最新記事一覧

Vol.222 医薬品の廃棄の問題から地域医療を俯瞰する ~地域で解決策を話し合う必要性~

医療ガバナンス学会 (2019年12月26日 06:00)


■ 関連タグ

Pharmacists “DI”scovery (JAPAN)
代表・薬剤師・博士(薬学) 橋本 貴尚

2019年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

読者の皆様、いつも大変お世話になっております。この度、薬剤師の視点から見た医療の問題点を継続的に発信するため、自分1人で任意団体を始めることにしました。これからも変わらず御指導御鞭撻賜わりますよう、何卒お願い申し上げます。

今回は、日常臨床の中で顧みられることが少ないと感じている「医薬品の廃棄」の問題について、参考資料を提示しつつ実状の一つを紹介致します。そして、「医薬品の廃棄」は地域医療全体の課題であることを提言させて頂きます。

日々の業務において、医薬品の廃棄は日常的に目にします。理由として、「期限切れ」の他に多いのが持参薬の廃棄です。例えば、「容態が悪くなって入院し、これまで飲んでいた薬から他の薬に変更」や、「糖尿病治療薬は中止(採血を頻回するのでそれで対応)」、「抗凝固薬は中止(ヘパリンで代替)」といった理由が挙げられます。その他に、患者さんがお亡くなりになると、ご遺族は薬を渡されても困ってしまうため全て廃棄になることがほとんどです。
インターネットで「医薬品 廃棄」と検索しますと「薬局が廃棄する医薬品、年間100億円超」という記事を発見しました。その他にも、「遺品整理と医薬品の処分」という記事も発見しました。

医薬品廃棄の一つの実例の紹介
インターネットの「医薬品の廃棄、年間100億円超」と言われても、皆さん実感が湧かないと思います。そこで、1施設の事例ではありますが、医薬品の廃棄の現状について調査してみました。手法と結果は以下の通りです。

方法:薬剤部にある医薬品廃棄用ゴミ箱(図1,2)に廃棄されている薬を集計。
2019年9月22日夜にゴミ箱を空にし(図1)、19日後の10月11日にたまった薬を数えました(図2)。
外用薬は包装単位で個数を数えました。集計から除外した薬は、「粉砕されていた薬」、「一包化され且つ薬の識別が困難だった薬」、「外用薬で、開封済みの薬」、「医療用麻薬(別に管理)」としました。
評価項目として、「19日間の廃棄数(実数)」、「19日間の廃棄金額(実数)」、「1日当たりの廃棄金額(推定)」、「1ヶ月間の廃棄金額(推定)」、「1年間の廃棄金額(推定)」を取り上げました。金額は薬価で計算しました。

結果は表1の通りです。19日間の廃棄数は錠剤並びにカプセル剤が4,317個、散剤が1,064包、外用剤が26個、OTC薬が32個、合計5,439個となりました。廃棄金額(実数)は21万4,496円でした。
これを元に各種推定値を計算しますと、1日間の廃棄金額は11,289円、1ヶ月間では33万8,678円、1年間では406万4,142円となりました(表1)。対象施設の1日平均在院患者数は約250名(2019年10月成績)ですので、1日間の廃棄金額を250名で除すと「45円/在院患者/日」という額になりました。

製薬企業の種類が多かった医薬品としては、アムロジピン錠4銘柄(「明治」、「トーワ」、「杏林」、「NS」)、ウルソデオキシコール酸錠3銘柄(「トーワ」、「テバ」、「サワイ」)、ロキソプロフェン錠3銘柄(「EMEC」、「日新」、「サワイ」)、フロセミド錠3銘柄(「トーワ」、「NP」、「武田テバ」)、クロピドグレル錠3銘柄(「ファイザー」、「クニヒロ」、「SANIK」)となりました。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_222-1.pdf

図1 医薬品廃棄用ゴミ箱 空の状態
図2 医薬品廃棄用ゴミ箱 19日後の状態

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_222-2.pdf

表 宮城県内1施設における廃棄医薬品 集計結果 (集計期間:2019年9月22日~10月11日(19日間))

1人の患者さん当たり45円分の過剰な薬を整理するために、みんなで取り組めること〈提言〉
今回の調査を踏まえ、次の仮説を立てました。「『年間の廃棄総額406万円』を改善するために、我々は1人の患者さんに対して『45円』分の過剰な薬を整理してみる」です。これなら、医療従事者は無理なく取り組めるかもしれません。「45円分の薬の整理」を達成するために、様々な角度から提言をさせて頂きます。

(1)医療従事者個人が日々の医療の中でできること
一言、「お薬余ってない?薬局で整理してもらってね」と言って頂くだけでOKです。平成30年度調剤報酬では、残薬を調整した場合に「重複投与・相互作用等防止加算」で30点が付きます。
僕の経験として、主治医が上記の制度を知らずに、診察時に患者さんに山のような残薬を全て持参してもらい、看護師や薬剤師を総動員して数えている事例を見たことがありますが、調剤薬局に全て任せてしまってOKです。
他方、残薬の質問をすることで副次的な情報を得られる経験もしました。「抗がん剤のカペシタビンの残薬あり」とのことで詳細を伺うと、具合が悪くなって錠数を減らして内服していたとのことでした。以降、患者さんのご希望で、減らした錠数で内服を継続することとなりました。
その他、夜間にお酒の接待が多い重役クラスや営業をされている患者さんは夜の薬は飲み忘れがちですし、朝ご飯を食べない方ですと「朝食『後』だから、朝ご飯食べなかった時は飲んじゃダメだよね」とおっしゃる方も多いです。残薬に関する質問より、患者さんの色んな生活事情を知ることができます。

(2)病院・医療機関単位でできること
医薬品の期限切れ廃棄の情報や持参薬廃棄の情報を、病院スタッフ全員で共有して欲しいと思います。日々、たくさんの薬が廃棄されていることをスタッフ間で共有できていないから、問題が見過ごされていると感じています。特に、病院管理者に知って頂きたいと思っています。
今回の調査で、とある医薬品が未開封のまま期限切れを迎えて廃棄されていたのを発見しました。製薬企業の方の薦めも含めて色んな人間の思惑が絡んで採用したものの、忘れられて2年余りの歳月が過ぎ、期限切れとなったものです。期限切れ間近な医薬品は使用促進に向けて働きかけるべきであったと思いますが、製薬企業の方におかれましても、「売りっぱなし」ではなく、「売った後も」気にかけて欲しいと思います。医師の本心ではない医薬品採用は、結局忘れられ、期限切れ廃棄になってしまう場合があるのです。
しかしながら、病院単位での医薬品廃棄削減の取り組みには限界があります。患者さんの退院時に薬剤師がきれいに退院処方を整えて持たせても、かかりつけ医で処方が使い慣れた薬に修正され、再入院時には以前の退院処方とかかりつけ医の処方薬を両方持参される方が散見されます。両方の薬は活用できないので、廃棄の割合が増えてしまいます。2019年9月の台風19号で被害を受けた国保丸森病院では、診療体制が整わないとして近隣病院へ患者さんの転院が行われました(河北新報ONLINE、https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201910/20191016_13017.html  閲覧日:2019年11月22日)。しかしながら、医療機器など診療に関わる話は出ているものの、転院後の薬はどうなっているのかについては触れられておりません。
以上、薬の問題を地域単位で話し合う必要性が出て参ります。施設を超えた協力体制については、次で言及します。

(3)地域単位でできること
ここでの重要な観点は、「地域医療は、医療機関・薬局全体で考える必要がある」ということです。とりわけ、医療・介護の人員が限られる地方においては、今あるインフラを最大限活用しなければなりません。宮城県気仙沼・南三陸地域の取り組みが先駆的ですので、紹介します( https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/ks-health/k-iryou-kaigo.html  閲覧日:2019年12月19日)。
さらに、地域単位で採用薬をある程度統一し、ルール化を図るための検討が日本各地でわき起こっております。これが「地域フォーミュラリー」です。先駆事例として、山形県医師会会報第812号に「地域フォーミュラリーへの取り組み」と題して「日本海ヘルスケアネット」の取り組みが紹介されております(山形県医師会ホームページ http://www.yamagata.med.or.jp/  閲覧日:2019年11月22日)。詳細はそちらをご参照下さい。
宮城県気仙沼・南三陸地域のように地域単位で自ら立ち上がることの重要性は、2019年9月に提示された、再編や統合を議論すべきだとする全国424病院の実名公表の事実を見ると痛感します(各ホームページ参照)。先述の国保丸森病院も再編対象です。そして、厚生労働省、「地域医療構想に関するワーキンググループ」の議事録を読む限り、公的病院の評価は「診療実績」のみで、将棋のコマを移動させるような物言いで「他の医療機関へ脳卒中を移す」といった記載でした。病床が他の施設に移動すれば患者さんも移動するわけですが、同時に薬の連続性も担保されなければなりません。
2019年11月13日に、宮城県にあるみやぎ県南中核病院(大河原町)と公立刈田総合病院(白石市)は、前者を「急性期」、後者を「回復期」と機能分化を推し進めることになりました(河北新報ONLINE、 https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201911/20191114_13006.html  閲覧日:2019年11月23日)。これらの病院は再編要請対象ではありませんが、病院の赤字を改善させることや、診療科を再編して安定した医師配置を実現させるために実施されます。患者さんは病態に応じて2つの病院を行き来する可能性も想定できますから、いずれは両病院の採用薬について近隣の開業医も交えた話し合いの必要性が出てくるのではないかと考えております。
過去の政策を見ると、国が言ったことの多くは最終的には実現します。それならば、地域の医療体制を死守するために、我々自らが個々の利害を超越して話し合い、少しでも良い方向に持っていく必要があります。その機会が「地域医療連携推進法人」であり、「地域フォーミュラリー」であると僕は理解しています。
「地域フォーミュラリー」作成に向けた手順の一つを提示します。まず、各医療機関の薬剤師が自施設の薬の使用頻度を調査し、それを持ち寄ってすり合わせを行い、診療ガイドラインなどの各種エビデンスも参考にしながら地域の採用薬候補のたたき台を作成します。次に、地域の薬剤師会と医師会で共同の作業部会を立ち上げますが、たたき台作成の段階から医師の方に入って頂くのが、最も望ましいと思っています。ここでの重要なプロセスは、地域の開業医の方々との合意形成です。そこで反対意見が出てしまえば、前に進めなくなります。宮城県でも地域フォーミュラリー作成に向けた動きが出て参りました。僕もそのメンバーの1人です。丁寧な合意形成を積み重ねて参りたい考えです。
以上、1施設の「医薬品廃棄の問題」の話から地域医療の進むべき道の一つを考察してみました。考えについて至らない点はあるかと思いますが、読者の皆様の参考になれば大変幸いです。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ