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Vol. 127 千葉・埼玉・茨城に医師を増やす必要性 (2)

医療ガバナンス学会 (2010年4月9日 07:00)


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千葉、埼玉、茨城にこのような新しい医学部が欲しい!
今望まれている医師像とは
医療構想千葉代表
竜 崇正
2010年4月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会


この論考はMRIC vol.107「千葉・埼玉・茨城に医師を増やす必要性(1)三県の医師不足の現状と将来予測について」に引き続くものである。http://medg.jp/mt/2010/03/vol-107.html#more

千葉、埼玉、茨城の医師不足を解消するために、新しい医科大学が必要と考える。しかし今までと同じ構造の医学部+大学病院を作っても、卒業生はストロー現象で東京や各県都に吸い取られ地域的偏在は消えないであろう。診療科における偏在も解決しないであろう。医師不足を解消するだけでなく、国際性に溢れ、世界をリードできるような、今までにない医科大学であれば国民も納得してこれを推進すると考える。以下にわれわれの考える医科大学像を示す。

【地域性と国際性】
千葉、埼玉、茨城などにある高度専門病院、地域中核病院、一般診療所を広域的な医療機関の統合と再配置を考慮しつつ、県を超える大きな地域で、医師を育てるためのネットワークを作る。千葉・埼玉・茨城の医療過疎地では医療圏は自治体の枠を越えてしまっている。そしてこの地域にはその能力がある中核病院がいくつもある。
大学はその一翼を担い、3000ベッド程度の卒後のキャリアパスとしても魅力ある卒前・卒後教育研修ネットワークを持つ教育機関となる。地域住民によって作られる医師が理想である。地域中核病院をネットワーク化した多施設共同型医師養成機関では当然、臨床重視の教育が行われる。臨床能力とコミュニケーション能力の高い人材、患者の心を大事にする、「生老病死」に向き合う、地域の人のために地を這って働く医師となる。
成田空港をもつ特性を生かし、東アジアを中心とする各国の基幹病院と協定を結び教育・研究・医療の面で新しい国際的展開を図る。卒業生はネットワークを通じて鍛えられ国際的にも通用する高いレベルの臨床能力をもつ医療人に育たなければならない。

【運営】
開かれた責任あるガバナンスが大切である。オーナーシップとガバナンスの区別をはっきりさせる。
大学理事長は世界を見渡せる管理責任者を広い範囲から公募し、10年程度の任期で系統的にあるべき医科大学の理想を追って責任を持ってリードする。

【教員組織】
多様性が大切である。教員はネットワーク内外から広く公募する。また関連臨床施設の中堅医師や定年後のパワーと経験のある医師、医療従事者、患者体験者を適材適所に登用する。外国人医師・教員を積極的に採用する。地域性を重視した選抜もあっていいだろう。

【ワークライフバランス】
どのような女性も学び働きやすい環境を整備し、24時間365日の保育、病児保育体制をつくる。

【学生募集】
ここでも多様性が大切である。地域枠を重視する。社会経験のある人材からも医師を育てる。東アジアを中心とする海外に目を向け、外国人学生にも門戸を開く。他の医療職からの転向を奨励する。障害者枠も考慮する。など新しい試みを行う。

【教育方法】
国際化を意識し、英語を中心とした教育を行う。基礎的な教育内容はe-ラーニングを中心とする。教養課程は2年以上であればどこの大学で受けてもいいのではないか。基礎研究室配属は全世界で可能(東アジアを推奨)など新しい試みを行う。
もちろん、臨床教育がもっとも大切である。少人数チュートリアル形式での基礎医学と臨床医学を統合したブロック制やハイブリッド型の新しい教育カリキュラムを導入する。また、早期の臨床現場への暴露・参加型臨床実習などを可能にし、卒前・卒後臨床教育の一貫性を担保するため、全県(千葉・埼玉・茨城)の中核病院ネットワークを利用する。地域が医師を育てるネットワークを利用した臨床実習・研修は、教育現場への中堅医師の引き抜きによる地域医療崩壊促進の懸念を払拭する。

【研究】
臨床試験を積極的に推進し、高い臨床レベルの揃った病院群からなる大学関施設のデータを結集して、世界へ発信し、世界標準医療を創設する。
研究成果を臨床に還元するtranslational researchの牙城とする。特に、新しいがん医療、再生医療、低侵襲治療、統合医療、遺伝子工学、医用工学などの研究診療科を創設する。
医療経済学、医療管理学、医療事故防止学、などの学問を推進する。
医療の国際化に向けた国際共同研究を組織する。15億人の東アジアをクライアントと考えれば医師の過剰など心配無用のはずである。

【おわりに】
全国医学部長病院長会議は、「新しい医学部を作ることは百害あって一利なし」との声明を出した。地域中核病院から医師が引き抜かれ医療崩壊がさらに促進されるというのがその大きな根拠である。
確かに、全国の大学病院は世界に通用する研究をするため大学院大学となり、地域で臨床を担当する医師を大学に引き上げた。新臨床研修制度の開始で大学病院を支える臨床担当医師が少なくなったことも事実である。また旧国立大学では独立行政法人化で運営費交付金を毎年1%減額され、再び赤字になればさらに3%減額されるため、大学病院の生き残りのために地域から大学へ医師を引き上げてきた。私たちは、全国の医科大学・大学医学部のおかれた過酷な状態を改善すべきである事も合わせて提言したい。
しかし、医学部長病院長会議におかれても、医師不足・医療崩壊に怯える地域住民に対する責任を果たすこともその任務のひとつであることに鑑み、真に国民に信頼される医科大学・医学部のあり方を示すことが必要であると考える。

この医療構想・千葉の提案が、日本の医学教育全体を活性化し、合わせて医療崩壊から脱する一助になればと念願するものである。

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