医療ガバナンス学会 (2020年2月14日 06:00)
この原稿はnote (1月29日配信)からの転載です。
https://note.com/orange_be_happy/n/nf0a7335ee59c
医療法人社団オレンジ 理事長
紅谷浩之
2020年2月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2016年4月1日に書いた文章です。福井県で初めて地域の小学校に入った医療的ケア児。今度の春に彼女は5年生になります。一緒に人生を歩む仲間、としての地域の医療の存在、佇み方。いつでも振り返りたくなる、道標です。
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8ヶ月前、出会ったキッズがいます。今日から小学生になる子です。
それまで別のクリニックから訪問診療を受けていましたが、病気を診るだけでなく「小学校入学に向けた相談にのってほしい」「将来、どんな職業に就けるか一緒に考えてくれる主治医が欲しい」という理由で、オレンジは出会わせてもらいました。
その子は、寝たきりでもなく、字も書けますが、気管切開をしています。
既存の制度ではサポートしきれない、新時代の障害児とも言われます。
地元の小学校は受け入れに消極的でした。提案されたのはクラスメイトのいない、ひとりぼっちの特別支援学校。
それでいいのか??いっぱいお話をしました。
いままでで最も教育委員会や学校という多職種と話す機会をもらいました。教育委員会を始め、学校の先生たちは、子どもを育てるプロ。そのためのアイデアや技術をたっくさんもっていることを知りました。
学校の先生は、みんな魅力的な人たちで、「どうしたらその子が学校で楽しく学んで成長できるか」を考えてくれていました。
でも、医療については素人なので、医療がどう必要で難しいのかをしきりに心配されます。僕らは医療のプロで教育の素人。彼らは教育のプロで医療の素人。
「わかってほしい!」「わかってねぇなぁ・・・」といろんな想いが渦巻き合うなか、「そんな考え方があるんですね」と共感が芽生えてきた時、新しいアイデアも出てきます。ハッピーに繋がります!
その子は、隣の学区の普通学校の普通学級に入ることができました。
もちろん、不安はたくさんあります。でも、ワクワクもたくさんあります。
関わるみんなで悩んでいこうと決めました。
友だちといっぱい新しい経験をしてくれると思います。
学校側もいろんなサポートシステムを考えてくれています。
オレンジも医療のプロとして応えていきたいと思います。いつでも学校に医師や看護師が相談や応援に行くことを約束しました。
その子には仲の良い後輩がいます。同じく気管切開の子です。
センパイが学校に通えたこと、ものすごく励みになっています。繋がりがでてきました。
地域での暮らしは繋がっていて、
一見の困り事はコミュニケーションのチャンス。
春一番の学びと決意を記しました。
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今でも、講演会などで、この時の話をさせてもらいます。今、振り返って、とても大事だったのは、彼女本人が、大人(学校、医療者、行政、両親)の会議に参加したこと。
発信できない存在、と決め付けずに、子どもであり、障害児である彼女が会議で「この学校で勉強したい」と発言したこと。
医療者にとっては不安でしかなかった、半身麻痺は…
“リハビリ”ではずっと改善しなかった、半身麻痺は…
学校に行ったらどんどん良くなり、すっかり良くなり
出会った時は、立っているだけで右側に傾き倒れて行った彼女は、1年生の秋にはマラソン大会で完走し、今は体育の授業で縄跳びが好き!と言っている。
リハビリを頑張れば、学校に行けるよ。ではなく、
学校に行けば、リハビリいらなくなるよ。だった。
ここで判断を誤ったら、リハビリ頑張るだけで何年も経ってしまっていただろう。そう思うと、地域や生活や人生を支えようとする“医療”の役割や、距離感には、とても緊張感を伴う。正直、彼女がマラソン大会で完走した話を聞いた時は、嬉しさよりも怖さで涙が出た。その涙を忘れないように、地域での佇み方を考え続けたい。
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医療法人社団オレンジ 理事長 紅谷浩之
福井県福井市の在宅医療クリニック・オレンジホームケアクリニックと、医療的ケア児のための日中活動拠点OrangeKids’CareLab.(オレンジキッズケアラボ)を運営しています。
オレンジホームケアクリニック
https://www.orangeclinic.jp
OrangeKids’CareLab.
http://carelab.jp