医療ガバナンス学会 (2020年3月25日 06:00)
民間学童保育 サンテ・ペアーレ
代表取締役 松村昌子
2020年3月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
学童保育には子育て支援以外にも、子どもたちの教育格差の問題や発達障害児への支援(グレイゾーンの子どもたちの預かり先)など、様々な課題があります。
しかし今回は特に、一斉休校をきっかけに災害時や緊急時に医療の最前線で働く人材を、社会がどのように確保していくかという視点から考えさせていただきました。
2月27日木曜日夜6時30分ごろ、総理大臣より一斉休校の発表がありました。
私は当時、市内で別の会合に出席していましたが非常に驚くとともに、そもそもそんなことは可能なのか?と思いました。
小学生の子を持つ親が(たとえどちらか一方でも)一斉に仕事を休めば、社会の機能、特に医療機関や介護施設は(職員の女性比率を考えても)、物理的に回らなくなります。この時点で保育所等への言及はありませんでしたが、保育士も仕事を休まざるを得ず、乳幼児の行き場もなくなります。
上昌広先生にも電話でご相談をさせて頂き、まずは何よりそういった事態を避けるためにも、せめてうちの施設は医療関係者等を優先に学童保育の受け入れを行おうと思いました。その後、夜になり厚生労働省から保育施設は通常通り、学童は朝からの受け入れを要請する旨の発表がありました。
もともと、私自身が医師の家庭に育ち医療の世界で仕事をしながら、学童保育の運営も行ってきたことや、自身も小学生2人を含む三児の母であることから、特に女性には子育てと仕事の両立からくる心理的・肉体的負担を少しでも軽減してもらえるような仕組みを作りたいと考えました。
そのため、例えば台風などの警報発令時やインフルエンザによる学級閉鎖など、通常の公的学童サービスが休校となる時などは、当施設では積極的に朝から子どもを預かっています。今回のケースでも、当施設の通常のルールに沿えば、朝から学童保育を運営するべきところでしたが、感染拡大防止のため学校が休校になる以上、学童を実施したことにより発生するリスクは、経営者としてはやはり不安でした。
翌日は朝からひっきりなしに電話での問い合わせがありました。
保護者たちも混乱しているようでしたが、当施設では休校になったら朝からお預かりします、と回答しました。公的学童保育についてはこの時点ではまだ不明で、お昼を過ぎてからの正式な受入れ発表となりました。
最終的に私どもの学区では3月3日から一斉休校となり、公的学童保育も同時に朝から受入れ対応となりました。通常の手続きを簡素化して、それまで利用のない子どもも預かるなど柔軟な対応がなされたようで、今は子どもたちも前倒しの春休みのような状況となっています。
大手企業などを中心に保護者が休める家庭もあり、特に大きな混乱は無いようです。
そのため私たちの施設でも本来の規約に則り、会員の子どもたちを中心に朝から預かり保育を実施しています。医療機関従事者など預け先がない、という方に関しては例外的に非会員の子どもでも臨時でお預かりをさせて頂いています。
今回は休校と同時に公的学童保育が実施されたため、今のところ医療機関等で一斉に人材が不足するというトラブルは聞こえてきませんでした。個人的には、学校の学習カリキュラムが完全に終わらないまま新学年を迎えてしまう点については、子どもたちの学力という点から、今後それなりに影響が出るのではないかと危惧しています。新学期に向けて出来るだけフォローを行い、新学年でも遡って全学年の重点箇所を指導するなど対応が必要ではと考えています。
また今回のことでは、今後大災害や緊急事態宣言が出されるような状況の中で、学校も学童も、また保育所も機能しなくなった際に、いかに医療機関などの最前線で働く人材を確保するのかという課題が浮き彫りになったのではないかと思います。
そういった職種に従事する人たちはみんな、出来れば必要な時には現場に出て役に立ちたいと思っています。一方で、母親であれば当然、子どもたちに対する愛情と責任から、傍にいてあげたいとも思っています。医療従事者だからと言って社会的な意義や使命感だけで、子どもや家庭を犠牲にすることを求めるべきではありませんが、必要に応じて安心して現場に出て貰える仕組みを作ることも必要です。
例えば行政区単位で、優先的に子どもを預かる職種をリストアップし、有事には一括して預かることで保育士などの人的資源や施設の有効活用を行うなども、すぐに出来る取り組みではないかと思います。
また、そういった仕組みを積極的に地域の医療機関・介護施設等に事前にアナウンスし、情報を共有することで、緊急時の人員確保のための手段として活用してもらうことも可能になると思います。
平時における労働力の確保や子育て支援は重要で、私自身もその一旦を担っているつもりですが、今回のような不測の事態にどうやってライフラインを守るのか、という課題はまた切り離して考える必要があると考えます。
医療や介護従事者、その他社会的な使命感を持って働く人たちが、自分の子どもや家庭を犠牲にして最前線に出なくても良いように、普段からの体制づくりを進めていく必要があるのではないでしょうか。