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Vol.070 最高の医療を受け続けるために、いまやるべきこと

医療ガバナンス学会 (2019年4月18日 06:00)


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https://compass.healthcare-ops.org/entry/2019/03/28/225213

この原稿はHealthcare Compass (3月28日配信)からの転載です。

小迫 正実

2019年4月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆「世界最高」の日本の医療システムが危機に瀕している
人によって解釈は異なると思うし、世界最高なんてデータはないが、私は日本の医療システムは最高だと思っています。
実際のデータを元に、できるだけ最新の情報を参照すると、Bloombergが発表している医療制度の効率性を世界56カ国でランキングした調査では、日本の医療制度は世界7位になっています(参照:https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-09-19/u-s-near-bottom-of-health-index-hong-kong-and-singapore-at-top )。

ちなみに、日本人の医療者の多くが留学するアメリカは同ランキングで54位で、総合診療医の制度で有名なイギリスは35位、日本の医療制度と似ている部分が多いといわれるフランスは16位です。経済成長著しい中国は20位。

人口規模とGDPを考慮すると、日本の医療制度が先進国の中でかなり上位にいることが間違いないでしょう。
その世界7位と評される日本の医療制度は、2つの軸によって支えられています。
・国民皆保険
・フリーアクセス
先人が築いた2つの仕組みによって、私たちは気軽に診療所や病院を受診でき、病気で自己破産することなく生活できるといっても過言ではありません。

ただ、この素晴らしい医療制度、正直いつまで現状を維持できるかわからない状態にまでなっています。

この記事では、少しだけ「国民皆保険」と「フリーアクセス」についてまとめたあと、現医療制度の抱える課題と、私が考える対応方針についてお話しします。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-1.pdf

◆国民皆保険とは?
私たちが医療機関にかかる際、だれもが保険証を提示します。そのおかげで、原則的に医療費の3割のみを医療機関に私たちは支払います。残りの7割は、働く人が納めている保険料と公的資金(国や地方公共団体)で負担しています。
この医療保険には種類があります。
・健康保険
・船員保険
・共済組合等の短期給付
・国民健康保険

医療保険にはさまざまな制度がありますが、これらの制度によって、国民全員が、職業を問わず何らかの医療保険制度に加入することが可能となっています。これを国民皆保険と呼んでいます。
(参照:https://www.ajha.or.jp/guide/4.html#p2)

この制度のおかげで、日本に住む人は、民間保険なくして安価に、医療サービスを受けることができます。

ちなみに、みんなが大好きなアメリカでは、前オバマ政権で「オバマケア」を始めました。オバマケアは、国民皆保険を参考にしたとも言われますが、実際は

保険会社に価格が安く購入しやすい保険の提供や既往症などによる保険摘要の差別などの禁止あるいは緩和を課し、その代わり健康保険を購入していない個人には確定申告時に罰金(追加税)を科すことで今まで保険購入をためらっていた階層に購入を促すもの
(参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%BB%E7%99%82%E4%BF%9D%E9%99%BA%E5%88%B6%E5%BA%A6%E6%94%B9%E9%9D%A9_(%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB) )
です。

◆フリーアクセス
国民皆保険と並んで、日本の医療制度を根幹を成すのが「フリーアクセス」です。厚生労働省の資料の中でも、

どの医療機関でも受診可能であり、世界最長の平均寿命を達成するなど、世界の中でも高い保健医療水準を実現
と言及するほど、私たちの健康を維持するために欠かせない仕組みと位置づけています。
(参照:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000184301.pdf )

昨今は患者の大病院志向が高まり、診療所で済むような病気でさえ大病院を受診することが問題になっていました。その問題に対応するため、
紹介状なしで一定規模以上の病院(特定機能病院と、許可病床400床以上の地域医療支援病院)にかかる際には選定療養費を徴収することが義務付けられるようになりました。
(参照:https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/602527/ )

総合診療医の制度で有名なイギリスでは、総合診療医(自分が登録しているクリニックの医師)を受診してからでないと専門医療機関を受診できない仕組みになっています。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-2.pdf

◆現医療制度の抱える課題
日本の人口は2010年あたりから減少し始めています。人口が減少するということは、若者が増えず、高齢者の割合が増えていくことと同じ意味です。
2065年には、日本の人口は9000万人を割り込み、高齢者は38%台になると推測されています。これは、2016年と比較すると、10ポイントも増加しています。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-3.pdf

(参照:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000204028_1.pdf )
高齢者が増え、若者が減り、労働人口が減っていく中で、足元の医療費はこの20年間右肩上がりです。

このままの仕組みを続けるのであれば、医療費は更に増加していきます。そして、医療費の36.3%(2016年)を占める75歳以上の後期高齢者医療費は、さらなる割合を占めることになるでしょう。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-4.pdf

(参照:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000204028_1.pdf )

つまり、このままでは、税金や保険料を支える労働人口が減っていくにもかかわらず、彼らの税金や保険料で賄われる医療費が増えてしまい、医療制度が「破産」してしまうことは確実です。

医療費は、税金や保険料で賄われると書きましたが、実際の割合はどのように変化しているのでしょうか?

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-5.pdf

(参照:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000204028_1.pdf )
ここ10年の動きでは、増加する医療費を公費でカバーしています。公費の中でも、地方公共団体の負担が増しています。

公費の負担が大きいのであれば、「保険料を増して今後対応すれば?」という考えもあります。しかし、これには保険組合側にも言い分があります。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-6.pdf

1 人当たりの保険料負担額は、10 年間で 98,978 円増加しています。

この理由は高齢者医療費に対する拠出金が年々増えているからです。拠出金負担のため、保険料率を 2017 年度に引き上げた健康保険組合は、214 組合にのぼります。
(参照:https://www.kenporen.com/thinking/annual_report/pdf/kenporen2016.pdf )

つまり、保険者側も、医療費のための拠出金が原因で経営が赤字になっていて、保険料比率を増やしてる現状があります。

すると話はもとに戻って、増加する医療費に対してさらなる公費を追加するしかないのでしょうか?
ここで、国家予算である一般会計予算と医療費をカバーしている保険料を可視化してみてみましょう。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-7.pdf

(参照:http://kaz-ataka.hatenablog.com/entry/20180526/1527308271 ,
https://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201704_00_kanryaku.pdf , https://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/201604_00.pdf )

私たちは、国を動かすお金が全体で170兆円近くあるのに対して、70%の120兆円を年金・介護・医療に使っています。

大学など研究費や公共事業、国の防衛や経済協力に使えるお金は、約26兆円しかありません。これ以上、産業や学究への投資が減ると、国力そのものを弱め、先進国から外れてしまう可能性があります。

また経済成長とともに人間の寿命は成長してきました。(参照:https://www.gapminder.org/tools/#$chart-type=bubbles )

健康の維持促進のためにも、国家予算を産業や教育、研究に回すべきだと考えます。

◆わたしが考える対応方針
医療費個別で見ても、公費負担も保険者負担も増加し、国家予算規模でもこれ以上社会保障費用を増やしていくのは得策だと思えません。

私が考える対応方針は、大きく2つあります。
1.診療報酬をマイナス改定して、医療費の蛇口を絞る
2.患者の自己負担比率をあげて、公費負担を軽くする

1. 診療報酬をマイナス改定して、医療費の蛇口を絞る
以前の記事でお伝えしたように、
・医療法人は、全体の約34%が赤字
・自治体による病院は繰入金を含めなければ9割が赤字

ですが、診療所の損益率は、一般診療所で13.8%。さらに個人が経営している一般診療所の損益率は、31.8%もあります。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-8.pdf

(参照:https://compass.healthcare-ops.org/entry/2019/03/19/113000)
診療所を優遇した現行の診療報酬体系の改革を推し進め、診療所で出すぎている利益を抑制することが、医療費削減のひとつの策であると私は考えます。

2. 患者の自己負担比率をあげて、公費負担を軽くする
患者の自己負担比率を上げる方法は2つあると考えています。
1.後期高齢者制度の改定
2.ある一定の金額以下の診察費自己負担比率の改定

大きなメスを入れる必要があるのは、後期高齢者医療制度。
75歳以上の医療費は、全体の45%を占めています。現在は後期高齢者医療制度によって、条件に合致した75歳以上は1割負担になっていますが、全て3割負担にせざるを得ないと思います。

もうひとつは、突飛かもしれませんが、ある一定の金額以下の医療費自己負担比率の改定という案もあります。
これは、決めた金額までの患者の支払いを変動負担にするものです。
例えば、3000円に設定した場合は、医療費3000円までは、患者100%負担。
医療費10000円までは、固定の3000円。医療費が10000円を超えると、3割負担にする。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_070-9.pdf

高額ではない医療費の自己負担の幅を増やすという考え方です。

◆まとめ
・日本の医療制度は世界7位ですが、経験的には世界最高。
・日本の医療制度は、2つの軸によって支えられています。
1.国民皆保険
2.フリーアクセス

・今後日本では、高齢者が増え労働人口が減っていく中で、策を打たない限り医療費は右肩上がりの増加をします。
・さらに、公費での負担も保険者の負担も増加し、国家予算規模からみてもこれ以上社会保障費用を増やすのは、日本の未来を考える上で得策ではありません。
・私が考える対応方針は、大きく2つあります。
1.診療報酬をマイナス改定して、診療所向けの利益率を下げる。
2.患者の自己負担比率をあげて、公費負担を軽くする
・後期高齢者の自己負担率を3割に引き上げ
・一定金額以下には患者負担率の変動性を導入

税金や保険料を支える労働人口がが減っていくにもかかわらず、彼らの税金や保険料で賄われる医療費が増えれば、医療制度が「破産」し、私たちの健康のベースとなっている国民皆保険やフリーアクセスまでを享受することができなくなります。

それを防ぐためにも、今こそ、大きな制度の改革を推進しつつ、同時に自分たちの未来への投資や準備を始めるべきでしょう。

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