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Vol.076 深圳着港のクルーズ船「コスタ・ベネチア号」

医療ガバナンス学会 (2020年4月17日 06:00)


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医療ガバナンス研究所
趙天辰

2020年4月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「ダイヤモンド・プリンセス号」での新型コロナウイルスの集団感染が全世界で注目される中、同じく大型豪華客船である中国深圳発着のクルーズ船「コスタ・ベネチア号」も約二か月前の1月26日に緊迫のひと時を迎えた。「ダイヤモンド・プリンセス号」の3711名よりも倍ほどの6222名の乗員・乗客が乗っていたこの船では、いったい何が起こってどのような対応が取られていたのだろうか。

「コスタ・ベネチア号」は1月21日、ベトナムダナン港に向けて5泊6日の船旅がスタートした。出港後3日間船内は海上でネット環境がなく、乗客は皆この海上の楽園を満喫した。「アミューズメント施設と演出は数えきれないほど多く、デッキは乗客であふれていて、絶え間なく笑い声が流れていた。マスクをしていた人など一人もいなかった。」と乗客は振り返った。
1月24日、クルーズ船がベトナムで寄港し、インターネットでニュースを得た乗客らは瞬時に表情を変えた。彼らが海上にいたこの数日で、武漢は封鎖され、深圳でも初めての感染者が確認されたのであった。広東省では「突発的な公衆衛生事件に対する第一級(最高レベル)の応急対応メカニズム」(突発公共衛生事件一級響応機制)が宣言され、クルーズ船は瞬く間に“恐怖の客船”と化した。乗客の中には湖北省出身も数百名いて、中には発熱していた人もいた。
翌日25日、クルーズ船内の雰囲気は劇的に変わった。ほとんどの乗客は部屋から出ることを躊躇った。混雑していたデッキも娯楽施設もレストランも、閑散としていた。船員は全員マスクを着けだし、運営会社も発熱者の隔離対応に追われた。26日6:00の着港予定時刻が近づいてきた。しかし、当初予定していた“前日に荷物を部屋の前にまとめる”作業の待機命令が船内で出された。もしかしたら下船させてもらえないのではないかと、家に戻れない不安と感染してしまう不安を抱き、乗客は一睡もできずに夜明けを迎えた。

同時に、陸上にいた人々も黙ってはいなかった。着港予定の港が要求したデータによると、船内は乗客4973名・乗員1249名、うち湖北省出身414名、発熱者9名であった。衝撃的な数字に深圳政府は25日夜緊急対策会議を開いた。港のすぐそばに対策本部が設置され、様々な意見が飛び交った。キャビン内は、特に窓のない内側のものは換気が悪く、システムも室内循環であるため、感染者がいる場合は大規模に拡散する恐れがあると指摘する人もいた。
白熱した議論の末、設定された応急マニュアルは以下の通りだ:「もし9名の発熱者が感染確認された場合、即座に指定病院で治療をさせ、同時に濃厚接触者を特定する。また、一時滞在用にホテルを用意し、部屋の消毒・殺菌作業を終わらせる。」さらに、クルーズ船は着港せずに、深圳の公海で船内検査を実施すると決定した。
26日深夜2:30、土壇場で企業から寄せ集めた100個の赤外線体温計を手に、検査員は「コスタ・ベネチア号」に乗船した。船上にいた6222人全員に対し、居住地は武漢にあるか、既往歴、渡航歴などを調べ上げ、特に注意が必要な人物148名を選別した。そして、乗客全員の検温を開始した。5時間ほどの検温が終了した頃は、すでに明け方になっていた。当初9名の発熱者は全員正常体温に戻ったものの、子供3名を含む4名の新たな発熱者が確認された。検査員は焦りを感じた、この13名が全員新型コロナウイルス感染者だったらどうするべきかと。

新型コロナウイルスの検査は、深圳CDCが担っていた。26日6時、CDCの検査主任技師房師松らが連絡を受け、13名の検体採取のためクルーズ船に向かった。防護服を身にまとい、6階もの高さのあるクルーズ船内を移動することは予想以上に大変で、13名の検体採取を終えるのに3時間もかかった。採取と同時に簡単な疫学調査(湖北省居住歴、渡航歴、野生動物接触歴など)も行われた。港では4両の救急車が待機しており、作業を終えた同時に4名の発熱者は防護服を着て蛇口人民病院へ経過観察に向かった。これを見た乗員の中には、感染者が出たと考え、14日の船上での隔離生活を覚悟した人もいたという。
房は13名の測定のため、急いで深圳CDCに戻った。6000人以上が検査結果を待っている、これは20年間この仕事をして以来体験したことのない重圧だったと彼は言う。正確性を確保するため、検査は2種類の検査キットと二台の機械で同時に行われた。
正午、クルーズ船内では乗客の不安が焦りと変わり、インフォメーションセンターへの問い合わせやクレームも多くなった。これを見たクルーズ船の会社は、隠し事をしてはいけないと、船内放送で今まで起こったすべての出来事を伝えた。これを聞いた乗客らは、少しだけ落ち着き始めた。

26日17:38、房からPCR検査の結果はすべて陰性であると伝えられた。この結果に対策本部の人々は皆歓喜の声をあげた。18時、乗客は一人一つのマスクをもらい、分散して下船し始めた。武漢渡航歴のある148名の注意が必要な乗客は先に下船し、15台のバスで指定ホテルへ経過観察に向かった。残りの乗客も順次下船し、用意されたバスで駅などに向かった。2月3日、経過観察中の乗客148名も最後のPCR検査で陰性を受け、皆帰路へ向かった。この記憶に残る「コスタ・ベネチア号」クルーズ旅はこのように幸運な終わりを迎えたのであった。

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