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Vol.027 福島県いわき市において若手医師を増やすためには

医療ガバナンス学会 (2020年2月12日 06:00)


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常磐病院 外科
尾崎章彦

2020年2月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

いわき市で本格的に乳腺診療に携わるようになって1年以上が経過した。その期間、診療の中で、患者さんからしばしば耳にした言葉が、「他の医療機関に電話したが1年以上予約が取れないと言われた」といったものである。もし患者さんが乳がんを抱えていたとしたら、それだけの期間、受診の日を待ち続けていたとしたら、病状が進行してしまう可能性が高い。そのため、当然、1年という待ち時間は望ましいものではない。無論、このような患者さんの発言を紹介するに当たり、特定の医療機関を批判する意図は全くない。私がお伝えしたいは、現地において、受診を希望する患者さんの数に比較して、それに対応できる医療者の数が足りていない現状である。どんなに患者さんが受診を希望していたとしても、無い袖は振れないということである。

上の例に示唆されるように、いわき市の医療で最大の懸念は、医師不足、特に病院勤務医師の不足が問題と言って過言ではない。2014年の人口10万人当たりの医師数(172.1人)は、全国平均(233.6人)、福島県平均(188.8人)をいずれも下回る。同様に、医師の高齢化も深刻である。なんと、2017年のいわき市の医師の平均年齢は43の中核市(法定人口が20万人以上の市)において最高齢(55.5歳)であった。実際、当院においても、10年目以下の常勤医は私を含めて5人のみという状況である。

その有効な解決策は若手医師を増やすことだ。もちろん、地域住民には、若手医師よりもベテランの医師に診察してもらった方が安心だという方もいるだろう。私としても、病院や地域で多くのベテランの医師が現役で診療に携わっていることについては、大変心強く感じているし、事実としてお世話になっている。一方で、病院が活力を維持し、安定して必要な医療を提供していく上で、若手医師は大きな戦力になるのも事実である。そのように考えるのは、福島第一原発から北に23kmに位置する南相馬市立総合病院での経験があるからだ。南相馬市立総合病院は南相馬市の公立病院であり、東日本大震災前後にわたり、南相馬市とその周辺地域の医療を支えてきた。私は、2014年から2017年まで南相馬市立総合病院に縁があり在籍していた。

震災前の2010年、南相馬市立総合病院の常勤医師数は12人だったが、震災後の2016年には32人まで増加した。中でも20代の医師数の増加は著しく、この期間に0人から8人に増加した。最大の要因は、2013年から毎年2人の初期研修医の受け入れを開始したことだ。震災後、南相馬市立総合病院は多くの報道において取り上げられたこともあり、2013年、2014年といずれの年もフルマッチとなった。その成果が認められ、2015年には研修医の受け入れ数が4人まで増加、やはりこの年もフルマッチした。
その過程で私も様々な初期研修医と仕事をする機会に恵まれたが、最も思い入れ深いのは澤野豊明医師である。彼は2014年に初期研修医として南相馬市立総合病院に入職した後、そのまま外科の後期研修医として南相馬市立総合病院に残ってくれた。そして、その中で、同僚として様々な手術や患者の管理をともに行った。彼は論文執筆にも興味を持っていたこともあり、日々の臨床に関して、さらには、震災後の健康問題などについて、多くの英語論文を一緒に執筆した。その数は現在までに37報を数える。なかでも、彼が筆頭著者として、南相馬市立総合病院に入院していた除染作業員のデータをまとめた論文は、除染作業員に関する数少ない学術論文として当時メディアにも大きく取り上げられ、この問題に対して社会の関心を集める大きな助けになった。

このような経験があり、私自身、初期研修医は医療機関のみならず地域に活力を与える存在であると信じている。新専門医制度の中で3年目以降に初期研修医が地域にとどまることが難しくなったとは言え、その事実は今も変わりない。それではいわき市においてはどの程度の初期研修医が在籍しているだろうか。今回、いわき市全体として、初期研修医の受け入れが、どの程度の水準にあるか調査を実施した。用いたのは、全国43の中核市における人口データと研修医受け入れ病院の2019年度の研修医マッチング数である。この結果、図1のように、人口10万人あたりの初期研修医の数において、いわき市は下から数えて7番目であり、最も多かった旭川市と比較するとおよそ5分の1の水準だった(もちろん、旭川市には医科大学が存在していることについては差し引いて考える必要がある)。
いわき市においては、いわき市医療センターと福島労災病院が臨床研修病院として指定を受けている。そして、2019年秋に行われた初期研修威のマッチングにおいて、合計で14人の定員のうち12人が内定していた。以上を加味すると、私としては、そもそも、いわき市の初期研修医の枠自体がいわき市の人口水準に比較してあまりに少ないように感じている。

現在、当院は、協力型臨床研修病院として、初期研修医を短期的かつ散発的に受け入れているが、基幹型臨床研修病院として初期研修医を受け入れるには至っていない。ただ、上に述べたようないわき市の初期研修医事情を考えた時、基幹型臨床研修病院に指定していただくことはできないか現在模索しているところだ。また、初期研修医制度を離れても、当院を若手医師にとって魅力ある職場としていくことは、いわき市の医療の継続性においても重要である。院長の新村の下、私も、一兵卒として、微力ながらこの目標に向けて取り組んでいく決意だ。みなさまにはどうか今後ご指導ご鞭撻をお願いしたい。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_027.pdf

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