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Vol.040 欧州での新型コロナウイルスに関する話題

医療ガバナンス学会 (2020年2月28日 06:00)


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スロバキア、コメニウス大学医学部5年
妹尾優希

2020年2月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

昨年12月に中国湖北省武漢市で発症したとされ、日本でも感染が拡散している新型コロナウイルス(COVID-19)に関する報道が欧州でも増え、緊張感が高まっています。
2月19日に、欧州で感染が確認されているのはドイツ16名、フィンランド1名、イタリア3名、英国9名、スェーデン1名、スペイン2名、ベルギー1名で、日本国内で感染が確認された705名と比較すると少ないですが、徐々にその波は広がってきています。欧州で初めて感染が確認されたのは、フランスで1月24日に武漢渡航歴のあるフランス人3名の感染が確認されました。また、最新の報道によると、フランスではアジア諸国以外で初となる、80歳中国人男性の死亡が確認されています。

<パリと武漢間の近年の交流>
欧州の中でも、フランスは中国と―特にパリと武漢間で―経済的な協力関係を最も強化している国です。2008年から2018年の間で、フランスの中国人観光客数は約5倍となっており、現在約200万人の中国人観光客が毎年フランスを訪れています。
フランスと中国の関係は古くから良好で、1964年に米国に対抗する形で共産党政権を承認し、欧州の西側諸国で初めて中国と外交関係を結びました。(米国は1979年国交回復)
両国が国交を結んでから55年目となる、昨年3月25日には、習近平国家主席がフランス訪問をし、その際にマクロン大統領は、仏エアバス航空機300機の受注やフランス産豚肉の輸出許可を得るなど、総額約5兆円の商談をまとめています。この経済的な両国の関係の強化の背景には、中国がフランスに、東南アジア、中央アジア、インド、アフリカを経由し中国と欧州を繋ぐ広域シルクロード経済ベルト「一帯一路」構想への賛同を求めていることがあります。
昨年3月25日に、習近平がパリを訪問した同日に発行された、フランスで最も古い歴史を持つ経済新聞『Le Figaro(ル・フィガロ)』では、全6ページに渡り習近平の寄稿文や中国とフランスの経済関係をポジティブに報道した記事が掲載されました。同紙には、『Paris et Wuhan: le Conte de deuxcites (パリと武漢:2つの都市の物語)』という見開き広告ページ(写真)も掲載されており、パリと武漢の深い国際交流の歴史や、両都市の国際協力がいかに経済発展に貢献したかなどについて紹介されています。記事によると、1998年にフランス領事館が武漢に設立されていたり、1980年ごろからパリ市内の大学と武漢大学で共同研究が開始されており、近年、両都市の交流が活発であることが伺えます。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_040.pdf

(写真出典元:http://en.hubei.gov.cn/news/newslist/201903/t20190326_1386627.shtml)

<スロバキアと新型コロナウイルス>
私が現在、滞在しているスロバキア国内では新型コロナウイルスの感染者の報告はありません。スロバキアの英語紙『The Spectator』の報道によると、2月3日に武漢市に滞在歴のあるスロバキア人2名が帰国しており、14日間スロバキア中部に位置するBanksá Bystrica病院に滞在していましたが、どちらも感染は認められなかったそうです。

<スロバキアの人々の新型コロナウイルスや日本への反応>
2月に初旬まで、在籍しているコメニウス大学の周囲の医学生への新型コロナウイルスへの危機感は低かったです。大学でも一度、『感染報告がある国を最近訪れた学生は39度以上の熱が出たらすぐに申告するように』『手洗い・うがいをしましょう』といった内容のプリントが配布された以外、特に変わったことはありませんでした。むしろ、スロバキアを含む欧州ではインフルエンザが流行しており、実習中に感染した学生が多発しています。また、私の学年では実習中に問診した患者さんを触診した学生が数名大腸菌感染してしまい、こちらの方が話題の中心となっていました。
しかし、2月下旬に入り、新型コロナウイルスの感染がアジア圏と中東で拡大していくにあたり周囲の雰囲気は少しずつ変化しています。さらに、2月24日にスロバキアのペルグリニ首相が高熱を伴う呼吸器の急性感染症のため、29日の国会議会選を前に参加予定だった23日のテレビ討論を欠席し入院しているとの報道があり、さらに緊張感が増しています。特徴的なのは、周囲の欧州諸国出身の医学部学生を含めスロバキアでは、近日に中東とアジア諸国に渡航歴がある人が感染源となり、スロバキア国内の拡散に繋がるという認識がされている点です。
まだ感染が確認されていないポーランド出身の学生複数名が、大学の冬季休暇中にイランへ一時帰国したイラン人学生に対して、新型コロナのウイルス検査を大学の教授に掛け合ってまで強要しようとし問題となっています。また、一時帰国したイラン人学生が、コロナウイルスに感染している疑いがあるという、根も葉もない風評被害も生じています。酷いケースになると、イラン人学生が実習の昼休み中にマスクを外した際に、同級生から「周囲のことを考えたらマスクは外さないはず」と心ない言葉をかけられた学生もいるようです。
私も実習中のインフルエンザの予防として、マスクをしていたところ、担当の先生より「君は中国人?日本人?それは、予防なのか君からの感染を拡散させないためのマスクなのか?」と尋ねられました。

スロバキアでは、マスクを公共でする習慣があまりなく、街でも着用している人はみまけません。また、薬局などでも一般に販売する用の品としてマスクを置いている店は少なく、医療者の為の専門店でしか取り扱っていません。

新型コロナウイルスの集団感染のあったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」には1名のスロバキア人が乗船しており、19日に下船し在日スロバキア大使館スタッフと合流したと報告されています。内陸国であり、国際旅客船の検疫に関する専門家がいないことや、乗船していたスロバキア人が1名しかなかったことから周囲のスロバキア人の人々の、クルーズ船とそれに伴う日本政府の反応はかなり薄いです。現に、世界各国から日本政府の「ダイアモンド・プリンセス」号にまつわる無意味な水際対策に批判が寄せられていますが、周囲のスロバキア人の中では「日本は検疫をきちんとしている国だから、スロバキアにいる日本人は感染していないだろう」、「イランは検疫をする国力のない国だからイラン人は危ない」というイメージがついているようです。その為、私とイラン人の間では周囲のスロバキア人やポーランド人の接し方は、大きく違うように感じます。
対して、私の学年の医学生の7割を占めるドイツ人の学生は、日本政府の対応に批判的な意見を持つ人が多いです。「日本国内で多数の感染者が確認され、長期に渡り船内に乗員を拘束することに意味がないことが分かっているのに、なぜ続けるの?日本ではどんな風に報道されているの?」と疑問を抱いていました。

<シェンゲン協定とスロバキア>
EU加盟国であるスロバキアでは、シェンゲン協定によりヨーロッパ国家間を移動する観光客は出入国検査なしで国境を越えることができます。公式に発表されているスロバキアの観光客に関する調査によると、観光客の60%以上はスロバキア人の国内観光客であり、外国人観光客のほとんどは隣国のチェコ人、ポーランド人、ハンガリア人、オーストリア人で、中国人の割合は少ないと報告されています。しかし、オーストリアを訪問するアジア人向け観光ツアーは、チェコやブダペストなど周囲国を国際鉄道やバスを利用して巡る内容のものが多く、その中にスロバキア観光も含まれています。また、スロバキア観光が含まれていない場合でも、チェコ–オーストリア–ハンガリー間を運行する国際鉄道やバスは、スロバキアを経由します。

バスや列車に乗車する前に、赤外線サーモグラフィーによる体表面温度の計測や発熱が疑われる人の検疫はおろか、パスポートすら確認しないことがほとんどです。私も、大学休暇中に日本に一時帰国し、スロバキアへ戻る際にはブラチスラバの空港ではなく、ウィーン国際空港を利用し、国際バスに乗ってスロバキアへ入国します。今まで、30回以上はバスや鉄道を用いて、スロバキアを入出国していますが、その際にパスポートを確認されたのは3回だけです。

ウィーンでは、現在も中国からの航空機が1日に15機ほど到着しています。その他にも、アラブ諸国やデンマーク、イギリス、フランスなど欧州諸国を経由し、ウィーンへ入国しています。フランス同様に、2008年から2018年にかけてオーストリアを訪れる中国人観光客の数は5倍に増えており、2018年に1泊以上滞在した中国人観光客の数は約140万人を越えます。

スロバキア国内では、まだ感染者が確認されていないことや中国から直接入国する観光客が少ないという報告から、スロバキアでは「スロバキアは感染リスクが低い国」という感覚を周囲の人から感じることが多々あります。しかし、実際には、欧州では、日本国内を移動するのと似た感覚で人々が自由に移動していることから、感染が急激に拡散し感染者数が一気に広がるリスクがあり油断はできません。

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