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Vol.036 急性期病院の集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている

医療ガバナンス学会 (2020年2月21日 06:00)


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一般社団法人全国医師連盟代表理事
中島恒夫

2020年2月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

厚生労働省(以下、厚労省)は、(1)地域医療構想の実現、(2)医師の働き方改革、(3)医師偏在対策を「三位一体の改革」と位置づけ、医療提供体制の改革を進めている。令和元年9月26日には、「再編統合リスト」(以下、「リスト」)を厚労省は公表1)し、全国の424の公的病院が名指しされた。
ところが、この「リスト」を巡り、いくつもの誤った解釈が多くのメディアから報じられており、財務省の思惑が透けて見える。また、「リスト」につきまとう誤ったシナリオが、いくつも報道されている。

1:病院の再編統合を病床数削減の口実にし、医療費を削減したい財務省の思惑に利用されていること。
2:医療崩壊の主因である医師不足を放置したまま、過重労働を強いられている勤務医をさらに疲弊させる
医療政策を推進しようとする多くの医療破壊者に口実を与えていること。
3:再編統合の手法どころか、再編統合の目的自体に誤りがあることをどのメディアも報じていないこと。

現在の医療制度の様々な誤りを整理した上で根本から正さなければ、医療制度をより良く出来るわけはない。小手先の修正は、厚労省にとって恥の上塗りでしかない。今後の医療制度の方向性を修正するために、全国医師連盟(以下、全医連)理事会からの提言を、令和2年1月27日にプレスリリースした(http://zennirenn.com/news/2020/01/post-92.html)2)(http://zennirenn.com/news/2020/01/post-93.html)3)。厚労省には、この2つの提言の実現化を願う。

医療制度改革で最初に取り組まなければならないことは、過重労働を最も強いられている急性期病院の勤務医を救うことである。いかなる医療制度を設計したところで、急性期医療の無い医療制度はありえない。過労死が2回できる1860時間もの時間外労働を強いられる急性期病院の勤務医4)を救わなければ、いかなる医療制度も画に描いた餅である。急性期病院の勤務医を過労死させる制度は、地域住民を危険な医療に晒していることになる。過重労働中の医師による急性期疾患の診療を受けたい住民がいるわけはない。

1860時間どころか、960時間の時間外労働を強いることは「労災」ではなく、もはや「殺人」である。これまでの時代が「致し方なかった」で済まされることですら許し難いが、これからの時代を担う医師たちに「自己研鑽」や「聖職」を口実に時間外労働を強いる人は、「故意犯」である「殺人者」と言えよう。このような「故意犯」が、これからの世代の働き方改革に口を挟むことは言語道断であり、医師の働き方改革に関する議論の場から速やかに退くべきである。

多忙を極める急性期病院の勤務医の過重労働を解消するためには、急性期病院の勤務医を大幅に増員することが不可欠である。しかし、急性期病院の勤務医が急に増殖することはない。そのため、急性期病院を集約することで、一施設あたりの増員を図るしか過重労働の解消方法は無い。全医連は、急性期病院の大胆な集約化を以前から主張してきた5)。「一診療科で最低7名」揃うことで、交代性勤務が初めて可能となるモデルも主張してきた。しかし、7名では忌引きや病欠などの急な欠勤や、学会への参加もままならない。日本産科婦人科学会の第1回拡大サステイナブル産婦人科医療体制確立委員会では、時間外労働を年960時間未満(A水準)とするためには、一施設に10名必要だとの試算の発表6)もあった。

これは、産科だけの問題ではない。急性期診療に関わる診療科は、地域内に専門医を広く薄く配置している現状を早急に改めなければならない。急性期病院の中でも実際に急性期医療を担う診療科として救急科はもちろんだが、時間との勝負がつきまとう循環器内科や脳神経内科(脳神経外科)、緊急手術に対応する外科や麻酔科も人員を揃えなければならない。これらの急性期医療を担う医師の過重労働が解消されるまで、急性期病院を集約すべきであることを我々は再三主張してきた。

本来、急性期医療に関連する諸学会が、会員の過労死を防ぐために急性期病院の集約化を打ち出すべきだった。特に、会員の減少傾向に歯止めがかからず、会員の平均年齢が上昇し続けている日本外科学会は積極的に主張すべきであった。また、集約化を進めることで症例数を集めることもでき、スキルアップを図ることも可能であることを関連諸学会はデータで示すべきであった。NCD(National Clinical Database)で大規模施設の手術成績が良いことが明らかになっている。麻酔科の関与に関するデータある。技能レベルの維持や教育の均霑化のためにも、急性期病院を集約し、症例を集積することは医師のスキルアップのためにも必要である。

労務環境が一向に改善しない現状が今後も続く、あるいは、さらに悪化するのであれば、過重労働で心身を蝕まれないために、過労死しないために、より安全な医療を提供するために、我々勤務医は何をすべきであるのか。勤務医の立場で、将来縮小されると名指しされた病院に所属しているとすれば、

1. 自ら頑張って、症例数を増やす。しかし、過労死認定を受けられなくなるかもしれない。
2. 残って回復期医療への変更など、残務整理を引き受ける。
3. 立ち去り先を探す。

という選択肢しかない。個々の勤務医は、より良い労務環境の病院を選択していくべきである。大学医局などの人事で派遣されているなら、大学医局単位や複数医局間同士での判断になる。労働環境や教育環境が、その病院への派遣を継続するのか否かの大きな判断基準になる。医局員を大切にしない大学病院も、もはや淘汰すべき対象である。今の労務環境を改善する気が無い病院は、勤務医を得ることが今後困難になる。

急性期病院の集約化は、利便性が悪化する住民、病院を維持できなくなる経営者・日本医師会、集票に繋がらない議員・首長、再就職が容易でない事務系職員など、賛成する人がほとんどいない政策だ。急性期病院の集約化に賛成するのは、我々勤務医の他には、我々と思惑の異なる財務省、総務省、厚労省くらいだ。しかし、今の提供体制のままでは、近い将来、日本の医療は急性期病院から瓦解する。急性期病院の無い地域を想像してもらいたい。想像できるだろうか? その地域に曲がりなりの医療が存続するために、安全な医療を提供するために、勤務医の心身の安全のために、急性期病院の集約化は不可欠である。

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【参考文献】
1)第24回地域医療構想に関するWG 令和元年9月26日 参考資料1-2

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000551037.pdf

2)全医連理事会提言2020 その1
医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。
―急性期病院集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている。―

http://zennirenn.com/news/2020/01/post-92.html

3)全医連理事会提言2020 その2
地方では、医療以外のインフラ整備も視野に入れ、医療圏を積極的に再編すべきである。

http://zennirenn.com/news/2020/01/post-93.html

4)過労死2回分!? 異常すぎる「医師の労働時間」が放置されるワケ  中島 恒夫,医療ガバナンス学会2019.10.7

https://gentosha-go.com/articles/-/23315

5)勤務医は備品にあらず!全医連集会  県立病院調査、「過労死」前提の36協定も

https://www.m3.com/news/iryoishin/222662

6)「宿日直許可なし」なら、1診療科当たり医師10人が必要  https://www.m3.com/news/iryoishin/700011

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