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Vol.197 現場からの医療改革推進協議会第十四回シンポジウム 抄録から(1)

医療ガバナンス学会 (2019年11月19日 15:00)


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2019年11月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十四回シンポジウム

2019年12月7日(土)

【ご挨拶】 13:00-13:15

●林良造

この1年を振り返ると、奇妙に安定した1年であった。トランプ大統領の度を過ぎた「自分ファースト」の振る舞いは、破綻しそうに見えながら続いている。その影響はアジア中東欧州と広く、既存の米国の評価を食いつぶしながら日々進行している。米中貿易摩擦もグローバル化が進む世界経済に大きな不安の影を落としながら、株価は続伸し続けている。
安倍政権も長期政権の緩みを露呈しながらも、一強体制は揺るぎを見せない。日本経済も、人口減少が続き財政赤字は悪化しながらも、目の前の景気拡大は継続している。外国人労働者の流入も、必要な受け入れ体制の議論は後回しにした形でなし崩し的に拡大している。
他方、技術の側面から見ると、変化はますます早くなっている。特に情報技術の進化は、とどまるところを知らない。AIとデータ、そしてシンギュラリティとフロンティアは拡張を続け、Facebook事件などプライバシーに対する脅威や、中国に代表される超監視国家なども進行している。世界は、新たに切り開かれる未来と影響力への対応をめぐり、さまざまな国家や企業が覇を競っている。
日本の医療も、この奇妙な安定と驚異的な技術革新のスピードとの間で、立ち尽くしているように見える。絶え間ない技術の進展は、予防への道を拓き名医の診断と神の手の恩恵を広くもたらす一方、医療の究極の価値を問い続け、医療の未来について常に大きな可能性とリスクを提示し続ける。
また、急速にしかし静かに進むグローバル化は、患者、医師、企業の国境を超えた移動を日常化させ、医療提供体制にも新たな課題と座標軸を提示する。日々進行する人の営みは、常に新たな環境、新たな医療の需要を作り出す。そのような大きな変化に対し、制度の変革はどうしても戸惑いを覚え遅れがちになる。
このような新たな環境変化に応え、公平で効率的な医療を提供し続ける制度を作りだすためには、大きな構造を捉える視点と現場の視点が欠かせない。現場からの医療改革推進協議会は出発以来、そうした役割を果たす羅針盤として大きな役割を果たしてきた。今回も大きな視点と現場を結んだ形で、問題提起と解決策の提示、活発な議論が行われることを、心から期待している。
【Session 01】医療改革の現在 1 13:15 ~14:00

●安全社会のための事故サーベイランス
三上喜貴

統計学の始祖と言われるジョン・グラント(1620-74)は、教会がまとめた各教区の洗礼・埋葬記録を丹念に分析し、ロンドン市内の人口動態を推計した。死因の判定を行ったのは埋葬を担当した者たちであり、17世紀のことであるから、死因とされた病気の名前がひどかったのは仕方ない。しかし彼は、病気以外の死亡例にも注目し、出血、火傷及び湯傷、溺死、過飲酒、自殺、種々の事故死、殺害、毒殺、餓死などに区分して傾向を観察した。今風に言えば、教会ビッグデータの活用による見事な事故サーベイランスであった。
グラントの時代から三世紀余を経て、現代人は生涯を通じて様々な機会に事故や治療の履歴を記録される。交通事故や労災はもとより、火災、各種事故報告、救急搬送、カルテ、死亡診断書など、生涯を通じて記録される事故や治療の記録は膨大である。 筆者らのレセプト情報解析結果によれば、現在の日本では不慮の事故により年間1,500万人が通院レベルの傷害(中毒を含む)を負い、年間の診療実日数は約6,000万日である。入院レベルでは150万人、不慮の事故による死者は人口動態統計によると約4万人である。このうち交通事故による死者は五千人弱、労災の死者も千人以下に減少しているから、事故死のほとんどは家庭内、学校、公園、各種施設など、生活空間で発生していると見られる。死に至らない傷害も同様にしてその多くが生活空間で発生していると考えてよいだろう。
ところが、生活空間で発生する事故をサーベイする仕組みは、甚だ貧弱である。ガス湯沸かし器によるCO中毒続発を契機に2007年に消費者庁が創設され、重大事故報告制度の運用が始まった。しかし、消費者庁の事故データバンクに登録された2018年の死亡事例は、わずか118件である。科学的事故原因究明に基づき危険源を特定することが、安全社会構築への第一ステップであり、そのエビデンスベース構築は喫緊の課題である
●大学生剣道選手における鉄欠乏性貧血の検討
鍋山隆弘

アスリートは、筋肉量増加や発汗、運動中血管内溶血等により鉄需要が増す結果、鉄欠乏性貧血のハイリスク群である。しかし、剣道選手の鉄欠乏状態を評価した既存研究はない。そこで今回、大学生剣道選手を対象とし鉄欠乏性貧血の実態を調査した。
倫理委員会承認後、大学剣道部員(男性39人、女性17人)に対し身体測定、血液検査、および食物摂取頻度調査を行った。血中ヘモグロビン値及び血清フェリチン値(中央値[範囲])は、男性では15.1[13.9-17.7]g/dLおよび108[40-275]ng/dL、女性では13.4[12.4-15.8]及び43[12-143]であった。男女ともWHOが定義する貧血に該当する選手は存在しなかったが、男性4人(10%)、 女 性10人(59%)で、血清フェリチン値が50ng/dL未満であった。男子選手ではBMIと血清フェリチン値の間に正の相関(Spearman相関係数r=0.412、 p<0.05)をみとめた一方、女子選手ではBMIの上昇に伴い血清フェリチン値が低下する傾向があった(r=-0.46、p=0.06)。
今回の調査では貧血を有する剣道選手は認められなかったが、低フェリチン状態である選手が存在することが明らかとなった。特に女性に低フェリチン状態の選手が多く、鉄欠乏状態の丁寧な評価がパフォーマンス向上に欠かせない。
●「医療」ではない精神医療をどう変えればいいのか?
佐藤光展

精神医療は、他の診療科が提供する医療とは水準が異なる。その本質を端的に示す一例として、カリスマ精神科医として知られる神田橋條治氏が、昨秋にまとめた著作集「発達障害をめぐって」(岩崎学術出版社)の一文を紹介する。「ボクの診断法」として、次のように書いている。「すでに発達障害を疑って来院する人が半数ですが、その他の診断で治療を受けていて、うまくゆかないので来院する人もいます。ボクは脳の苦しんでいる場所を眺めるだけで察知できますので左前額部の奥、ブローカー言語中枢の下のあたりに苦しんでいる場所を察知できると、発達障害を疑って幼い時からの歴史を調べて行きます」 神田橋氏には透視能力があるのだろうか。しかし、例えば消化器外科医が患者と対面しただけで「あなたの胃の噴門部に直径2㎝の癌がある。私は察知できる」などと言い出したら周囲はどうするだろう。精神科の受診を勧めるのではないか。
神田橋氏を「オカルト」と笑う精神科医は多い。だが、そのような精神科医たちも、実は神田橋氏と同じことをしているのだ。血液検査も画像検査も無しに、問診と見た目で「脳の病気」と決めつけ、当てずっぽうな投薬を始めるのだから。
だからこそ、精神科医は知ったかぶりをせず、外来でも患者の話をよく聞き、誤診や過剰投薬の可能性があれば即座に対応しなければならない。ところがそのような努力をせず、不適切な医療で患者を悪化させる精神科医が少なくない。精神科は医原病だらけなのだ。
悪化させられた患者の行く先は精神科病院だ。あのような場所に閉じ込められたら、精神疾患がない人でもおかしくなる。案の定、更に悪くなった患者は、隔離、拘束、薬漬けにされる。その舞台が精神病床33万床。これは断じて医療ではない。
このような暗黒世界を根底から変えるには、被害者である患者が立ち上がるしかない。横浜で始まった最新の動きなどを紹介する。

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