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Vol.071 インフルエンザ流行の陰で急増「リンゴ病」 大人もかかる厄介なその症状とは?

医療ガバナンス学会 (2019年4月19日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(1月30日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019012800042.html

山本佳奈

2019年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

インフルエンザの流行の陰で、昨年10月以降、首都圏や東北を中心に患者数が急増している「伝染性紅斑」。昨年11月22日には、伝染性紅斑の患者数が都の警報基準を超えたとして、流行に対する注意喚起が発令されました。今年に入っても、小児科定点医療機関約3000カ所からの患者報告数(1月7~13日)が、過去10年の同期と比較して最多となりました。

両側のほほが真っ赤になり、まるでリンゴのように見えることから「リンゴ病」とも言われているこの疾患。子どもの病気であって、大人はならないのでは? と思っていませんか。

そんなことはありません。幼少期にかかったことがなければ、大人になってからも罹患することがあるこの疾患。実は、私も大人になってから、両ほほが真っ赤になり、リンゴ病だとわかったことがありました。

リンゴ病は春から夏にかけて、そして4~5年周期で流行がみられるのが特徴です。近年では、2007年と2011年、そして2015年に全国的な流行が見られました。今回は、自身の経験をもとに、流行中の「伝染性紅斑」についてお話したいと思います。

■警報レベルを超えている地域も

国立感染症研究所の報告によると、第52週(2018年12月24日から30日)の全国の患者報告数は2168人。定点報告数(1医療機関当たりの平均患者報告数)は0.7人でした。過去10年で最も流行した2015年の第52週の定点報告数は0.83人ですから、いかに流行っているかが分かるのではないでしょうか。

都道府県別にみてみると、東京都(382人)が最も患者数が多く、ついで、宮城県(269人)、神奈川県(219人)と続いています。東京都や宮城県、新潟県や山形県などでは警報レベルを超え、自治体ごとに注意喚起がなされています。

伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19というウイルスによる感染症。咳やくしゃみなどに含まれるウイルスを吸い込むことによる飛沫感染が主な感染経路です。感染から5日から10日を経て、発熱、鼻づまり、頭痛、吐き気、下痢などの症状が現れます。こうしたインフルエンザに似た症状は、5日間ほど続きます。

その後、頬に紅斑が現れ、数日後には体幹や四肢にも紅斑が出現します。頬のリンゴのような紅斑は1日から4日で消失し、体幹や四肢の紅斑も1週間程度であとを残さず消えてしまいます。

また、発疹の有無に関わらず、手や手首、膝や足などに関節痛や関節炎といった関節症状も出現します。子どもよりも成人に、そして女性でより多くみられることが特徴です。

■インフルエンザに似た症状

両ほほや体幹・四肢の紅斑は、小児ではよく見られますが、成人の場合、典型的な発疹を示さないこともしばしば。そのため、風疹と診断されているケースは、小児よりも成人に多い可能性があることが指摘されています。風疹のような発疹や関節痛・関節炎をきたした627名の抗体を調査したところ、229例で風疹の感染、43例でヒトパルボウイルスB19の感染、7例で麻疹の感染を確認したという1987年の報告からも、診断が難しいケースが多いことがわかるのではないでしょうか。

リンゴ病で厄介なのは、両ほほの紅斑など、目に見えて症状があらわれる頃には、ウイルスの感染力はすでに失われていること。実は、発熱、鼻づまり、頭痛、吐き気、下痢など、インフルエンザに似た症状の時が、最も感染力を持っている期間であり、気がつかないうちに、ほかの人にうつしてしまっている、ということになります。

しかし、臨床医のための調査研究などがまとめられている「UpToDate」によると、感染した人の約25パーセントは無症状です。約50パーセントは倦怠感、筋肉痛、そして発熱といったインフルエンザ様の症状しかなく、残りの25パーセントで、紅斑や関節痛がみられるとのこと。感染していても、よくわらないうちに元気になったというケースも少なくないのです。

前述しましたが、私自身、このリンゴ病になりました。実際、伝染性紅斑だとわかったのは、両ほほがリンゴのようになってからでした。その1カ月ほど前から下痢や頭痛、倦怠感が続き、時には頸部の痛みや全身がとても痛く感じ、一日中寝込んでしまうこともありました。まさに、私の体の中ではウイルスが増え、“教科書通り”の症状が出ていたのですね。

実は、風疹の異型と認識されていた伝染性紅斑。1975年、CossartらによってヒトパルボウイルスB19が発見され、独立した疾患であることが確立されました。1985年には、健康な人のボランテイアにヒトパルボウイルスB19を鼻腔内に接種し、どんな症状が現れるかを観察した調査も行われています。

■妊婦感染は胎児貧血や流産の可能性も

パルボウイルスB19感染症には、予防のためのワクチンはなく、特別な治療もありませんが、自然に治癒する疾患です。しかし、妊婦さんや免疫不全、溶血性貧血の方は注意が必要です。日本人の妊婦さんの抗体保有率は、20~50%ほど。妊婦さんが感染すると、流産、子宮内胎児死亡、胎児水腫や胎児貧血など、胎児の合併症を引き起こす可能性があるので、近しい人がリンゴ病になったら、一度相談してみてください。

1992年にロンドンの病院でパルボウイルスB19感染が発生した際、患者さんとの接触後に手洗いを徹底しなかった職員の間でパルボウイルスB19感染の危険性が高まったことを示唆していたことを報告する論文もありました。手洗いうがいや飲食を共有しないことが予防の上で大切です。

幼少期にリンゴ病にかかったことがない、記憶がない方は、覚えておいてくださいね。

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