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Vol.091 若者の失われた時間を確保して vol.1

医療ガバナンス学会 (2020年5月5日 06:00)


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神奈川県立厚木高等学校
矢野悟

2020年5月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

学校では新学期が始まったが、新入生は入学式と臨時の登校日にわずかな時間、顔を合わせたのみで、その後は担任やクラスメートと一度も会っていない。オンラインでつながる生徒は、学校から配信される課題を提出したりしているが、それも全員ではない。授業は一度も行われず、部活に加入することもない。宿泊研修や遠足、様々な学校行事は、軒並み中止となった。例年であれば心臓検診など各種の健康診断が行われる時期であるが、これも中止の判断をした。5月には、教職をめざす多くの大学生が教育実習に入るが、これも中止せざるを得ない。当該の大学生らは途方に暮れているに違いない。

ニュースを見るにつけ、「1日あたりの死者の数が最大となった」一方で「拡大傾向が鈍化してきた」など、ニュースの一つ一つに一喜一憂し、「止まない雨はない」と自分を鼓舞してみたところで、果たして収束の時は来るのか?と弱気になってしまう。医療に疎い私達には、医療関係者の方々の安全を願いつつ、一日も早い事態の収束を祈るばかりである。

ところで、自家用車による訪問が止まらなかった観光地や、高齢者を多く見かける商店街の混雑もさすがに解消しつつあるようだが、実はこの2か月、stay homeの呼びかけに最も素直に従ってきたのは、休校措置がとられるまで普通に学校に通っていた児童・生徒たちであり、5月7日からの学校再開も怪しい状況で彼らを虚無感が襲う。

さて、4月10日付けで文科省から出された通知によると、新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業に伴って学校に登校できない児童・生徒に対しては、家庭学習を課し、教師がその学習状況や成果を確認*して評価(=成績)に反映することができるとされた。
*ワークブックや書き込み式のプリントの活用、レポートの作成及びそれに対する教師のフィードバック、ノートへの学びの振り返りの記録、登校日における学習状況確認のための小テストの実施など

また、生徒が学校に登校することができるようになった時点で、可能な限り、時間割編成の工夫、学校行事の精選、長期休業期間の短縮、土曜日に授業を行うこと等による補習を行うこととされ、加えて、休業が長期化した場合、家庭学習で十分な内容の定着が見られたならば、再度学校で取り扱わなくて良いともされた。これについては、たとえ学校再開が遅れても年度末までに帳尻を合わせようというものであり、現実的な判断だとする意見もある。
しかし教育というのはあいまいなもので、あらかじめ設定した目標に達成したか否かについて評価する時、大人社会の都合に合わせた恣意的な判断が入り込みやすい。これまで普通に実施してきた定期試験や日々の小テスト、机を向かい合わせて行う議論、週末に出した宿題を翌週に提出させる際にも、生徒間で不公平があってはならないし、生徒の取り組み状況を測る際にも、生徒、保護者の納得が得られるような妥当な評価となるよう、教師たちは細心の注意を払ってきた。成績(=評定平均)が、生徒の進級や進学に際して重要な査定材料となる現行システムの中では、学校が家庭学習の成果を評価することは極めて困難である。

学校再開の見通しが立たない中、家庭学習の充実を図っていくことはもちろん必要であるが、ネット環境のある家庭もそうでない家庭もある。公的支援を受けて機器の整備をさらに進めたとしても実際に学校とやり取りすることができるまでには相当の時間が必要だ。また、これまで塾に通っていて学習進度の進んだ子もいれば、そうでない子もいる。学校が各家庭の個別の事情に入り込んでセーフティネットの役割を果たすことは、学校が実質閉鎖されている今の状況では難しい。学校関係者は正解を見つけられないでいる。

新年度が始まって最早、一ヶ月が過ぎてしまった。早急に今後のスケジュールを検討した上で生徒に提示する必要があると考える。例えば中学3年生にとって、年度末には高校入試が待ち受けるため、学校再開後には急ピッチで学習の遅れを取り戻す必要に迫られる。また、学校は家庭学習の取組状況や成果から成績をつけ、部活動や委員会活動など諸活動の記録・実績を記載した「調査書」を作成しなければならない。4月以降の取り組み状況を評価した成績に妥当性と公平性があるのか?このことに生徒や保護者が疑問を持つのは当然である。この際、オリンピック・パラリンピックと同様に今年度末の入学者選抜を1年先送りとすることが最も妥当ではなかろうか。
また、高校3年生は、今年度から始まる新しい大学入試に対処しなければいけない。新入試では、主体性・多様性・協働性を多面的に見るという趣旨から「調査書」がより重視されるとされ、書式も大幅に変更された。にもかかわらず学校活動が停止中で、部活動や学校行事が軒並み中止に追い込まれているため、記載すべき活動記録がない。やはりここは、大学入試を1年先送りとすることが最も妥当である。その他の学年においても、学習すべき内容が不十分に終わる可能性が高いため、今年度に学習すべきであった内容を来年度に先送りすべきではなかろうか。この大方針を示した上で、新たに生じる問題点について一つ一つ解決していけば良い。

私たち大人はもっと大きな視点を持って、子どもたちの教育に責任を持つべきなのだ。そもそも彼らは勉強だけでなく、部活動や生徒会活動、学校行事などで極めて貴重な時間を体験するはずだった。ところがその機会は奪われた。今、臨時休校の延長、再延長と先の見えない暗闇のなかで、児童・生徒達は知力・体力・気力の衰えに直面している。昨年度の首相による突然の休校要請からまもなく2ヶ月。この先、感染者の増加が止まらず、長い戦いとなる場合も予想され、若者のモチベーションをどのように維持するのかが重要な課題となる。もしも国の英断が下され、失われた時間を来年度に確保するという計画が示されるならば、全国の若者は頑張れる。コロナ騒動が沈静化し、来年、本当の春を迎えるまで知力、体力、気力を落とさないよう毎日を過ごすことができる。

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