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パラツキー大学
坂本 遙
2020年2月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
日本では連日コロナウイルスの騒動がニュースに取り上げられている様子が、遠いチェコで学ぶ私にも届いています。外国ではアジアヘイトが出ている、アジアからの渡航を警戒しているなどという報道も目にします。
実際に私がいるチェコではコロナウイルスに関してどう捉えられているのか、私の目から見た状況を書いてみます。
まず同級生は、日本も中国も危ないところ、という認識を持っている感じがあります。
日本人の1人が2月の初めに風邪をひいたのですが、同級生が「コロナウイルス?1月の休みの時に日本に帰っていたの?」と冗談混じりではありましたが言っていました。「日本に帰っていないなら大丈夫だね」とその後に続けていました。日本にはしばらく帰らない方が良いと言ったり、日本にいる家族の心配をしてくれたりする同級生もいます。彼らの中では、コロナウイルスは日本でも中国のように蔓延しているものと考えているのだと思いました。
私の通う大学と大学病院は比較的早い段階から動き始めていました。これは、大学の公衆衛生部門の先生方が最新の論文を読み情報を集め、早めに判断を下したのだと思います。1月末に先生方と話す機会がありましたが、先生方は中国以外での感染者が他の国でも多数出始めると考えていました。
大学病院はまず1月27日に小児科病棟へのお見舞いの制限を設け、翌日には血液内科病棟への制限を宣言しました。今では神経内科と高齢者病棟のお見舞いも制限されています。これは、万が一チェコで感染者が発生し広まり始めた際に、重症化しやすい高リスクの人たちを守るためです。
1月29日には大学から中国の学生(実際は台湾からの学生ですが)にメールが来て、現在中国(台湾)へ帰省中の人は許可が出るまでチェコに戻らないこと、1月中に帰ってきている人は14日間部屋で過ごすことなどが書かれていたようです。
そのメールを受けて、2月に帰る予定にしていた台湾の友達は帰国するのをやめていました。今のところ、日本人学生にそういったメールは届いていないですが、このまま感染が日本でも広がれば、夏休み前に日本人にもメールが届く可能性はあります。
また、日本での感染拡大を受けてヨーロッパの日本人医学生の間では、夏に一時帰国する時に日本への飛行機が規制されている可能性や、日本に帰れてもヨーロッパ内に戻れなくなることを懸念する声が上がり始めています。
次に町の雰囲気ですが、チェコではまだ感染者が出ていないためなのか、アジアヘイトは感じた事がないです。私のいるオロモウツでは、アジアでの感染拡大はまだ対岸の火事という感覚であると感じます。ただ、プラハには普段から中国人旅行者が多いせいか、プラハにあるベトナムレストランが中国人お断りの張り紙をしたと、ニュースになっていました。
マスクをしている人をオロモウツで見かける事もありません。元々チェコでは日本と比べてマスクは身近な存在ではなく、薬局やスーパーの店頭でマスクを見かけません。マスクを購入したい時は薬局で薬剤師さんに伝え、お店の倉庫に取りに行ってもらいます。私たち医学生は手術室に入る時などにマスクを使うので、一般の人よりはマスクの存在が身近ではありますが、日常で使うことはないです。
日本の過剰なマスク文化もどうかと思うのですが、チェコのこの状況は風邪の蔓延を引き起こすことがあるのも確かです。医学部の自習室という閉鎖空間では、風邪気味の人がマスクをせずに咳をしたりするので、一度風邪が流行ると広まるのが早いです。
ただし私はマスクが日常に根付いていない理由の一つに、体調を崩した際に休みやすいことが挙げられると考えています。授業の時に、担当の先生が今日は体調不良なので私が代理で教える、という事が度々あるからです。これは、通勤途中や職場での感染症の蔓延を防ぐのには必要な社会の状態だと思います。
また、チェコでは病院の待ち時間が長いので、軽症の場合は市販で手に入る物で対処し家で休む選択をする人が多いのではとも考えています。チェコでは医療費は保険でカバーされ診察は無料で受けらます。そしてGPのシステムはあるものの、GPからの紹介がなくても大学病院といった大きな病院に直接行くこともできます。このようなシステム上、病院へフリーアクセスでき、待ち時間が長くなるのです。以前私が副鼻腔炎に罹ったときは、3時間以上待ちました。町中のポリクリニック(一つのビルに複数の診察科があるところ)も朝早くから患者さんが待機していました。体調を崩した時には、チェコ人の友人や先生に病院に行く事よりも、まず市販薬やビタミン剤、ハーブティーを飲んで休む事をおすすめされました。
こういった状況から、軽症の症状ならば、長時間病院で待ったりGPに予約をとったりするよりも、市販薬やハーブティーを飲んで休んでおこうと考える方が一般的なのだと考えています。この状況は、待合室での移し合いを少なくすることができるのではないでしょうか。日本でも体調不良の人が休みやすい社会や、軽症の場合はまずは家で休むことが根付いて欲しいと思います。
最後に国の対策ですが、チェコの政府は2月9日からプラハと中国を結ぶ便を停止しています。また、武漢にいたチェコ人はフランスのチャーター機に乗せてもらい帰国しています。長距離の移動で感染が拡大しそうですが、チェコ人輸送の一連の流れは、接触者を出来る限り限ろうという姿勢がみられました。まず武漢からのチャーター機から降りたチェコ人は、チェコの空軍が運用する政府特別機でプラハの近くの軍用の空港に運ばれました。そこから救急車でプラハ市内の病院に運ばれ検査を受けた後、14日間の隔離が義務づけられていました。この時に帰国した5人のチェコ人は、全員の到着時の陰性と2月17日時点での陰性が確認され、今では隔離から解放されています。
また、チェコの厚生大臣は当初から国民に対し、「新型コロナウイルスに対してパニックにならないでほしい。むしろ通常のインフルエンザに気をつけてほしい。」と呼びかけ続けています。これは在チェコ大使館からチェコにいる日本人に対するメールにも書かれていました。
以上のように、チェコではコロナウイルスが国に入ってくるかどうかに注目が置かれている段階です。日本ではチェコにいる私とは異なり、コロナウイルスが身近な脅威だと思います。ですが、公衆衛生の国家試験を先日受けた身としては、誤った情報に惑わされず、最新の論文やWHO、専門家の意見に従って落ち着いて過ごして欲しいです。
今後どのような展開を見せるかは分かりませんが、各国が各自の状況に合わせて適切に行動し、早期に鎮静化することを心から願っています。