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vol 109 日本医師会改革の論点

医療ガバナンス学会 (2010年3月25日 07:00)


虎の門病院
泌尿器科
小松秀樹
本稿は第62回医療制度研究会 講演会で発表され、M3.comで配信されたものです。
2010年3月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【「日本医師会」の理念と立憲主義】
理念「人々の健康の維持向上と質の高い医療の公平で継続的な提供、それを可能にするための科学と医師の良心の国家からの擁護と自由な議論の喚起。」

 理念として、会の目的と医師と国家とのあるべき関係を記載した。理念は、大きな方向を示すのに有用であるが、実情からのフィードバックで検証・修正されなければならない。しかし、実際には、めったなことでは検証・修正されることはなく、しばしば有害になる。災厄を避けるためには、作成時に実情を縛り過ぎず、内部に強大な権力を作らないよう留意しなければならない。

 医師と国家との関係についての記載は、歴史、すなわち、現実の積み重ねについての認識から生まれた。例えば、第二次大戦中、日本を含むいくつかの国で、医学・医療が国家権力による人権侵害の手段になった。日本のハンセン病患者生涯隔離政策は、一部の勇気ある医師や国際学会の反対にもかかわらず、科学的根拠を失った後も、長期間にわたって継続された。新型インフルエンザ騒動では、科学的に不可能とされていた水際作戦の強行、意味のない停留措置による人権侵害、PCR検査の制限による国内発生発見の阻害、行政発の風評被害による莫大な経済的損失、実行不可能な事務連絡の連発による医療現場の混乱、感染した患者が押しかける医療機関での健康人へのワクチン接種、ワクチンの大容量バイアルと科学的裏付けのない接種優先順位の強制による複合的混乱など、チェックのない国家権力がいかに有害かを証明し続けた。これらの歴史的事実は、科学と医師の良心が公権力から自由であり、かつ、医師と国家との緊張関係が保たれていることが、医療の健全な維持発展の必要条件であることを示している。

 日本国憲法も同様の認識に基づいている。日本国憲法を含めて、市民革命以後の各国の憲法は「人権保障と権力分立原理を採用し、権力を制限して自由を実現するという立憲主義の思想を基礎にしている」(『立憲主義と日本国憲法』高橋和之、有斐閣)。憲法の人権規定の名宛人は公権力である。私人による私人の権利侵害は民法、刑法の対象であり、人権とは別の扱いになる。憲法は公務員に憲法擁護義務を負わせているが、一般国民には負わせていない。人権を侵すのは公権力であり、憲法は国民に戦えと命じている。すなわち、憲法12条前段は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」としている。

 日本医師会が公権力と対峙する姿勢を保持すべきであるという要請は、日本の歴史と立憲主義に基づく。立憲主義も、理念というより、西欧の歴史に由来する。残念ながら、日本では、医師と国家の緊張関係の維持の重要性が、医師の集団に十分理解されていない。日本医師会は、批判精神の欠如と経済的利益を優先する政策のため、最近数年間顕著になった日本の医療崩壊現象に対し無為無策だった。新型インフルエンザ騒動では、厚労省が連発した実情無視の事務連絡をそのまま現場に流し続けて、混乱を加速させた。「欲張り村の村長さん」すなわち、嫌われ者の悪役が、目先の利益を求めて行政にすり寄るとすれば、国にとってこれほど扱い易い集団はない。

【判断基準:理念か実情か】
1)理念優先
 歴史を踏まえていない理念は、規範としての立派さや整合性を正しさの根拠とする。

利点:なし。

欠点:実情認識をおろそかにして、規範の立派さや整合性のみを議論しがちになる。熱狂的共感を集めて、暴走する可能性がある。大失敗で事態を悪化させる可能性がある。例1:耐震偽装の実被害はなかったが、これを受けての建築基準法改正で、建築が滞り、多くの会社が倒産した。結果として日本のGDPが押し下げられた。例2:理性を持つ個人が社会を構成するというヨーロッパの18世紀以後の大陸合理主義の理念を押し進めると、相当数の人間が社会から排除されてしまう。教育システムを含む現代の多くの社会システムの包摂力は、やくざ組織に劣る。
 理念優先だと、対立が生じたときに解決を見出しにくくなる。原理主義という言い方が適切かもしれない。原理主義は、現実にどのような結果をもたらすのかについて、関心を持たない。
 ある研究者は医師の自律について、日本の現状を考慮せずに、ヨーロッパのプロフェッションの概念に則って、10年後の理想的な制度を提言すると明言した。そもそも、ヨーロッパでも医療の質向上のための制度は、国ごとに大きく異なる。それぞれの国の歴史と実情を無視した制度が機能するとは思えない。

2)実情優先
 制度はその理念通りに動くことはめったにない。最終的にもたらす結果が、社会にとってよいことなのかどうかで判断する。歴史的経緯を考慮する。人間の能力には限界があること、正義はしばしば災厄をもたらすこと、完璧な制度はないことなどを前提に制度を設計する。

利点:大災厄が生じにくい。

欠点:理想主義的あるいは人道主義的に見えない場面がある。整合性に欠けることがある。広範な熱狂的共感を得られない。

【組織の法的成り立ち】
1) 日弁連型:法に基づく。イギリスのGeneral Medical Councilがこれに当たる。

利点:強制参加。調査権限、処分権が法律で付与される。除名されると医師として働けない。

欠点:活動が重々しくなる。大きな権力が生じる。法という国家の統治手段を用いるため、政治、世論の影響を受けやすい。
 そもそも医師は人権についての認識や、手続に疎い。重い処分をせざるをえないとすれば、知識と経験不足のため上手に運用できず、もてあます可能性が高い。処分制度ができても、有名無実で機能しないか、人権侵害を伴う厳罰主義で医療の存続を危うくするかのいずれかに傾く可能性が高い。

2)公益社団法人
利点:税の優遇。組織に権威が付与される。

欠点:
ア) 金銭の動きを伴う活動が困難。
イ) 「民による公」を官が徹底管理する。官の支配を強く受けることになる。
 会員を集めるためのメリットを伴うインセンティブの形成が、法律上不可能である。抽象的価値だけで会員を集められるか疑問。
 学会への参加資格として、公益社団法人日本医師会への参加を条件にするようにして、さらに、専門医資格の設定条件を各学会にまかさずに、医師会で管理するようにすれば、インセンティブ形成と医療の質向上のいずれにも有用かもしれない。ただし、学会が抵抗する可能性が高い。

ウ) 法的権限がないので重い処分はできない。重い処分がで

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