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Vol. 126 自己批判がどこまで可能か:国の新型インフルエンザ対策総括会議

医療ガバナンス学会 (2010年4月8日 07:00)


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山形大学医学部附属病院
森兼啓太
2010年4月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会


人間というものは弱いものである。特に自分が犯した過ちを認め、改めることの難しさは今更言及するまでもないであろう。

3月31日、厚生労働省主催による新型インフルエンザ対策総括会議が開催された。この1年を振り返り、国が実行してきた対策を検証し、改めるべきは是正することは大変重要である。そのような機会を設定した厚生労働省の姿勢をまずは評価したい。しかし、検証作業はそもそも、その対策を行なった当事者自身において可能であろうか?

仮に誤った対策が実行されていたとして、もし企業であったなら、検証と是正を行わないと売り上げが落ちて企業の存亡に関わるだろう。当事者による検証でも十分自浄作用が働き、おのずとよい方向に向かう。しかし国(行政組織)は、何を実行しようとせいぜい行政訴訟を起こされるのが関の山であり、組織がつぶれたり対策を行なった当事者がクビになったりはしない。厚労省に限ったことではないが、幹部職員は天下りしていき、それ以外の職員も手厚い公的年金に守られて一生を終える。この人達にとっては、検証と是正を行わなければならない理由はない。

従って、国の新型インフルエンザ対策を検証するには、当然国から独立した人々によって行われるべきであり、国は行なった対策に関する情報提供に徹するべきである。その意味では厚労省が事務局を務める本会議は「自己批判の場」となっており、最初からどこまで突っ込んだ検証ができるかが疑問である。

さらに問題なのは委員の選定である。全部で11名だが、うち5名は内閣府の新型インフルエンザ対策本部の専門家諮問委員会のメンバーである。彼らは、国が対策を実行するにあたり、その都度非公開で議事録も公開されていない委員会を開催し、国に意見を提言してきた。議事録が公開されていないので、国の行なった対策すべてに5名全員で同意していたかどうかわからない。しかし、委員会の委員長である尾身茂氏は意見をまとめる立場にあり、彼は少なくともすべての対策に同意していたと考えるべきである。実際、31日の会議で尾身氏は「2つを除いてほとんどすべての政策に専門家会議の意見が取り入れられた」と述べている(Twitterやその他のウェブ上の情報による、正式な議事録は未発表)。

31日の議論は、わずか3時間の間に検疫からワクチン余剰まで1年間全体を振り返っており、百花繚乱的であった。これだけ日本中を混乱の中に陥れた新型インフルエンザおよびその対策が、わずか3時間で総括できるわけがない。ワクチンのことなど置いておいて、まずは発生当初の厳格な公衆衛生対策の妥当性、特に検疫による隔離停留・国内初発例発見までのサーベイランス体制・その後1週間の広域の学校閉鎖の3点から徹底的に検証すべきではないか。これらどのような経緯で行われ(行われず)、どのような影響を与え、結果的にどうすべきであったかを、徹底的に議論して欲しい。

Twitterでの実況中継によれば、尾身氏は31日の会議で、「5月5日には専門家委員会後に上田局長と二人で検疫体制について議論した。その際に『国内発生すると考えられるので検疫体制を見直し、国内体制にシフトすべき』と言った。局長はGW終わるまで待ってくれと言った」と発言している。国内(サーベイランス強化)体制にシフトしていれば、そのまさに同じ日である5月5日に発症した確定例から10日も経った後の15日深夜に、集団発生の形で国内第1例が発見されるはずがない。つまり尾身氏の提言を(上田博三健康)局長が却下したことになる。一方で尾身氏は随所で「国の対策はまあまあうまくいった」とか、「検疫は国内での発生を遅らせる点である一定の役目を果たした」と発言している。このことは矛盾していないか?

本会議には一筋の光明も見える。Twitterでの実況中継を見る限りでは、31日の会議では岩田健太郎氏が特に発生初期の対策に関して一人気を吐いており、岩田氏の頑張りに今後も期待するところである。ジャーナリストの伊藤隼也氏には、厚労省のワクチンに関する部会「厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会」で気を吐いた同じくジャーナリストの黒岩祐治氏1]のような役割が期待される。また、この時期に八面六臂の活躍をした当時の厚生労働大臣である舛添要一氏らにも見解を求めてはどうかと考える。

1] http://lohasmedical.jp/news/201/02/21140600.php?page=10

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