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Vol.020 「念のため医療」からの脱却 ~風邪薬と抗菌薬の関係~

医療ガバナンス学会 (2020年2月3日 06:00)


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三豊総合病院
藤川達也

2020年2月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「風邪薬をください。」とお願いして、「風邪に効く薬などはない。」と説明を受けたことはあるだろうか。
冬になるとテレビでは「早目の○○○○」や「絶対に休めない人~」など総合感冒薬のCMが目につく。あれは風邪薬ではないのか?と思うのではないだろうか。そして医療機関でも風邪症状で受診した際に確かに薬が処方される。
真実はこうだ。いわゆる「かぜ」とはウイルスが原因で鼻汁、咽頭痛、咳、痰などの症状をもたらすものであり、ライノウイルスやコロナウイルスなどが原因となることが多いがその他にも原因となるウイルスは多数ありそれらウイルスに対する特効薬(抗ウイルス薬)は存在しない。(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 – 厚生労働省)
(ウイルスでもインフルエンザウイルスにはその増殖を抑制するなどの働きを持つ抗インフルエンザウイルス薬が存在する。)(蛋白質 核酸 酵素Vol.54.No.10 P.1284-1291(2009) )
それら「かぜの原因となるウイルスによってもたらされる鼻汁、咽頭痛、咳などの諸症状を緩和する薬」が感冒薬として使われているだけで根本的なウイルス治療は自己の免疫力で治癒を期待するのみである。

また、風邪に効く薬と言うほど直接的ではないとしても、以下のような要望を聞くこともある。
「のどがすっきりしません。咳も続き、痰も切れにくいんです。あのバイ菌のクスリ、以前良く効いた気がしますから出してもらえないでしょうか。」
これは、つまりかぜ症状に対して抗菌薬の飲み薬を使いたいという要望である。
抗菌薬は細菌の感染症治療に用いられる。(微生物が作った抗菌薬を抗生物質、抗生剤と呼ぶこともある。)http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-3.html
これらが「かぜ」の原因であるウイルスに効果を持たないのは上述した通りである。
長びく咳、膿性の喀痰、発熱などから肺炎と診断された場合にはもちろん適切な抗菌薬の使用は必要である。しかし、いわゆる「いつものカゼ症状」には抗菌薬は不要なのである。
私が医師に成り立ての頃、二十年以上前の話だが、よくこのような抗菌薬に対する要望を聞いた。最近こそ、その要望は減ったがまだ依頼されることもある。
かくいう私も医師に成り立ての頃は今ほど抗菌薬の使用基準を厳格なものととらえていなかった節があり今となっては反省する点がある。
明らかにカゼ症状の患者に対してはその症状をやわらげる消炎剤や鎮咳剤の服用を提案するが、「とは言っても前回は効いた気がしますし、もし菌が『悪さ』をしたら困るので予防で使っておくほうが安心でしょう?これまで使って特に問題はなかったですし。」と抗菌薬処方を頼まれることもある。もっともらしい意見である。
しかし実は安易に抗菌薬を使うことは多数の問題をはらんでいるのである。

1、風邪から肺炎になることを予防できてよかったという可能性は極めて低いこと
2、抗菌薬も短期的には嘔吐、下痢、皮疹などの副作用は少なくないこと
3、そして長期的にその抗菌薬が効かない耐性菌が出現すること

などが問題となる。(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 – 厚生労働省)
抗菌薬の薬剤耐性に関する話題は最近の報道でも耳にする機会が増えたのではないだろうか。AMR(Antimicrobial Resistance)という略語で報道されることもあり薬剤耐性、つまり抗菌薬が効かない菌が出現する問題である。(抗微生物薬適正使用の手引き 第二版 – 厚生労働省)
近年、耐性菌は世界中で増えており2013年耐性菌に起因する死亡者数は低く見積もって70万人とされている。このまま何も対策を講じなければ2050年には世界で1000万人の死亡が想定され、これはがんによる死亡者数を超えるとすら言われている。http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-4.html いかにその問題が深刻かお分かりになるだろう。

最近では「抗菌薬はあまり使わないほうが良いと聞きましたよ。私の症状なら不要ですよね。」と、こちらから処方するつもりはなくても、あらかじめ患者の側から尋ねてくるケースもみられるようになった。AMR対策が徐々に浸透してきている結果と言えよう。

薬は、医師による適切な診断あってこそ処方されるものである。抗菌薬も必要な時には極めて重要な薬であることは間違いない。しかし残念ながら今も患者側からの要望で安易に処方がなされてしまうことが無いとは言えない。
さらに適切な使用とは言えない抗菌薬の中でも比較的新しい、広域抗菌薬と言う幅広い細菌の種類に効果を示すものが頻用されることがある。この場合はより耐性菌の出現を懸念すべき状況なのである。それは耐性菌以外の細菌が減少し、耐性菌が相対的に増加することで耐性菌が増殖の機会を得るからである。( http://amr.ncgm.go.jp/medics/2-1-4.html )
新しく開発され、ここぞという限られた状況で使うべき薬が耐性菌のために使いにくくなってしまえば感染症治療が上手くいかないことも想定されるがこれは是非とも避けたい。

ここまで耐性菌についての話題であったが、それはどこか病院の中の問題、日常生活とは離れたところの問題と考えてしまわないだろうか?重篤な疾患、高度医療を施す高次医療機関、院内感染などをイメージするかもしれない。しかし今では外来患者にも広がっており治療を難しくする要因となりつつあるのだ。

http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-161228.pdf

実際に、健康な生活を送っていたはずの若年患者の尿などから耐性菌が検出され感染症の原因となっていた事例も経験し耐性菌に対する対策は待ったなしの状態であると実感する。
耐性菌はその患者個人の問題となることはもちろんだが、家族内でも、ひいては患者が住む地域の問題にもつながる。つまりある病院や地域で新規の抗菌薬が頻回に処方されればその抗菌薬が効きにくい耐性菌がそこに出現しやすくなるのだ。( http://www.kansensho.or.jp/ref/d71.html )
( http://amr.ncgm.go.jp/pdf/201904_outbreak.pdf )
かぜ症状で医療機関を受診した場合、いつもの風邪と異なる症状があれば詳しく伝え、医師と考えられる病態について説明を聞きしっかり話し合っていただきたい。そのうえで医師から「今回はかぜ症状が主な症状ですから鎮痛薬や咳止めを使っておきましょう。抗菌薬は不要でしょう。」と提案されたなら。その言葉はあなた本人の今と未来を、そしてあなたの家族をも守ろうとする思いが込められた提案であると理解していただきたい。

(プライバシー保護のため実例を一部改編しています。このコラムは個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではありません。)

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