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Vol.198 院内モンスターへの対応策

医療ガバナンス学会 (2019年11月20日 06:00)


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この原稿は月刊集中11月末日発売予定号からの転載です。

井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2019年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.モンスターが院内でも増長
今から約20年近く前ころから、モンスターペイシェント(モンスター患者)とかモンスターペアレント(モンスター家族)などといった言葉が慣用されるようになって来た。一般社会的には、「誠実に対応しなければならない。」「きちんとその言い分を聞いてあげて、丁寧に説明しなければならない。」などという風潮による呪縛が、世間に浸透してきたことが背景にある。それに加えて、特に医療界では、医療過誤が声高に叫ばれるようになり、高額な民事訴訟や強引な刑事捜査が濫発された。それらの一般社会的背景や医療界特有の事情が、いわゆるモンスターペイシェントなどを必要以上に増長させてしまったのであろう。
モンスターペイシェント発生当初は、各病院診療所はどうしたらよいかわからず、パニック状態であった。今までの長い医療の歴史で初めての事態であったことからして、やむをえなかったとは言えよう。ただ、他の先駆的な分野での知見を導入するなどして、そこそこ時間はかかったが、各病院診療所の対応も徐々にこなれて来て、落ち着きを取り戻しつつあると言ってよい。
ところが今度は、モンスターペイシェントなどの院外のモンスターではなく、医師・看護師その他の職員を問わず、院内にモンスターが生じつつある。いわばこれらの院内モンスターの増長が、現在、各病院診療所を最も悩ましている水面下の最大の問題だとみなしてよい。

2.院内モンスターの発生要因
モンスタードクターを始めとするモンスタースタッフの発生の要因は、モンスターペイシェントなどとパラレルに考えられうるであろう。特に、パワハラ規制の影響が大きい。パワハラ規制そのものは正当な規制だとしても、その副反応として、院内の規律や統制が必要以上に緩んでしまいがちである。その隙間がモンスター化の要因の一つだと言えよう。また、時間外労働などの未払賃金訴訟や過労死の損害賠償訴訟が頻発した影響も大きい。今まで医療界は、現行の一般労働法制とは余りにも関わりなく過ごしてきた。現行の労働法がすべて正当というわけではないが、それにしても、余りにも全く現行労働法制とすり寄せをせずにやってきてしまったツケが回ってきているとも言えよう。
これらパワハラ規制や勤務医労働訴訟を背景として、院内でモンスターが発生して増長し、院内の他の誰もそれを止められなくなってしまった。各病院診療所の理事長、院長にも止められない。
それでは、各病院診療所としては、どうすればよいのであろうか?

3.モンスターペイシェント対応策を参考に
法律家である筆者から見れば、院外モンスター(たとえば、モンスターペイシェント)も院内モンスター(たとえば、モンスタードクター)も、その本質においては同様であり、モンスター対策という点ではその対応策も同様である。
かつて、モンスターペイシェント対応策として、医療現場ごとに様々なアイデアを実践されたことと思う。たとえば、筆者のアイデアとしては、その一例として2つほど挙げれば、1つは裁判所の調停を活用したし、もう1つは院内の委員会(検討会)を活用した。前者の裁判所の調停とは、簡易裁判所での一般民事調停を、特に「診療関係調整調停」という類型を創り出して、モンスターペイシェント対策に活用したのである。公式の場ではあるが非公開なので、活用の方策が豊富と言ってよい。ただ、もちろんそこには隠された活用のためのノウハウがあり、単に訴訟より簡易迅速低コストといった程度の認識しか持っていない人(弁護士も含めて。)には使いこなせないであろう。後者の院内の委員会(検討会)とは、医療事故等に関する院内医療事故調査委員会や院内検討会の原型となったものである。ただ、事故調査委員会というと直ぐに、専門的な第三者委員会を思い浮かべてしまう人(弁護士も含めて。)には、残念ながら、活用はできない。フレキシブルな発想と取扱いが肝要だからである。

4.医師の働き方改革と共に
たまたまの推移によって院内モンスター化してしまった職員も、そのまま原理主義的に突っ張ったままでいると、院内で一人取り残されてしまう。時代は「医師の働き方改革」「医療機関の統合・再編」の真っ只中である。各病院診療所も、各スタッフの労働量を減らし、業務を適正化・効率化し、そして、労働・業務の質を転換(必ずしも単純な「向上」ではない。)しなければ、生き残っていくことができない。簡単に言えば、各病院診療所とも、モンスター化した医師その他の職員を、そのままの労働・業務形態で雇い続けるほどのゆとりがなくなってしまった。
「医師の働き方改革」に応じて各病院診療所が質的な転換を図ろうとするのに抗して、今までのやり方や思いを硬直化したまま貫き通そうとするならば、そのモンスター化した医師その他の職員は(たとえ、単発的な労働訴訟には勝てたとしても、)働き方改革後の病院診療所にはその席が無くなってしまうであろう。
これは単線的な労働訴訟によって解決できる問題ではない。各病院診療所の「医師の働き方改革」推進の仕方によって、それと符合させつつ解決していくべき問題である。したがって、各病院診療所においては、今までの単線的な労使問題の視点ではなく、当該モンスターには、当該病院診療所の「働き方改革」を踏まえた質的転換に沿った労働・業務の転換を粘り強く要請していくべきところであろう。
つまり、「医師の働き方改革」と共に院内の「医師の働き方改革推進委員会」を活用しつつ、当該モンスターと粘り強く話し合い、時によっては、「医師の働き方改革調整調停」を申し立てるなどして、院内モンスターに対応していくべきなのである。

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