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Vol.100 地域医療における薬物治療上の問題点-薬剤師の視点から事例を読み解く

医療ガバナンス学会 (2019年6月4日 06:00)


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公益財団法人仙台市医療センター仙台オープン病院 薬剤部
橋本貴尚

2019年6月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今回は、地域医療に潜む薬物治療上の問題点について薬剤師の視点から考えてみたいと思います。

(事例1)自前で「今日の治療薬(南江堂)」を買い、薬剤情報提供文書(以下、薬情)に書き込む男性患者(60代)。
当院は仙台市の二次救急を担っており、救急外来には患者さんの直接受診の他、地域の開業医や仙台市急患センターからの紹介を受け付けております。
僕が夜勤中、「患者さんが薬のことで相談がある」と看護師から電話がきて、うかがいました。患者さんから薬情を見せてもらうと、鉛筆で「これは糖尿病の薬です」、「◯◯に注意してください」などと余白を埋め尽くすくらいびっちりと書いてありました。
患者さんの話「このアムロジピンという薬は横紋筋融解症がでる薬らしい。だから飲んでいない」と。橋本「インターネットの情報などは、信頼できないものも多いですよ」、患者さん「『今日の治療薬』を持っている」と。

その場で考えるに、「アムロジピンの横紋筋融解症」は「自発報告」と思いました。重篤副作用に分類されるものが「自発報告」された場合、それが1例であっても添付文書が改訂され「重大な副作用」に掲載されます。アムロジピンの推定使用者数は数千万人いると思いますので、まずは問題にならないだろうと考えました。
上記を患者さんに伝えたところ、「医者も薬剤師も誰も教えてくれなかった。そういう話が聞きたかった」とおっしゃいました。

みなさん、薬情ってまじめに見たことありますか?これは僕の私見ですが、記載の仕方に大きく2パターンあると思いました。
一つ目は、「説明漏れがあったら責任問題だ」ということで、びっちりと文章で埋め尽くされている場合。二つ目は「余計なことを言うと、患者さんが薬を飲まなくなるのではないか」と、空白が目立つ場合。今回の事例は二つ目のパターンでした。
(事例2)これは僕が相談を受けた事例です。東北のある地域で透析医療を行っている医療機関に勤務する薬剤師からの相談で、外来透析患者は600名弱、薬剤師の人数は2名です。
相談事項は、「透析患者さんに薬剤アレルギーのある薬が処方された(院外処方)。さらに、調剤薬局にお薬手帳を持参されなかったために確認されず、服用に至ってしまった」と。
さらに、対策を立てる際の条件として
・薬剤師2名なので、600名弱いる透析患者さんの院外処方には全く関与できない。
・電子カルテは導入されているが禁忌薬処方時のアラート機能はない。お金もかけられないので、電子カルテ機能に依存しない対策を考えたい。
・調剤薬局にお薬手帳を持参していなくても薬剤アレルギー情報をチェックしてもらえるようにしたい。
を挙げました。
「お薬手帳は使えない、電子カルテ機能も使えない。人手もかけられない。こうした状況だけど患者さんの医薬品安全は守りたい」という事例でした。みなさんならどう考えますか?
自分で言うのも変ですが、薬剤師の役割って何でしょうか?試しにGoogle検索をかけてみました。すると、ある行政機関の文書には、「薬剤師の主たる仕事は、薬剤の情報を提供することである」と書いてあり、ある薬剤師求人サイトには「患者さんはお薬手帳を持っており、もはや、自分の使っている薬の種類を言えるのが当たり前の時代である」と書いてありました。
しかしながら、先の2つの事例を見る限り、「地域で情報共有が進まない・できない」やむを得ない事情というものが地域医療には存在する可能性を考えました。もはや「薬剤の情報を提供する」だけ、「お薬手帳を渡す」だけでは薬剤師としての責任は全うできない、何か別の視点で考える必要があるように思います。
自分一人で考えることに限界を感じましたので、いろんな立場の薬剤師の考えを聞いてみたいと思います。僕が代理で公表したり、本人に執筆して頂いたりする予定です。手始めに、在宅医療の最前線で仕事をしていらっしゃる薬剤師に原稿を書いて頂きましたので、別号の通り報告させていただきます。

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