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Vol.122 女性医師のほうが男性より年収が低い? 日本だけじゃない医療医学分野での「男女格差」

医療ガバナンス学会 (2019年7月12日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(3月27日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019032500058.html

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医

山本佳奈

2019年7月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

3月8日は「国際女性デー」であったことを、みなさんはご存知でしょうか。この日は、女性の権利や政治的・経済的分野への参加など、女性が達成してきた成果を認識する記念日の一つであり、1975年に国連によって「国際婦人デー」と定められ、現在「国際女性デー」と呼ばれています。

きっかけは、1904年(明治37年)3月8日。ニューヨークで参政権を求めて女性の労働者によるデモが行われ、さらに6年後の1910年(明治43年)、デンマークで行なわれた国際社会主義者会議で「女性の政治的自由と平等のためにたたかう記念の日」として正式に制定されたことから始まったと言われています。

「国際女性デー」の頃になると、イタリアでは街中にミモザの花が見られるようになります。それは、イタリア女性組合のシンボルとして、3月頃に黄色の花を咲かせるミモザの花が選ばれたことに由来します。イタリアではもともと、感謝の気持ちを込めてミモザの花束を贈る習慣がありました。こうした習慣が世界に広がったことで、ミモザの花が「国際女性デー」を象徴するようになり、「ミモザの日」とも呼ばれるようになったというわけです。
■根深い日本の女性差別

こうした記念日がある一方で、日本における女性差別がまだまだ根深いことがわかったニュースがあります。昨年12月世界経済フォーラム(WEF)より発表された世界各国の男女平等の度合いを示す2018年版「ジェンダー・ギャップ指数」によると、調査された149カ国のうち日本はなんと110位。男女の賃金格差や女性の労働参加率、職場環境がやや改善したことにより、昨年より4つ順位はあがったものの、主要7カ国(G7)では何と最下位でした。

さて、昨年は女性が受けた嫌がらせやセクシャルハラスメント、性的暴行の被害体験を告白・共有する運動「#MeToo」をきっかけにして、女性に対する様々なハラスメントや差別が世界で次々と明るみに出た年でもありました。

昨年11月の半ばには、ダートマス大学の心理・脳科学の教授3人が痴漢、言葉の暴力、レイプに及んだとの訴えについての調査を受けて同大学を去るという事態が起こりました。米国ミシガン大学のJagsi氏らは、2014年のアンケート調査の結果、米国の女性の医学研究者1066名の30%が性的な嫌がらせの経験を有しており、66%が評価において性差別を受けたことがあることを報告しています。

医学研究の分野でも、女性差別の実態が明らかとなっています。例えば、研究助成金や研究申請についてです。
■助成金申請や特許申請に男女差

カナダのWitteman氏の2019年2月の報告によると、男性よりも女性が出願する方が研究助成金を得難いことがわかりました。これは、カナダ政府が提供する医療研究助成の交付申請において、2011年から2016年までの間に7093人の主任研究者から提出された2万3918件の助成金申請を分析したことから判明。提案された研究の質によるものではなく、補助金の資金調達における男女格差は、主任研究者としての女性の評価の低さによるものであると筆者は考察しています。

また、米国のエール大学のJensen氏らは、米国の200万件を超える特許申請を調べたところ、男性に比べて女性からの申請の方が処理が遅くなり、却下率が高く、特許の範囲は狭く不利であることが示されたと2018年に報告しました。

研究報告においても、興味深い報告があります。

米国ダラスのBaylor Scott & White HealthのFilardoらが、1994年から2014年にかけて影響力のある一般医学雑誌(Annals of Internal Medicine, Archives of Internal Medicine, BMJ, JAMA, Lancet, New England Journal of Medicine)を調べたところ、女性の筆頭著者の割合は1994年の27%から2014年の37%と上昇したものの、近年横ばいになっており、いくつかの雑誌では減少していることがわかったことを、2016年に報告しています。女性の筆頭著者の割合は依然として低い実態があることがわかったのです。
■医師の給与にも男女で差

年収や勤務時間、さらには医学部の教員数においても男女差が存在していることが明らかになっています。

例えば、シカゴのSaunders氏らは、米国を代表する医師374人の調査の結果、女性内科医の年収中央値は20万ドルであり、男性内科医の25万ドルに比べて5万ドルほど低いことが示されことを2018年に報告しました。あらゆる専門分野においても、女性医師の方が男性医師に比べて年収が少ないことも確認されています。

米国のハーバード大学のLy氏らが、2000年1月から2015年12月までに結婚した米国の夫婦ともに医師である4934組を調査したところ、子どものいる女性医師は子どものいない女性医師より勤務時間が短い一方で、男性医師についてはそのような差は認められない、つまり、育児にかかわる時間に差があることがわかったのです。

さらに、米国ボストンのSege氏らは、2014年時点での米国の女性の医学部教員は3万464名であるのに対して男性は6万609名であり、また、女性の医学部教授は3623名(11.9%)であるのに対し、男性は1万7354名(28.6%)であったことを報告しました。米国の医学部で教員に任命されている医師の間では、学年度、経験、専門性、および研究の生産性を考慮してもなお、女性は男性よりも実質教授になる可能性がほとんどない現状があることが判明したのです。

私も医学生の時に、心臓外科の女性医師に対して「あの先生は、女を捨てているんだよ」と男性医師が言っているのを聞いたことがありました。医師として働いてからも、「女医なんだから…」と言われることは多々ありました。悔しいなと思っても声に発することが許されるような環境ではなく、あまり考えないようにしていました。

けれども、世界における「#MeToo」運動を目の当たりにし、性別にとらわれることなく仕事ができるようになるように、女性医師として声をあげていきたいと思っています。

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