響を与えているのだと。米国における女性アスリートの健康についての問題意識の大きさが伺えます。

新聞で取り上げられていたこれらの問題について、バレエダンサーにおける報告もたくさんあります。

2011年、米国の調査によると、バレエを学ぶ女子学生239人の52.3%が、疲労骨折や骨折、腱鞘炎の経験があること、そして断食29.3%、嘔吐9.6%、下剤の使用4.2%などによって体重の制御を行なっており、食の行動が乱れていることがわかりました。

また、2005年のセルビア・モンテメグロの研究者らが、女性のバレエダンサー30名と運動をしていない女性30名を比較検討したところ、バレエダンサーの半数は痩せ(BMIが18.5未満)であることがわかりました。また、バレエダンサーの20%が無月経であり、10%は稀発月経(月経周期が39日以上)であることもわかったのです。

少し古い報告ですが、1987年、国立および地域のバレエ団の成人のバレエダンサー55人を対象とした調査によると、なんと56%のダンサーの生理が遅れており、19%は無月経。さらに、バレエダンサーの3分の1が、拒食症または過食症といった食事に関する問題を抱えていることもわかりました。

さらに、2015年、ニュージーランドのマッセー大学が、オークランド在住の13歳から18歳の女性の若手のバレエダンサー47名を対象に行った調査によると、13名(28.3%)がフェリチンの値が20μg/L未満であり、そのうち4名が鉄欠乏状態(フェリチン値12μg/L未満、ヘモグロビン12.0g/dl以上)、1名が鉄欠乏性貧血(フェリチン値12μg/L未満、ヘモグロビン12.0g/dl未満)でした。バレエダンサーは、鉄欠乏状態のリスクに晒されていることが報告されたのです。

実は、痩せの問題は、アスリートに限りません。スペインやイスラエル、ベルギーやイタリア、チリなどの国々では、痩せすぎのモデルをファッションショーに出演させることを法律で禁止しています。

2017年5月には、ファッションの中心地であるパリでも、極端に痩せているモデルの活動を禁止する法律が施行されました。フランスではスリムなモデルに憧れるあまり、多くの女性が拒食症に陥っています。法律の施行は、そんな現状改善を促すことが目的だと言います。

日本はどうでしょうか。日常生活において、ダイエットの広告に目に触れないなんてことはありません。実は、第二次世界大戦以降、日本人女性の痩せが問題視されています。2002年以降、若年女性の摂取エネルギーは終戦後すぐの都市部の平均摂取エネルギーを下回っています。ランセットに掲載された、1975年から2014年までの世界200カ国の成人におけるBMIを調べた調査によると、痩せの日本人女性は、1975年の440万人から2014年の570万人に増加していたことがわかりました。

アスリートだけでなく、現在の日本人女性にとって痩せることは大変関心が高いと言わざるを得ません。けれども、減量やダイエットに歯止めがきかなくなり、摂食障害、月経不順や無月経、さらには骨粗鬆症まで引き起こしてしまうことになりかねません。綺麗になりたいと思い減量すると、将来にまで影響を与えてしまうということを、どうか忘れないでくださいね。

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