医療ガバナンス学会 (2020年3月24日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2020年3月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2.免疫を獲得した医療従事者が貢献できる可能性
世界においては「医療崩壊」が危惧され、防護服などの供給も滞っているようですが、医療の現場でも大きなメリットがあります。例えば、若いお医者さんなどで、軽症か無症状で終わり治癒したならば、その後は場合によっては防護服などはなして、新型コロナの患者さんの診察や検査をすることができるわけですから、医療現場の最前線で活躍できるばかりでなく、貴重な医療資源の節約もできます。新型コロナに接する機会の多い医療関係者自体の検査はほとんどされずに見過ごされているようですがもったいない限りです。
3.治癒判定基準が明らかになる事が重要
ここで問題となることが2つあります。一つは検査が現時点ではPCR検査のみであること(この点については後述します)、2つ目は「いつの時点で治癒とするか」という問題です。特に治癒判定については、医療の現場においても「感染者をいつ治癒として開放してよいか」ということが問題になっています。(国は患者さんをいつ退院させるかという基準を設けていますが、退院後に再燃する人が出ています)。
このことをはっきりさせるためには臨床研究者としての医師(専門家といわれているような基礎研究者ではなく、実際に治療に当たられている医師たちです)が治癒したと思われる患者さんに協力してもらって、1週間ごとに経時的に検査を行って、いつになったら感染性がなくなるかを調べなければなりません(インフルエンザでは症状が出た翌日から5日後等という治癒判定基準があります)。医師が治療に追われている状況だとそのような臨床データを集める余裕すらないわけですが、それがわかれば世界の医療現場で悪戦苦闘している医師にも大いに役立つのです(中国ではあのような臨戦態勢の中で臨床データを数多く発表してきたことは称賛に値します。日本でも是非データをとりまとめ論文という形で発表して世界に貢献してほしいものです)。でもそのためにも臨床の場でもっと自由に検査ができる環境が必要です。検査体制を充実しなければいけない理由はこのようなところにもあるのです。
4.集団免疫理論は流行抑制に使えるか?
英国のボリス・ジョンソン首相が、人口の60%が免疫を獲得すれば流行は収束するという「集団免疫の壁」理論を提唱しました。新型コロナウイルスに罹患した人の大多数(特に若くて健康なひと)は無症状か軽症でそのまま治癒して免疫を獲得します。このような人たちが増えてくるといわゆる「免疫の壁」として働いて、弱者が感染することを防ぎつつ流行が収束するというものです。しかし、このようなやり方は危険であるという反対意見が続出しました。
主な理由は、以下のようなものです。若く健康な人を無理やり濃厚接触させて感染させるというような荒療治はできないわけですから、時間をかけて自然に集団免疫が出来上がるのを待たなければなりません。それには相当な時間がかかり、そのあいだ高齢者や持病を抱えた弱者を完全な形で逆隔離することは難しく、多くの人が亡くなるのは避けられないというものです。また、新型コロナに対する獲得免疫が長く持続するかどうかも保証がないというものでした。ここでいう社会全体が獲得する集団免疫(流行収束のための政策)と、上で説明した個人の獲得免疫が社会に貢献できるという話は別次元の話です。
*獲得免疫を調べるには抗体検査が適しています。抗体形成だけが免疫のすべてではないのですが、ウイルスを体の外に追い出すために、体の中に抗体という物質が作られます。抗体が十分あれば、免疫ができていると考えられます。一度ウイルスに感染すると抗体が作られ、ふつうは生涯続きます。したがって抗体検査で陽性の場合、今現在ウイルス感染しているのか、過去にそのウイルスに感染したのかは区別できないのですが、麻しんや風しんなどのウイルス感染に「一度かかったら生涯罹らない」といわれるはそのためです。しかし、手足口病のように原因ウイルスが一つではなくていくつもあるウイルス(群)や、インフルエンザウイルスのように毎年、構造を変化させるようなウイルスでは、せっかく獲得した抗体が適合しなくなります。また、ワクチンで無理やり付けた免疫(獲得免疫)は数年で弱まってしまうことが多く、再接種が必要な場合もあります。
新型コロナウイルスの場合、現在PCR法という検査方法しかないのですが、PCR法は免疫の状態を見る検査ではありません(ウイルスがいることを調べる遺伝子検査です)。でも、ウイルスは駆逐されて体からいなくなれば当然、PCR検査で陰性となりますので、その時点で治癒と考えるわけです。偽陰性や再感染の問題があるなど完璧ではありませんが、現時点ではこの検査法しかないので、今はこの検査法を何とか駆使していくしかありません。一日も早い抗体検査の確立が望まれます(ワクチンよりは早くできそうです)。
なお、感染初期のPCR検査で陰性となるのは多くはウイルス量が少ないためであり、それは「陰性」という判定でいいわけで「偽陰性」とあえて偽を付けて呼ぶ必要はありません。PCR法は基本的には、法医学や鑑識の世界では髪の毛1本や指紋からもDNAを検出できるなど非常に感度の高い検査です。「感度が低い検査」とするのも正しい評価ではないように思われます(出発点がRNAとDNAでは違いはあります)。そもそも偽陰性率とか偽陽性率というのは、ほかにも検査法があってそれと比較して評価できるものだと思いますが、ほかに検査法がないのに陽性率が高いとか低いとかはきちんと評価はできないはずです(ウイルスの分離という手段はありますが、検査として汎用できるものではありません)。検査で陰性にでるのは多くは検査方法のせいではありません。上記の言いようがまことしやかに独り歩きしていることには少し違和感を覚えます。
5.日本社会の年齢構造について
タイトルからは逸れますが、日本社会の年齢構造について触れておきたいと思います。全人口に対して65歳以上の人が占める割合を高齢化率といいますが、日本の高齢化率は27.6%(2018年)で、日本は世界の中でも断トツ一位の高齢化社会なのです。これは日本という国の医療水準の高さを物語っていまが、人口1億2千万人のうちの4分の1(3千万人)が高齢者というのが現実です。
そして世界2位がイタリア(22.8%)、3位ポルトガル(22.0%)・・・・、12位フランス(20.0%)とヨーロッパの国々が続きます。ちなみにアメリカ(15.8%)は37位、中国(10.9%)は65位、インド(6.2%)は104位です。新型コロナの致死率は高齢者で急激に高くなるというデータがありますが、そういう意味では日本は世界一危険な人口構造を持つ国なのです。
最後に日本の医療従事者(医師)の年齢構造についてもお話しておきます。現在の日本の医師総数は約30万人(平均年齢は50歳、2018年)ですが、60歳以上の割合が27%で日本の人口構造とほぼ同じなのです。すなわち、日本の医師という集団も日本全体と同じように高齢化しているということです。
さらに、病院勤務医が20万人に対して町の診療所の医師は10万人なのですが、この診療所の医師の平均年齢がちょうど60歳で、診療所医師の半数近くが新型コロナのリスクの高いとされる高齢者なのです。ちなみに大学病院勤務医(5万人、40歳)、一般病院勤務医(10万人、50歳)です。
医療崩壊を避けるためにも是非、医療関係者の検査の充実をお願したいところです。
「新型コロナウイルスの大流行はいつ終わる? 生活はもとに戻るのか?」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200321-51974942-bbc-int
英首相の「降伏」演説と集団免疫にたよる英国コロナウイルス政策」
https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20200315-00167884/
「世界の高齢化率(高齢者人口比率) 国別ランキング・推移」
https://www.globalnote.jp/post-3770.html
「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/kekka-1.pdf
「COVID-19: protecting health-care workers」
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30644-9/fulltext
「新型コロナに自ら感染? ワクチン治験が大人気」
https://jp.wsj.com/articles/SB11315377496899024263504586271500407562000