医療ガバナンス学会 (2019年9月13日 06:00)
この原稿はAERA dot.(4月17日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2019041600057.html
森田麻里子
2019年9月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私としては、母乳でもミルクでもどちらでも構わないと思っています。ミルク育児のママ・パパを追い詰めたりはしたくありません。でも、それと同時に、母乳にアレルギー予防効果はないと断定してしまうのは、ちょっと思い切った表現だなとも感じました。
実際に発表された資料を見ると、報道では大きく取り扱われていた母乳栄養とアレルギーの関係については、実は本文には書かれていません。注釈として、「システマティックレビュー(森田注:研究デザインの種類の一つ、文献を調査して分析するもの)では、6カ月間の母乳栄養は、小児期のアレルギー疾患の発症に対する予防効果はないと結論している」という記載がなされています。
残念ながら、このシステマティックレビューが具体的にどの研究のことなのかは、記載されていませんでした。そこで、今回は母乳栄養とアレルギー疾患についての研究をいくつかご紹介したいと思います。
まずひとつは、2009年に台湾から発表された論文です。母乳栄養とアトピー性皮膚炎について21個の研究をまとめて解析したところ、生後3ヶ月まで完全母乳栄養だった赤ちゃんと、それ以外(ミルクまたは混合育児)の赤ちゃんで、その後のアトピー性皮膚炎の発症割合に明らかな差はありませんでした。一方で、完全母乳栄養の赤ちゃんとミルク育児の赤ちゃんを比べると、オッズ比にして0.7と非常に大きな差ではないものの、母乳栄養の赤ちゃんの方がアトピー性皮膚炎が少ないことがわかりました。
しかし、母乳栄養がアトピー性皮膚炎を抑制するという研究もあれば、そのような効果はないという研究、さらに悪影響があるという研究もあります。それらを総合して考えると、母乳かどうかはあまり関係ないのだろうという意見が多いようです。
さらに14年のイギリスの研究では、母乳栄養とぜんそくの関係について調べています。117の研究をまとめて解析したところ、オッズ比にして0.78と、母乳栄養の赤ちゃんの方がぜんそくが少ないという結果になりました。しかし、この効果は0~2歳で一番強く、その後は効果が薄れていってしまうこともわかりました。
ママがぜんそくで赤ちゃんがアトピーの場合には、母乳栄養の方がリスクが高まるという研究もあり、ぜんそくと母乳栄養の関係についても、意見は分かれています。
母乳栄養と食物アレルギーの関係については、あまり多くの研究はないようですが、牛乳アレルギーを減らすかもしれないという研究はあります。14年に台湾から発表された研究では、4カ月以上完全母乳栄養で育った赤ちゃんと、それ以外の赤ちゃん、約200人におよそ6カ月ごとに血液検査を行っています。血液検査では食品に含まれるタンパク質に感作されているかどうかを調べました。すると、牛乳のタンパク質に感作されているのは、1~2歳の間では母乳栄養の子の方が少なく、オッズ比にして0.2となることがわかりました。血液検査で感作されているとわかっても、食べたときに症状がでるとは限らず、それだけで食物アレルギーを診断することはできません。ですから、この研究から母乳は牛乳アレルギーを減らすとまでは言えず、減らすかもしれない、という結論になっています。
このように、母乳栄養とアレルギー性疾患の関係については、まだはっきりしない部分も多くありますし、その人の体質によっても違う可能性もあります。母乳のアレルギー予防効果については、あるともないとも言えないというのが正確なところだと思います。
とはいえ、ここまで研究がなされていても結論がはっきりしないということは、予防効果がもしあったとしても、それほど大きな効果ではないと考えられます。母乳は確かに良いものですが、十分なビタミンDや鉄分が入っているという点ではミルクに栄養的なメリットがあります。母乳の出具合やママのライフスタイルによって、ミルク育児を選ぶご家庭もたくさんあると思いますが、アレルギー予防効果がどうであるかにかかわらず、そこに罪悪感を持つ必要は全くありません。母乳でも、ミルクでも、どちらでも大丈夫。自信を持って、育児をしていってくださいね。