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Vol.141 「華人」として、医師として、大移民時代を考える

医療ガバナンス学会 (2019年8月15日 06:00)


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墨東病院循環器科
大橋浩一

2019年8月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「您好. 今天怎么样?」この言葉で診察を始めることが最近増えている。東京スカイツリーで観光中に急性心筋梗塞を発症し搬送された40代女性の中国人観光客、中国から日本に住む家族を訪ねて来日した虚血性心筋症による慢性心不全を既往に持つ70代男性の急性増悪、日本のレストランで勤務中に発症した急性大動脈解離により搬送された30代男性の中国人労働者。これらは私の外来に通院する心疾患を有する中国人患者のごく一部だ。

私は中国上海生まれ日本育ちで現在は日本に帰化した、いわゆる「華人」である。
千葉大学医学部を2011年に卒業して以降、都立墨東病院を中心に循環器内科医として勤務し、心臓カテーテル室や手術室での検査・治療や外来業務、研修医の指導に携わっている。
墨東病院は東東京に位置する代表的な繁華街の錦糸町にある。
日本屈指の救急救命センターを擁するほか、感染症医療に代表される行政医療にも対応し、がん医療や心臓病医療や脳血管疾患医療などの高度・専門医療を提供する。また、災害時には地域災害拠点中核病院としての役割も担っている。渋谷・新宿・池袋と並ぶ副都心のひとつである錦糸町は、あの「鬼平犯科帳」にも登場し、江戸時代から下町としての長い歴史を持つ。戦後は主要ターミナルへのアクセスが非常に良いことから、国内外からの労働力が多く流入し急速な復興を遂げた。
東京スカイツリータウンや観光名所として不動の地位を築いている浅草などにも近く、空港からのアクセスの良さから近年は外国人旅行客が急速に増加し、更なる外国人労働者の流入を招いている。

そのような墨東病院には多くの外国人患者が受診する。研修医時代は「華人」としての言語能力を買われ、中国語の話せる医師として通訳や翻訳の仕事も多く頂いた。
複数の専門医資格を取得し専門領域の医療を提供する今でも「華人」としての仕事の依頼は絶えることなく、週1回の外来にも毎週3〜4人ほどの外国人患者が通院している。事実、墨東病院を受診する外国人はここ数年でますます増加している。
2019年4月に改正された入国管理法の施行以降、その傾向は増すばかりだろう。在日外国人が今後日本の社会に移民として円滑に定住できるようにすることは既存の日本社会の構成員にとっても非常に重要であり、彼らの健康問題の把握とその問題点への介入は喫緊の課題である。中国語を使って診療を行う事にやりがいを感じる一方で、「華人」として、医師として、自分にしかできないこと、自分が果たすべき役割を意識するようになった。
そのような時に、研修医時代の先輩の紹介で医療ガバナンス研究所の上昌広先生に出会った。私の日々考えていることを聞いた先生は「君、墨東病院を受診する外国人のデータを調査してみないか。地域に居住する移民の医療データを収集して分析し発信する事は貴重な財産になる。」と言った。私は早速病院に戻り調査を始めた。どんな結果が出るか、それが社会にどのような影響を及ぼし今後どのような形で実を結ぶのか今はまだ分からない。しかし行動しなければ何も生まれない事だけは明らかだ。

日本に住む外国人は260万人を超え、働く外国人は146万人に上る。さらに外国人労働者を増やそうと、政府は新たな在留資格「特定技能」を設けて外国人労働者に門戸を開放した。人手不足が深刻な介護や建設など14業種について、今後5年間に最大約35万人を受け入れる見込みだ。施行に合わせて、政府は「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策」をまとめた。行政サービスの多言語化や日本教育の充実など126の支援策を盛り込み、外国人が暮らしやすい社会を目指している。
人の移動が国境を越えて活発になれば、外国人の健康問題が大きな問題となってくるが、これを日本の社会が解決できるよう体制を整えていくことが早急な課題となってくる。経済協力開発機構(OECD)は「国内に1年以上滞在する外国人」を「移民」と定義している。1年以上日本に滞在する外国人は、全てが「移民」なのである。移民の大々的な受け入れが始まり、まさに大移民時代に突入している日本と、その移民を輩出しているアジア諸国を初めとした世界中に向けてリアルな情報を東京の下町から発信していきたい。

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