最新記事一覧

vol 97 ワクチン施策のゆく末:屋上屋を重ねる予防接種法改正案への苦言

医療ガバナンス学会 (2010年3月16日 07:00)


■ 関連タグ

森兼啓太
山形大学医学部附属病院検査部

2010年3月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


MRICではこれまで様々な識者の方々からワクチン施策に関する展望、苦言、提言がなされてきた。筆者も、昨年10月から今年1月にかけて新型インフルエンザの国産ワクチン施策および輸入ワクチンの認可に関わってきた立場から、ひとこと言わせて頂きたく文章をしたためる。

日本のワクチン施策にまつわる問題は多岐にわたる。認可の遅れ、無過失賠償免責制度の欠如、国内ワクチンメーカーの弱小体質と護送船団方式、予防医療への医療保険体制の無理解、などなど。そこに訴訟なども絡んである意味で泥沼化していると言える。これを短期間ですっきりと解決できるとはとても思えない。

さらに、ワクチン施策に関しては総合的な判断が求められる。効果と副反応、費用や接種体制など、様々な要因を勘案することが必要であり、個々の意見が往々にして異なる。国産ワクチンの接種回数で混乱があったことは記憶に新しいところであるが、上記の要因に拠る面も大きいと考える。

新型インフルエンザの流行が下火になってきた2009年12月25日、第1回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会が開催された。この部会は、新型インフルエンザ特措法の審議において、全般的に予防接種のあり方を見直すべきだという意見が多数出されたことを受けて、新たに設けられた、と議事録にある(1)。部会ではある委員が「20年間諸外国と比べてワクチン接種に関する状況が動かなかったことについて、国はどのように総括しておられるか」とたずねたところ、上田健康局長はこう述べている(1)。「実は私自身も20年以上ワクチンの問題を担当しておりまして、(中略)確かに我々の政策は揺れたところはあるのだろうと思います。」そして最後に「不退転の気持ちで今回の大改正に取り組んでいきたいと考えているところでございます。」と。

このように部会は高邁な理想を掲げて発足した。しかし、その後5回にわたって開かれた部会では、新型インフルエンザ(2009年A(H1N1))のワクチンを予防接種法にどう位置づけるかという、非常に視野の狭い議題に集中して審議が行われている。同部会の議事録や資料等が掲載されているウェブサイト(2)では、第3回までしか議事録を見ることができないが、例えば第5回の「資料1:残された論点について」(3)を見ると、努力義務と勧奨の関係が一般論として一見分かりやすく提示されているようであるが、実際には2009年A(H1N1)のワクチンをどこにはめこむかという技術論に矮小化されている。

そもそも現行の予防接種法は複雑である。まず、定期予防接種に1類と2類がある。1類は「集団として発生およびまん延を予防」するのが目的とされ、国民に接種の努力義務を課す根拠が明確である。しかし2類の定期予防接種(季節性インフルエンザワクチン)は、「個人の発病又はその重症化を防止し、併せてまん延予防に資する」となっているが、極めてあいまいである。まん延を防止するなら国民に努力義務を課し、費用は無料とし、副反応に対する救済は十分に行うべきである。そうでないなら、定期予防接種に位置づける必要がない。ところが実際には主に65歳以上の国民の重症化阻止を目的としており、まん延防止を目的としているとはとても思えない。そして、この上にさらに臨時接種という、現在はまん延防止のための接種の緊急性が低いが、状況次第で緊急性が急に高まる可能性のある類型を位置づけている。

第5回までの会議で、この複雑な類型に対してさらに「新・臨時接種」なるカテゴリーを設けることが提案されている。第1回の会議では、新型インフルエンザ特措法の審議において、「全般的に」予防接種のあり方を見直すべきだという意見が多数出されたことを受けた部会であることが明確にされている。だとすればなぜ、2009年A(H1N1)を類型にはめこむために、無理矢理カテゴリーを新設する必要があるのか。ただでさえ複雑な予防接種法の類型をさらに複雑にしてどうするのか。特措法下での接種のままで何がいけないのか。厚労省、および部会はこの点を明確に国民に説明する必要がある。なぜなら、疾患のまん延で困るのも、その防止で利得を得るのも、また費用負担するのもすべて国民だからである。3月15日の第6回の会議で、どのような法改正案が事務局から提示されるか、注目に値する。

(1) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/txt/s1225-29.txt
(2) http://www.mhlw.go.jp/shingi/kousei.html#yobousesshubukai
(3) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0219-9b.pdf

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらにメールをお願いします。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ