医療ガバナンス学会 (2019年11月1日 06:00)
この原稿はAERA dot.(7月3日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2019062700086.html
ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈
2019年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
条例案では、サンフランシスコ市内にある店舗での電子たばこの販売やネット販売が禁じられており、違反者には罰金が科される見込みです。「米国の高校生の電子たばこの使用が近年急増しており、健康への影響がよく分かっていない電子たばこが若者の手に渡らないように、あらゆる手段を講じたい」とサンフランシスコの相談役Shamann氏は言います。
実は、サンフランシスコ市での可決に先立ち、6月4日には、カリフォルニア州のビバリーヒルズ市議会でも、すでに電子たばこを含む大半のたばこの販売を禁じる条例案が可決されています。例外的に販売が認められる場所(特定のシガーラウンジやホテル)があるものの、たばこ、電子たばこ、水たばこ、葉巻などニコチンを含む商品全てが禁止とされ、2021年1月1日から施行予定です。
さて、日本でも最近よく見かけるようになっている加熱式たばこ。欧米ではニコチンが加えられた電子たばこの使用が急増しており、その健康への影響について近年議論が盛り上がっています。そこで、今回は加熱式たばこや電子たばこを中心に喫煙についてご紹介したいと思います。
従来のたばことは違う、新型たばこは大きく2種類に分けることができます。一つ目は、加熱式たばこです。葉たばこを加熱することによりニコチンを含有したエアロゾル(空気中に浮遊する粒子)を発生させ、それを吸引します。二つ目は、電子たばこです。液体を加熱してエアロゾルを発生させて吸引します。液体にはニコチンを含むものや含まないものがあり、日本ではニコチンを含むものは販売が禁止されていますが、欧米ではニコチンを含む液体を使用する電子たばこの普及が急増しています。
2019年2月、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は米国の中高生のたばこの使用率について報告しました。それによると、高校生における燃焼式のたばこ(従来のたばこ)の使用率は2011年から2018年に21.8%から13.9%へと低下したものの、電子たばこの使用率は1.5%から20.8%に上昇したことがわかりました。さらに、2017年から2018年にかけて、電子たばこを含むたばこの使用は中学生で28.6%(5.6%から7.2%)増加、高校生で38.3%(19.6%から27.1%)増加し、電子たばこの使用は、高校生の間で77.8%(11.7%から20.8%)、中学生の間で48.5%(3.3%から4.9%)増加していたことがわかったのです。
加熱式たばこやニコチンが含有された電子たばこには、燃焼式のたばこと同様に依存性薬物であるニコチンが含まれています。しかしながら、「煙が出ない」「煙が見えにくいため禁煙エリアでも吸うことができる」「受動喫煙の危険がない」「従来のたばこより健康へのリスクが少ない」と誤解され、急速な広がりを見せているのです。
アイオワ州立大学のBao氏らによる、電子たばこ使用経験がある米国成人の割合は2014年から2016年にかけて、12.6%から15.3%に増加し、特にかつて喫煙していた禁煙成人や喫煙経験のない人の電子たばこの使用率が増加していたという報告も、こうした誤解からでしょうか。
「煙が出ない」「煙が見えにくい」といわれる加熱式たばこや電子たばこを加熱すると、白い水蒸気を発生します。確かに、葉たばこを燃焼したときの紫煙がぷかぷか浮遊する様子は見えませんが、特殊なレーザー光を喫煙者が吐いた空気に照射すると、大量のエアロゾルを確認することができます。従来のたばこ同様に、見えないエアロゾルをたくさん放出しているのです。
この電子たばこのエアロゾルに対して、世界保健機関(WHO)は健康に悪影響がもたらされる可能性があり、受動喫煙者の健康が脅かされる可能性が高いと指摘しています。
加熱式たばこや電子たばこは、従来のたばこに比べれば、たばこ煙中の有害物質のうちの粒子成分であるタールが削減されているものの、依存性物質であるニコチンやその他の有害物質を吸引する製品であり、使用者にとっても、周囲の人(つまり受動喫煙となる人)
にとっても有害と考えられます。日本呼吸器学会は、これらのたばこの使用は推奨できないと指摘しています。
1990年から2015年までの195カ国の地域における喫煙有病率と起因する疾病調査による系統的分析によると、全世界の男性の4人に1人(25%)が喫煙を続けており、全世界の死亡率の1割以上(11.5%)が喫煙に起因していることがわかったと、Lancet誌に掲載されています。