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vol 98 産科・小児科医療とメディエーション

医療ガバナンス学会 (2010年3月17日 07:00)


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第3回 日本医療メディエーター協会公開シンポジウム
「産科・小児科医療とメディエーション」に出席して

国立がんセンター
医師・弁護士
大磯 義一郎
2010年3月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1 メディエーターは順調に増加
2007年3月に発足した日本医療メディエーター協会は、今年で3年目を迎える。2007、2008年に日本医療評価機構、早稲田総研インターナショナル、日本メディエーター協会等で行われた医療メディエーター研修受講者は延べ2025名であり、2009年度分を加えると延べ3000名を超える医療関係者が研修を受けたこととなる。
また、今回講演された「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会、「医療を支える関西オカンの会・・・時々、オトン」に代表されるように、メディエーションに理解のある市民団体も順調に増加している。
今回行われたシンポジウムにも多くの医療者・患者・市民が来場しており、メディエーションに対するニーズが高いことを示しているものと思われる。

2 患者・市民の基底にあるのは不安
「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会、「医療を支える関西オカンの会・・・時々、オトン」は、いわゆるコンビニ受診について、患者・市民が病気について知る機会がなく、相談相手もいないため、不安に思っていることが大きな要因となっていると指摘する。
また、「核家族化が進み、身近に相談相手がいない」、「自分の子どもを産んで初めて赤ちゃんを抱く人が多い」、「母親学級・乳児健診では子どもの病気について知る機会がない」、などの理由から、「子どもの病気に不安を感じている」と答えた母親は7割を超える。軽症・重症に関わらず、とにかく心配だから受診するという母親が多いといった傾向が示された。

その解決方法として、「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会では、子どもの病気についての講座を開催するとともに、子どもの病気に関する小冊子を作成し、母親学級、乳児健診での配布を依頼するといった活動を行っている。

3 高度化・専門化による弊害
元来、専門的である医療が、高度化・専門化によって、理解のために必要な知識がさらに増えたことや、高齢化により一人の患者が複数の疾患を有することが多くなったため、一人の医師が患者の病状全体を見渡すことが難しくなっていることは、しばしば指摘される。
それに加え、各種作成書類の増加や、入院日数の急激な短縮により、医療者の業務量が著しく増えたことによって、患者とゆったりとコミュニケーションをとる時間の余裕がなくなってしまった。その結果、医療者と患者間のコミュニケーション不足による弊害が顕著に表れるようになった。

以上のように医療者側、患者側に生じた様々な問題が重畳して、医療者と患者間の信頼関係の構築が妨げられているといえる。

4 事故発生時のメディエーションは説明義務・顛末報告義務の履行
和田先生の説明によると、メディエーションとは医療現場での対話促進・関係調整のソフトウェアであり、またその姿勢を体現する理念でもある。それが生かされる場面は様々であって、苦情・事故発生時の対話の場の設定と説明・対話支援や、インフォームド・コンセントのプロセス支援、日常診療でのコミュニケーション促進など医療のあらゆる場面で患者と医療者の情報共有に貢献する。ただし、損害賠償や法的責任の確定などの過程にはかかわらず、あくまでも関係の調整が目的である。

したがって、現在の医療現場で医療者・患者双方からメディエーションは必要とされ、かつ、支持されているのである。では、メディエーションは法的にはどのように位置づけられるか。医療事故があった際の説明・対話支援に係るメディエーションを例として以下に示す。

「受任者である医療機関ないし医師は,診療契約上の債務ないしこれに付随する債務として,患者の治療に支障が生じる場合を除き,委任者である患者に対し,診療の内容,経過及び結果を報告する義務があるといえ,このことから,委任者である患者について医療事故が起こった場合,委任者である患者に対し,医療事故の原因を調査し,報告する義務があるといえる。」(京都地判平成17年7月12日判例時報1907号112頁)
したがって、医療機関は診療契約上の義務(顛末報告義務)として患者(患者死亡の場合にはその遺族)に対し、その原因を説明しなければならないのであり、メディエーターは、患者に説明をする際に、場を円滑に進め医療機関の義務履行を十全とする役割を果たすのであるから、診療契約上の義務履行の一部を行う者というように位置づけられる。

なお、メディエーターの医療機関との雇用関係については、上記のとおりであるから、常勤雇用であれ、非常勤雇用であれ、診療契約上の義務履行を行う上で何ら問題はない。

5 益々のメディエーションの発展を願う
このように、様々な要因により医療者と患者・市民のコミュニケーションが阻害されている現状で、その双方から支持されているメディエーションが、草の根的に着実に広がっていることに喜びを感ずる。
和田教授、中西准教授をはじめとする日本医療メディエーター協会の皆様の努力に敬意を表するとともに、同会の益々の発展を祈念する。

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