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Vol.182 ママ医師が教える ”産後うつ”と貧血の意外な関係性とは?

医療ガバナンス学会 (2019年10月25日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(5月29日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019052200048.html

森田麻里子

2019年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

妊娠中から産後にかけての女性の死亡原因で最も多いのは、実は自殺です。国立成育医療研究センターの調査では、2015年から16年にかけて、102人もの妊産婦さんが自殺していたことがわかっています。非常にショッキングなデータです。

自殺の大きな原因は、産後うつと考えられていて、妊産婦さんのメンタルヘルスは大きな問題になっています。産後うつを起こしやすい因子としては、以前にうつ病にかかったことがある、強い不安やストレスを受けている、社会的経済的サポートが弱い、などがわかっていますが、ほとんどは精神的・社会的な要因です。一方で、身体的な不調も精神状態に影響を与える可能性がありますが、どんな要因が産後うつのリスクになるのかは、まだはっきりとはしていません。

そんな中、国立成育医療研究センターのグループは4月、出産から数日後の血液検査で貧血があることが産後うつのリスクになるという研究結果を発表しました。この研究では、約1000人の妊婦さんを対象に、産後1カ月の時点で産後うつのスクリーニングテストに回答してもらいました。日本では、このテストの点数が9点以上だと産後うつの可能性が高いと判定されます。その結果、出産後4~6日の血液検査で貧血だった女性は、そうでなかった女性に比べて点数が9点以上の割合が高く、そのオッズ比は1.63倍でした。この研究での貧血はヘモグロビン濃度10グラム以下と定義されていますが、ヘモグロビン濃度が9.2~10.1と軽度の貧血であったグループでも、産後うつの割合が増加していました。

海外でも、同様の報告は、少ないながらもいくつか存在するようです。例えば14年にサウジアラビアから発表された論文があります。産後の女性352人を調査したところ、産後に貧血があった女性は、そうでない女性に比べて産後うつの可能性が高いと判定された割合が高く、オッズ比は1.7倍でした。

国立成育医療研究センターの研究では、貧血と判定されたのは全体の44.2%、産後うつの可能性が高いと判定されたのは196人で、2割を超えています。産後の女性の4割以上が貧血で、5人に1人以上は精神的にかなり追い詰められているのです。

サウジアラビアの研究では、調査対象となった女性が、妊娠中に鉄サプリメントを飲んでいたかどうかも調べられていました。鉄サプリメントを飲んでいるかどうかは産後の貧血とは関連しませんでしたが、その一方で、産後うつとの関連はみられました。妊娠中に鉄サプリメントを定期的に飲んでいた人で産後うつになったのは32.8%でしたが、全く飲んでいなかった人では50%だったのです。

貧血と産後うつの関係はまだ研究が進められている段階で、完全には明らかになっていません。貧血を治せば産後うつも治るとか、鉄サプリを飲めば産後うつが予防できるなどと言うことはできません。しかし、日本はダイエットが盛んで、妊娠中も体重が増えすぎないようにという指導が重視されがちです。妊娠中はそもそも鉄が不足しやすい状態ですが、体重を増やさないように食事を制限すると、ますます鉄は不足しやすくなります。以前、「貧血気味の女性は知っておきたい! ママ医師が教える『鉄分』の良い摂り方」という記事でも解説したように、バランスよく食事を取りながら、特に妊娠中期以降に鉄サプリメントを飲むのは、産後うつと関係なくおすすめです。そのことにより、さらに産後うつのリスクも減らせるかもしれないとしたら、素晴らしいことではないでしょうか。

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