医療ガバナンス学会 (2019年4月5日 06:00)
この原稿はAERA dot.(1月16日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2019011100053.html
山本佳奈
2019年4月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
さて、今年の年末年始のことです。5年ぶりに実家で除夜の鐘の音を聞くことができたものの、ゆっくりと正月を迎えるというわけにはいきませんでした。毎年欠かさず作ってくれていた祖母のおせち料理を食べることもできませんでした。というのも、祖母の認知症が想像以上にひどかったからです。
まさか自分の家族がなるとは思ってもみなかったのですが、突如として身近な問題として降りかかってきた「認知症」について、今回はお話ししたいと思います。
内閣府の平成29年版高齢社会白書によると、2012年の日本における認知症の高齢者数は462万人。65歳以上の高齢者の約7人に1人の割合ですが、2025年には約5人に1人になると推計されています。
世界保健機関(WHO)によると、世界中で認知症を患っている人は約5000万人。2030年には8200万人、2050年には1億5200万人に達すると見込んでいます。認知症は、世界中で問題となっているのです。
■きっかけは地震だった?
そもそも、80歳を過ぎた私の祖母の認知機能が低下し始めたのは、昨夏頃からでした。昨年6月18日、朝方に大阪府北部を襲った最大震度6弱の地震がどうもきっかけになっているようなのです。
それまで自転車を漕いで買い物に行き、料理や洗濯、掃除など自分の身の回りのことすべてを自らやっていた祖母が、震災後、「一人でいるのは怖い」と言うようになりました。そして、テキパキと動いていた祖母が、だるい、疲れたと言って、寝込むことが多くなったというのです。すると、次第に「通帳がない、お金がない」などという発言が増え、挙句の果てには、「お金を盗まれた、薬を(飲んだのに)飲んでいない、ご飯を(食べたすぐ後から)食べていない」と毎日のように言うようになったのです。そう、認知症です。
帰省中、一緒に夕食を食べた矢先に、「ご飯はまだなの」と聞く祖母の姿を目の当たりにしました。今まで、認知症の患者さんには接してきましたが、まさか自分の家族が認知症になるとは思ってもみなかった(正しくは、家族が認知症になってほしくない、と願っていた)私は、認知症の祖母に、どう接していいかわからくなってしまったのです。
現在、アルツハイマー型認知症の進行を遅らす薬は開発されていますが、根本的に完治させる治療法はないのが現状です。となると、認知症を予防するにはどうすればいいのか、認知症のリスクを上げる原因は何か、といったことが気になるところですよね。
■認知症リスク要因の調査
米国のジョンズ・ホプキンス大学のRebecca医師らが、米国の4つの地域の44~66歳の15744名を対象に25年間追跡調査した結果、喫煙や糖尿病、高血圧とその後の認知症のリスクの上昇が関連していたことがわかりました。
また、スウェーデンのヨーテボリ大学のHelenaらが、スウェーデン女性191名を対象に44年間追跡調査した結果、有酸素運動の強度が高いほど、認知症のリスクが減少することがわかりました。また、中程度と比較して、強度が高い有酸素運動は、認知症の発症年齢を9.5歳遅らせ、認知症発症までの時間を5年遅らせたのです。
さらに、米国のボストン大学のMatthewらが、45歳以上の脳卒中の患者2888名と、60歳以上の認知症の患者1484名を対象とした調査によると、砂糖の甘味飲料水は、脳卒中や認知症と関連がなかったものの、人工甘味料の入った飲料水の摂取量の増加は、脳卒中や認知症との関連があることがわかりました。
人工甘味料の入った飲料水は、日本であればどこでも手に入る環境があります。意識せずとも、そういった飲料水を飲んでいる方はきっと多いのではないでしょうか。
■権威ある医学誌には…
世界的に権威のある医学誌「NEJM」が2017年12月19日に掲載された総説には、残念ながら「高齢者の認知症予防のための魔法の得策はない」とはっきり書かれています。人工甘味料の飲料水を控えることや、定期的な運動、糖尿病の予防または管理、禁煙、健康的な食事と体重の維持など日々の心がけを行うことが、今のところ、認知症の予防や健康に過ごす近道なのでしょう。
認知症になりたいと思っている人はいないと思いますが、なってしまったとしても自分ではそんな状況を理解できないのが「認知症」。普及し始めた遠隔診療とまでは行かずとも、介護している両親や祖母の離れた場所からでも可能なこのようなサポートをしたいと考えています。