医療ガバナンス学会 (2019年6月28日 06:00)
この原稿はAERA.dot(2月20日配信)からの転載いです。
https://dot.asahi.com/dot/2019021500063.html?page=1
森田麻里子
2019年6月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
「テクノロジー企業のトップが、自分の子どもにはスクリーンを見せる時間をきっちり制限していた」という話や、「教育的な内容であれば大丈夫」「2歳までは見せてはいけない」などと、いろいろな意見があって何が正しいのか混乱してしまいます。実際の研究では、どんなことがわかっているのでしょうか?
■テレビっ子のほうが語彙力は高い!?
ワシントン大学の研究者たちは、1994年から2000年にかけて5~7歳の子どもを調査した結果を発表しています。それによると、6~7歳時点での読解力・語彙力テストや短期記憶のスコアは、3歳未満の時にテレビを見ていた時間が多ければ多いほどわずかに低下していましたが、語彙力については、3~5歳時点でのテレビ視聴時間が多いほど、わずかに上昇していました。
年齢によってテレビの影響に違いがあるのは、子どもたちの理解力が異なるからだと考えられています。実は、子どもが教育番組の意味をきちんと理解できるのは、2、3歳以降と言われているのです。
たとえば、2007年にコネチカット大学から発表された研究では、15~24カ月の子ども48人を対象に、テレビ番組を通して新しい言葉を教えることができるかが調べられました。すると、大人が目の前で実物を見せて教えた場合の正解率は67%、大人が物の名前を言うビデオを見せた場合は53%でしたが、教育番組を見せて教えた場合は40%でした。
まだ内容を理解できない年齢の子どもにとっては、たとえ教育的なプログラムであってもただの映像や音であり、教育的な効果はあまり期待できないようです。
一方で、3歳から10代にかけては、教育番組を見ていると男の子は高校の成績がよくなるという研究もあります。良い内容のコンテンツであれば、2、3歳以降にテレビやタブレットを利用するのは良い影響があるかもしれません。
■テレビのつけっぱなしは…
それでは、テレビやタブレットを見せるのではなく、リビングでつけっぱなしにしているのは、子どもにどんな影響があるのでしょうか?
マサチューセッツ大学の研究者たちは、2008年に、テレビを流しっぱなしにすることの影響を調べています。12カ月の子17人、24カ月の子16人、36カ月の子17人を集め、1時間おもちゃで遊んでもらいました。そのうち30分は、お部屋のテレビをつけておき、残り30分は消しておきました。すると、子どもたちがテレビを見るのは6分間に2~10回程度、テレビを3秒以上見ていたのはそのうち30%で、ずっとテレビを見ているわけではありませんでした。
また、テレビを付けた状態だと、おもちゃで遊ぶ時間は5%減少し、集中して遊ぶ時間も減少していたことがわかりましたが、おもちゃを別のものにみたてたり、おままごとのようなロールプレイを含んだりするような複雑な遊びの時間は、テレビがついているかどうかではっきりした差がありませんでした。
つまり、テレビがついていると、やはりわずかに気を散らしてしまうという影響はありますが、本当に集中しておもちゃで遊ぶような時間は、あまり変わらないという結果でした。
■すべて“ダメ”ではない。直接体験とともに
赤ちゃんや2歳頃までの子どもは、教育番組から何かを学ぶのは難しいかもしれません。しかしテレビやタブレットを見せることがとても悪いということではなく、人との関わりや直接体験することを通して、学ぶ時間が確保されているかどうかが大切です。
テレビやタブレット、スマートフォンは、それ自体が良いもの、悪いものというものではなく、一つの道具です。2020年からは小学校のプログラミング教育が必修化され、ICT教育も普及が進む流れにあります。子どもの年齢に合わせて、良い使い方を考えていく必要がありそうです。