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Vol.019 シーズン直前! 受験前に知っておきたい「本当の風邪予防」 睡眠時間でリスクが変化!?

医療ガバナンス学会 (2020年1月31日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(12月18日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019121700049.html?page=1

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈

2020年1月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

そろそろ受験のシーズンですね。大手学習塾に通う小学生の子どもたちの中学受験前1カ月の過ごし方を読んでいたら、「試験までの1カ月は全く外出しませんでした」との意見が多数ありました。

追い込みの時期や試験当日に、風邪はもちろん、インフルエンザにかかってしまったら大変ですものね。私ごとですが、中学受験を間近に控えた小学6年生の12月初め、インフルエンザにかかってしまいました。高熱と関節痛にうなされ、5日間ほど寝込む羽目に。焦る気持ちはありましたが、身体は悲鳴をあげていたのかもしれないと考え、過去問を封印して休むことに専念したのでした。

母親の方針もあり、インフルエンザが治った後は、受験前日まで小学校に通いました。私にとっては、家の外に出ることが気分転換になっていました。一方で、塾の友人の中には、12月から小学校を休んで自宅でずっと勉強している子もいましたし、大学受験の時や医師国家試験前は、一日中部屋にこもって勉強していた記憶しかありません。

とはいえ、外出しないからといっても風邪予防は大切です。受験生だけでなく、それを支える周りの人たちも気になる風邪対策について、風邪にまつわる論文や私の経験談を交えながら、お話したいと思います。

俗に言う「風邪」とは、かぜ症候群と定義されています。咳やのどの痛み、鼻水や鼻づまり、発熱、だるさ、頭痛や筋肉痛などを引き起こします。風邪の原因の80~90%はウイルス性です。RSウイルスやパラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが主な原因となって風邪を引き起こします。

風邪はあらゆる年齢層に発症します。米国のミシガン大学のMonto医師は、就学前の子供は年に5~7回、成人は年に2~3回の頻度で風邪を発症する、と報告しているのです。

残念ながら、ウイルスに効果のある特効薬は存在しません。

ウイルスに「抗菌薬」は効かないため、水分や栄養補給を行いながら安静に過ごすのが主な治療法です。

ただし、細菌や肺炎マイコプラズマなども原因となる場合や、ウイルス感染についで二次性の細菌感染を引き起こし、肺炎に至るケースは抗菌薬が必要になってきます。

「先生は風邪をひかないのですか?」

外来診療をしているとよく聞かれる質問です。風邪をひいたなと感じることは、もちろんあります。睡眠不足が続いた時や食生活が乱れた時にそう感じることが多いように感じます。まさに、医者の不養生ですね。

風邪予防の一つは、「睡眠」です。実際に、睡眠時間が短いと風邪をひきやすいという研究報告があります。カリフォルニア大学のPrather氏らは、5時間未満の睡眠または5~6時間の睡眠の人は夜間に7時間以上寝ている人と比較して、風邪をひくリスクが高かったことを報告しています。

さらに、睡眠と成績に関する報告もありました。ワシントン大学のDunster氏らの報告によると、米国ワシントン州シアトルの2つの高校で授業開始時間を1時間ほど遅らせたところ、生徒の毎日の睡眠時間が34分間増え、眠気が減り成績が上がったというのです。

睡眠は、体を休ませ体力を回復させることに繋がり、結果として免疫機能を高めてくれるのです。運動習慣や食事摂取も、とても大切。体力の低下や栄養不足も、免疫の低下に繋がります。

二つ目は、「保湿」です。のどや鼻などの粘膜が乾燥すると、粘膜のバリア機能が弱くなり、免疫が働きにくくなります。すると、のどや鼻の粘膜からウイルスが侵入し、風邪を引き起こしやすくなってしまいます。

マスクの着用は、のどや鼻の粘膜を覆うことができる簡単な保湿対策になります。こまめな水分補給を行って、脱水予防も大切です。

三つ目は「こたつの中で寝ない」ということです。こたつの中は、人間の体温よりも高い温度になっています。そのため、こたつの中に入っている体の部分はどんどん暑くなってしまいます。

私たちの体は、汗をかくことによって体温を下げようとしますが、引き続き、こたつの中で身体は温められつづけてしまうため、さらに汗をかくことによって、体温をさげようとします。

すると、のどや鼻などの呼吸器系は水分が不足した状態となってしまい、免疫が働きにくくなってしまいます。けれども、寝てしまっていては水分が不足しているという体の変化に気づきません。結果的に、免疫が働きにくくなった状態で、乾燥した口腔・鼻粘膜からウイルスが侵入することによって、風邪を引き起こしやすくなるのです。

余談ですが、脱水状態になると血液が濃縮され、血栓ができやすくもなります。血栓によって血管が詰まると、脳梗塞や心筋梗塞など命に関わる病気を発症することにも繋がってしまいます。また、こたつの中は狭く、十分な寝返りを打つことができません。そのため、同じ姿勢を長く続けることが腰や肩などの筋肉や関節の負担となり、腰痛や肩こりをも引き起こしてしまうことにも繋がります。

なお、電気毛布や電気カーペットの使用にも注意が必要です。体全体が温まるため、寝ている時に使用すると体温調節ができなくなり、こたつと同様に脱水を招く恐れがあるだけでなく、低温やけどを起こす危険性もあるからです。

最後に、受験シーズンの対策で忘れてはいけないのが、インフルエンザです。FDA(アメリカ食品医薬品局)のゴットリーブ長官は、「FDAが承認したインフルエンザを治療する抗インフルエンザ薬はいくつかあるが、予防接種の代わりになるものはない」と述べています。

もちろん、インフルエンザの予防接種をしたとしても、予防の必要性に変わりはありません。受験生であってもそうでなくても、日々の対策・予防が大切です。風邪に気をつけて、良き年末年始を迎えてくださいね。

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