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Vol.211 ママ医師が知っておくべきリスクを解説「子どもの玄米食のデメリット」

医療ガバナンス学会 (2019年12月6日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(6月27日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019062000055.html

森田麻里子

2019年12月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

子どもに自然な食事を食べさせたいと、食事に気を使っているママ・パパがとても増えています。大人でも玄米を食べることがちょっとした流行にもなっていて、お子さんに玄米を食べさせている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

お子さんが玄米を消化できているようであれば、食べさせること自体はよいと思います。実際、食物繊維やビタミンB群など、栄養的なメリットもあります。我が家でも大人は玄米をメインで食べますし、息子も白米より玄米のほうが好きなので、よく食べています。野菜をなかなか食べてくれないので、親としては栄養面を少しでも補充できればという気持ちもあります。

しかし、玄米など健康によさそうな食事について、メリットは知っていても、デメリットについて知っていらっしゃる方は少ないです。どんな食べ物であっても、メリットとデメリットは両方あります。玄米であっても、いくらでも食べたほうがよいというわけではなく、バランスが大切なのです。今回はその一つの例として、玄米のデメリットについてあえてお話したいと思います。

そもそも米は、ヒ素が多く含まれている食材だということ、ご存知でしょうか。ヒ素の中でも、特に無機ヒ素という形のものに発がん性があると言われています。例えば農林水産省の2012年のデータによると、玄米1キログラム中に含まれる無機ヒ素は平均0.21ミリグラムで、精米した米では0.12ミリグラムでした。一方で他の食材を見てみると、1キログラムあたり小麦は0.009ミリグラム、大豆は0.008ミリグラムといった具合です。米に含まれる量は、小麦や大豆の10倍以上となっています。

ヒ素の摂取源としては、昔は飲料水もありました。1950年代には、日本でも井戸水が汚染された地域があり、一部では1リットルあたり1000μgを超えていました。1959年から1992年までのデータを用いて、1000μgを超える汚染があった地域と、汚染が無かった地域を比べると、がんによる死亡率は4.8倍にもなっていたことがわかっています(※1)。WHOの定める水のヒ素基準は1リットルあたり10μg以下で、日本でも同じ基準が適用されていますから、現在は水については心配ありません。

また、特に子どもはヒ素を解毒する力が弱く、影響を受けやすいと言われています。ヒ素は母乳にはあまり含まれませんが、胎盤は通過することがわかっています。

南米チリでは、1950~1960年代に水のヒ素汚染があった地域を対象に、ヒ素にさらされた年齢と病気の関係を調べた研究もあります(※2)。この地域では、当時水のヒ素濃度は1リットルあたり約860μgにも及んでいて、特に出生前や幼い時期から多量のヒ素にさらされると、特定の病気やがんの死亡率が上昇することがわかりました。例えば、気管支拡張症による死亡率は、生まれる前からの暴露で11.7倍、1~10歳からの暴露で5.4倍となっていました。また、膀胱がんによる死亡率は、生まれる前からの暴露で16倍、1~10歳からの暴露で7.4倍でした。

もちろん、現在普通に生活していて、このような多量のヒ素を摂取することはありません。玄米を一合食べたとしても、摂取する無機ヒ素の量は32μg程度です。

では、どのくらいの量なら安全なのでしょうか。無機ヒ素の摂取基準として、WHOは体重1キログラムあたり1日に3μgまでという値を設定しています。これは複数の研究をもとに、無機ヒ素を摂取しない場合よりも、肺がんの発生率の増加が0.5%以下となるように決められた値です。一方欧州では、体重1キログラムあたり1日に0.3~8μgと、幅のある基準を設定しています。これは、肺がんや皮膚がん、膀胱がんなどいくつかの病気について発生率増加が1%以下となるように決められたものです。

欧米では米は主食でないという背景もあり、米を食べる頻度についての基準もあります。例えばスウェーデンでは、大人でも米を毎日は食べないように、子どもは週4日以内にするように、という基準が設けられています。イギリスでも、4~5歳までは米から作った飲料であるライスミルクは飲まないほうがよいとされています。EUでは、玄米の無機ヒ素は1キログラムあたり0.2ミリグラムを超えてはならないという基準があります。アメリカ食品医薬品局も、赤ちゃんに食べさせるライスシリアルについては、ヒ素濃度の上限を1キログラムあたり0.1ミリグラムと定めています。

日本では、これまで長く米を食べてきて、特に大きな影響はなかったという歴史があり、はっきりとした基準は設けられていません。しかし、特に幼い子どもが食べる場合は、量に注意が必要だと思います。米の場合、ヒ素はぬか部分に多く含まれているので、精米してよく研ぐことで、ヒ素も減らすことができます。玄米だけに偏らないよう、白米やパンもバランスよく食べさせるのがよいでしょう。

また、もう一つヒ素が多く含まれている食材には、海藻類、とくにひじきがあります。農林水産省のデータでは、ひじき乾物1キログラムあたり平均67ミリグラムの無機ヒ素が含まれているようです。イギリスでは、2010年、発がんリスクを懸念して、ひじきを食べないようにという勧告が出されています。

ただし、ひじきは米のように量をたくさん食べるものではありません。水で戻して水洗いすると5割、5分間ゆで戻して水洗いすると8割の無機ヒ素を減らすことができます。余裕があれば、乳幼児に食べさせる場合、ゆでて戻し、よく水洗いするとよいでしょう。

こうして調べていくと、結局どんな食材も一長一短で、結局はバランスよく食べるというのが一番よい答えのようです。イメージだけではなく、何をどう食べるのがよいか考えるきっかけにしていただけたらと思います。

(※1)Tsuda T, Babazono A, Yamamoto E, Kurumatani N, Mino Y, Ogawa T, et al. Ingested arsenic and internal cancer: a historical cohort study followed for 33 years. Am J Epidemiol. 1995;141(3):198-209.

(※2)Roh T, Steinmaus C, Marshall G, Ferreccio C, Liaw J, Smith AH. Age at Exposure to Arsenic in Water and Mortality 30–40 Years After Exposure Cessation. American Journal of Epidemiology. 2018;187(11):2297-305.

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