医療ガバナンス学会 (2020年3月2日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2020年3月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
次に大きな問題を忘れています。
それは第一線で診療にあたっている医療従事者の検査です。多くの内科医はインフルエンザを含む風邪の患者さんと並行して多くの高齢者、糖尿病、高血圧、心疾患等、新型コロナウイルス感染を起こすとリスクが高いと思われる多くの患者さんの診療を行っています。
一般診療所で新型コロナウイルス感染の疑いのある方を見るようになれば、医療従事者が感染する可能性は相当高くなります。われわれ医療従事者が一番心配していることは、このような感染弱者にウイルスを移してしまうことです。これは最悪の事態で、なんとしても避けなければいけません。
ですから医療関係者が発熱や風邪症状がでたら、いち早く新型コロナウイルス感染でないことを突き止めなければなりません。これは日本中の第一線で診療にあたっているすべての医療機関で言えることです。これをいちいち保健所の許可をいただいて、所定の検査施設に出向いて検査をしているのでは到底間に合いません。
厚生労働省はいち早く、民間検査会社で新型コロナウイルスの検査ができるようにする義務があります。検査を受ける優先順位は、医療関係者、福祉関連の方々、市町村の担当者そのほか高齢者と接触の機会の多い職種の方々などです。いちいち、厚労省が優先順位や線を引くのではなく(官僚の方はいかにもそういうことをやりそうですが)、だから希望者はだれもが検査を受けられる体制をとらなければなりません(できれば国が今が一番大切だと宣言しているこの1-2週間に内に)もう猶予はありません)。
話を世界中の国々がなぜこの新型コロナウイルス感染がパンデミックに広がることを抑えようと必死になっているかの理由を考えたいと思います。ハーバード大学のリプシッチ教授が、新型コロナウイルス感染の今後の見通しについてコメントを出しました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200226-00000004-cnippou-kr
今度の新型コロナウイルス感染はパンデミックとなることは避けらず、来年以降は5番目のコロナ流行病となって、毎年流行することになると予想しています。振興感染症をパンデミックにしてはいけない理由について、私もこれまではっきり認識していなかったのですが、このコメントを見てよくわかりました。そのウイルスがたとえMERSやSARSのように致死率が高いウイルスでなくとも、パンデミックになって定着してしまうと、その後ほぼ未来永劫、毎年多くの人が感染して一部の人が重症化して命を落とすことになるのです。それはやはり極力避ける努力をしなければいけないということだと思います。
世界中の国々が必死になってパンデミックを阻止しようと努力しているのが過剰な対応に思えていたのですが、このウイルスの定着を阻止することまで考えると、決してあきらめずに可能な限りの対策はとるというのは正しい判断に思えてきました。ロシアは早くから中国国境を閉鎖しましたし、各国のクルーズ船からのチャーター便で引き上げ後の隔離政策も厳しいものでした。また、サンフランシスコはまだ感染例が一例も確認されていない段階で、非常事態宣言を発令したしたそうです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/iizukamakiko/20200226-00164747/
そういう意味での対策が甘かったのは韓国と日本だけでした。パンデミックを阻止するのだというモチベーションがゼロだったからだと思います。難しいという見通しがあったとしても初めからあきらめてはいけなかったと思います。それは必ずしもクルーズ船の検疫のことを言っているわけではありません。あれは全然意味がなかったと私は思います。国境対策、あるいは中国からの入国制限等です。MERSやSARSは封じ込めに成功しましたが、どうやらCOVID19は封じ込められる見込みが低いようです(それはこのウイルスの特性に関わっていますが)。
中国CDC(Chinese Cener for Disease Control and Prevention)の新型コロナウイルスに関する論文は大変参考になる多くの事実を含んでいます。
「The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020」
http://weekly.chinacdc.cn/en/article/id/e53946e2-c6c4-41e9-9a9b-fea8db1a8f51
中国ではすでに新型コロナウイルス感染は急速に収束に向かっています。間違いなく感染の拡大に歯止めをかけるのに成功しています。うなぎ登りに増えていた感染者数が1月23-27日を境にして最終報告日時の2月11日にかけて激減しています。
実はこの時期というのは完全に春節休暇(1月24日~2月9日の17日間、当初は1月30日までの7日間だったのを10日間延長しました)に一致しているのです。幸いにも感染拡大期に春節休みを迎えることができたのです。すべての学校と企業の営業を認めないという指示を出しました(ただし、例外としてインフラ・医療にかかわる業種と生活に必要なスーパーと飲食業の営業は認められていました。それでもかなりの人の動きを封じ込めることができました)。
この措置をとったのは北京、上海、重慶、浙江、江蘇、広州など中国の主要都市がすべて含まれています。中国での感染がピークだった1月28日時点での北京市、上海市での新型コロナウイルス確定例(核酸検査で確認済の例)の累計数が、それぞれ80人と60人でした。今の日本や韓国、イタリアの感染者数よりはるかに少なかったのです。ちなみに2月11日までの期間の中国における感染者数の累計総数は72312人、確定例が44672人、驚くべきことはこの確定例はすべて核酸検査(いわゆるPCR検査に相当)で確認された例だということです。そしてこのうちの74.7%が湖北省での患者数ということですから、湖北省以外の感染者数は11302人。
さらに得特筆すべきことは湖北省以外で感染が報告されている内の70‐80%が湖北省に滞在歴があるが、滞在歴があって感染した人との接触歴がある人なのです。すなわち、純粋に湖北省と無関係な感染者というのは高々2000人(確定例)ぐらいということになります。核酸検査で確認された約40000人のうちの2000人という話です。こう見ると中国の新型コロナウイルス感染の収束に、武漢市の閉鎖と3週間位わたる春節休みがいかに重要だったがわかります。このウイルスは少し気を抜くと韓国やイタリア、イランで見られるような急激な集団感染をおこすのです。中国の例に習って、2週間の間、大きなイベント自粛しなければならないのはやむを得ないかもしれません。
最後に付記しておかなければならないことは、この中国からの報告で医療従事者の感染数が3019例(確定例では1716例/全体44672例)約4%あったということです。%で見ると少なく感じますが、25人に1人が医療従事者ということです。これは無視しがたい数字です。季節性インフルエンザなどは医療関係者は抗体ができているのであまり罹りにくいと言われていなすが、この新型コロナウイルスに関してはまだ免疫ができていないために医療関係者もインフルエンザ以上に罹りやすいということです。このことはやはり、現在の日本において医療従事者の検査を実施すべき大きな根拠となると思います。
緊急提言としてこの文章を書かせていただいたのは、少しでも感染の拡大を減らして重症感染者数を減らしたいとの切実な思いからです。この思いが為政者に届いて、改善すべき点を速やかに改善していただけることを切望いたします。