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Vol.105 院内での医療事故調査のマニュアル整備

医療ガバナンス学会 (2019年6月12日 06:00)


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この原稿は月刊集中6月末日発売予定号からの転載です。

井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2019年6月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 院内医療事故調査マニュアルの発表

鹿児島県医療法人協会・日本医療法人協会東京都支部 院内医療事故調査マニュアル作成委員会は、この5月14日に、鹿児島県医療法人協会創立55周年記念事業の一環として、新たな「院内医療事故調査マニュアル」を発表した(筆者も、その作成委員会のメンバーの一人である)。
医療事故調査制度が開始して3年半余りが経過し、この間、運用は概ね手堅く推移しているので、基本的には現状のままでよい。ただ、いくつかのイレギュラーな事態が散見されるので、その点だけは再び注意喚起が必要と思われた。そこで、新たな「院内医療事故調査マニュアル」(以下は「同マニュアル」と言う。)を発表して、運用の一部改善を呼びかけたものなのである。
なお、同マニュアルは、「院内医療事故調査の流れ」自体の解説と、「調査報告書作成マニュアル」の部分との二本立てとなっているものと評してよい。各医療機関においても、院内での医療事故調査のマニュアルが、「調査の流れ」自体と「報告書作成」との両面において整備されているかどうか、もう一度点検してみるとよいと思う。

2 外部委員偏重・医療従事者軽視という重大な勘違い

同マニュアル21頁では、「望ましい委員の構成の例」と「委員長の選任について」は、次のとおりに述べられている。

「1.望ましい委員の構成の例
当該医療機関管理者も排除するものではなく、院内の実情に詳しい者と当該医療行為・システムに詳しい専門家とで構成します。外部委員を多く入れて、その意見により、当該医療機関にそぐわない再発防止案が作られても、実効性がありません。外部委員のスケジュール調整のために無駄に時間を取り、医療安全のガイドライン『適時性』が果たせない例が報告されています。
医療法に基づく医療事故調査は、院内の検討が最重視されています。中立性という理念的・抽象的な観点には、余りデリケートになりすぎなくて構いません。当該医療事故の当事者となった医療従事者も場合によっては委員となることができます。」

「2.委員長の選任について
院内の医療安全を高めることが重要なので、院内の者を第一義とします。」

ところが、実際には、あたかも外部委員が中心であると誤解して偏重し、他方、当該医療従事者などの院内の者を軽視する、などという勘違いした運用がなされている事例も散見された。同マニュアル21頁にあるとおり、あくまでも中心は外部委員ではない。院内の者、特に「当該医療事故の当事者となった医療従事者」こそが最重要なのである。

3 誤った調査報告書をもとに提起された訴訟

勘違いした運用の甚だしいものとして、次のような類いの事例があったらしい。
それは、院内医療事故調査委員会の委員長こそは当該病院の副院長が務めたものの、当該症例の専門家の大先生を外部から第三者委員として招いて、院内医療事故調査委員会の会議を開催した。ただ、その際、事前に「当該医療事故の当事者となった医療従事者」たる若手医師の話を十分に聴取していなかったし、その臨床経過をまとめた文書も当該若手医師に見せていなかったらしい。そんな状況下で、お忙しい外部委員の都合をやっとつけてもらって、遅れ遅れでの委員会の会議を開催して、調査報告の内容を確定した。
その後、当該病院はご遺族への説明の際に、完成された院内医療事故調査報告書そのものを交付したところ、間もなく、その院内医療事故調査報告書の臨床経過と医学的評価の記載を証拠として添えられて、当該病院と当該若手医師の二者を被告とした医療過誤損害賠償請求訴訟を提起されてしまったらしいのである。その段階になって初めて、被告として訴状を受け取った当該若手医師は証拠として添付された院内医療事故調査報告書を見るに至り、その中の臨床経過のキーになる数ヶ所に明白な内容記載の誤りを発見した。しかし、当該病院としては、今から院内医療事故調査報告書の誤りを訂正しようにも、今さら外部委員の大先生を再び呼んで物言いすることもできないとして、(当該若手医師の言い分は飲まざるをえないので、訴訟では訂正した主張はするものの)当該院内医療事故調査報告書自体は訂正できないとして委員会での訂正を拒否したということである。
しかしながら、そんな運用は、全く本末転倒としか言いようが無い。そして、それ以上に、その取扱いは厚生労働省の通達に明らかに違反している。法令違反そのものだと言ってもよい。

4 当該医療従事者を除外しないこと

厚生労働省医政局長の平成27年5月8日付け通知では、その別添9頁に「調査の対象者については当該医療従事者を除外しないこと」と明示されていて、「当該医療従事者のヒアリング」が要請されている(同マニュアルでは、参考文献の4頁)。また、別添11頁の「センターへの報告事項・報告方法について」でも、「当該医療従事者…が報告書の内容について意見がある場合等は、その旨を記載すること。」と念押しされるほどであり、最も重視されている事項であった(同マニュアルでは27頁)。
このことこそが、法令で遵守が要求されている事柄なのである。ところが、今までの慣行に従い、漫然と法令を無視していたばかりか、そのために誤りの記載にも気付かず、さらには、遺族に調査報告書そのものを交付してしまったために、遺族が誤解をしてしまい、損害賠償請求訴訟で調査報告書をその証拠としつつ訴えられてしまったなどということになったのだから、当該若手医師としては立つ瀬がない。
そのような勘違いの運用をしたために、院内の医療従事者に多大な迷惑をかけたとしたら、そのような運用を指示した病院管理者や委員長は責任を免れないところであろう。
何も「院内医療事故調査マニュアル」自体に絶対にはこだわらなくてもよい。しかしながら、今後は、厚労省医政局で決められた重要なルールには、少なくともそれだけには沿うべきところではあろう。

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