医療ガバナンス学会 (2020年5月5日 15:00)
神奈川県立厚木高等学校
矢野悟
2020年5月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2.学校が再開された後の指導と評価について
本通知では、学校に登校することができるようになった時点で、可能な限り、時間割編成の工夫、学校行事の精選、長期休業期間の短縮、土曜日に授業を行うこと等により補習を行うことが考えられるとしている。しかし、やむを得ず学校に登校できない場合、家庭における児童生徒の学習状況及び成果を確認し、十分な定着が見られたときには、学校の再開後に、当該内容を再度取り扱わなくても良いとした。
3.調査書の作成について
萩生田文科省大臣は、このほど、「総合型選抜(昨年までのAO入試)」と「学校推進型選抜(昨年までの推薦入試)」の募集時期を遅らせる必要があること、調査書の記載内容が少ないことをもって特定の受験生に不利になることが無いよう、面接なども加えて合否を判定するよう大学に検討を促した。確かに、学校行事や部活動に関わる諸大会がいくつも中止となったことで、今年の高校3年生の調査書は、記載内容が薄くなることは避けられないが、浪人生の調査書はそうではない。また、全国一律の一斉休校は要請しないということだから、都道府県ごとに、受験生の調査書に記載内容の多寡が生ずる可能性も否定できない。
ところで、前記二つの入試に加え、「一般選抜(昨年までの一般入試)」でも、生徒をより多面的に評価する目的で調査書を積極的に活用するのではなかったか?入試改革の趣旨を考えるならば、中途半端な理屈の後付けによって当初のスケジュールで強行することはあってはならないと思う。
昨年度の英語の外部検定試験の導入をめぐっては、さんざん翻弄された今の高校3年生である。部活動に全力で打ち込んできた生徒は、目標としてきた大きな大会で区切りをつけ、後を後輩に託し、受験に備えるというのが例年のスケジュールだが、今年は先の見えないまま、各大会は中止となり、主要な学校行事も開催が危うい。学校も生徒に対する指導方針を決めることができない。コロナ感染の先行きがどうなるかは判断できないが、児童生徒の教育をどのように守るのかについての判断を先送りする猶予はないと思う。
4.学校が平常に再開される時期の想定と授業時数の見通し
文科省の通知にある通り、家庭学習の取り組みをもって学校の授業に代替させること、臨時休業中の家庭学習の成果を学校の評価に反映させること等が可能であるならば、学校再開後に授業時数をどのように確保するかという議論は不要となる。しかし、学校という場で直接、教師と生徒あるいは生徒同士が触れ合う対面式の教育活動がより良策であることに異論はない。具体的に学校が再開される時期によって授業時数がどれほど違うのか想定をしてみた。
(厚木高校は、1コマが70分授業)
●当初予定の年間時数
1年 827コマ
2年 803コマ
3年 660コマ
学校が平常に再開される想定日
●5月7日から再開
1年 760コマ
2年 739コマ
3年 596コマ
●7月1日から再開
1年 598コマ
2年 572コマ
3年 429コマ
●9月1日から再開
1年 503コマ
2年 482コマ
3年 339コマ
●11月1日から再開
1年 337コマ
2年 803コマ
3年 316コマ
●1月8日から再開
1年 172コマ
2年 171コマ
3年 38コマ
http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_092.pdf
・5月7日から平常に再開される場合
授業時数の復活をしなくても、当初予定の90%程度の授業時数は確保できるが、7月
の諸行事を中止、さらに夏休みを10日程度短縮することで、当初予定の授業時数は完
全に確保できる。
・7月1日から平常に再開される場合
なんらかの復活をしなければ、65%~70%程度の授業時数しか残らない。夏休みを2週間程度短縮し、9月以降、土曜日に授業を設定するなどにより当初予定の年間時数の80%~90%程度は確保できる。また、定期テストが最低1回は実施でき、前期の成績に一定の妥当性を持たせることが可能である。
・9月1日から平常に再開される場合
当初予定の50%~60%程度の授業しか残らない。例えば12月の修学旅行は中止して、
ほとんどの土曜日・日曜日・祭日を授業にしなければ授業時数の確保は不可能であり、
あまり現実的でない。
学校での授業時数確保という観点から見ると、7月1日から平常に再開されることが最低のラインと考えられる。ただし、その場合でも夏季休業期間の大幅な短縮は避けられない。夏季休業は例年、部活動や特別活動の充実が図られる重要な時期である。例えば部活動の各種大会、その準備のための練習試合等が目白押しである。昨年度3月以降の部活動を一切禁止としてきた経緯も考えると、これ以上の部活動制限は、生徒の学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養に大きな障害となる。それでもなお、夏休みを削ってまで授業を行う意義について確認する必要がある。さらには各種の諸団体と合意する必要も生じる。
5.学校が行う評価について
今後、家庭学習の定着度を測る目的で、定期試験を実施するためには、最低でも一つの学年(約360名)を一斉に3日程度登校させる必要がある。しかし、これも不可能な状況であれば、提出物や活動記録などにより評価することとなろうが、その場合、成績の妥当性と公平性の確保は難しいため、現実的には生徒一人ひとりの成績に差を生じさせないようなものにせざるを得ない。大臣が会見のなかで触れた学校推薦型選抜は、大学から各高校に提示された推薦枠を巡り、生徒が校内順位を評定0.1のレベルで争うものであり、校内選考で参照できるレベルの評定は用意できない。
6.中学3年生の高校受検、高校3年生の大学受験
高校入試や大学受験で懸念される課題を整理してみると、以下の点が挙げられる。
・当初のスケジュールで入試が行われるならば、学習すべき事柄を学校で十分に習得しないまま、入試に臨むことになる。
・例えば、中学3年、あるいは高校3年で学習すべき事柄だけを除いた検査問題や入試問題を作成することは極めて困難。
・学校のフォローが十分でないため、塾に通う生徒とそうでない生徒との格差がより顕著となる恐れがある。
・学校行事や部活動に関わる諸大会がいくつも中止となったことで調査書の記載内容が薄くなる。特に高校3年生の場合、浪人生との公平性が確保できない。
7.課題解決に向けた一つの提案
ここで、今年度に予定されていたすべての学校教育活動を、来年度に先送りするという提案をしたい。これにより解決が期待できる諸課題と新たに生じる諸課題をまとめてみた。
【1年先送りとした場合、解決が期待できる諸課題】
・失われた時間を確保することで、教育を受ける権利を等しく保障することができる。
・先行きの見通しが立つことで、生徒のモチベーションを維持することができる。
・学習の後れを取り戻すことができ、受験生は入学試験に安心して臨むことができる。
【1年先送りとした場合、解決の必要が出てくる新たな諸課題】
Q 一年でも早く就職し、家計を支える計画であった者にとり、1年延長は受け入れられるか?
A 高卒認定試験を受験する方法もある。
Q 小学校から大学まで全ての児童・生徒・学生が対象であるか?
A 臨時休業の影響を受けずに済むであろう通信制教育で学んだ生徒を除く、全学年の児童、生徒が対象となる。
Q 大学受験を目指している浪人生の扱いはどうするか?
A 学ぶべきことを修了できなかった小学生~大学生の学年を留め置くという趣旨であるから、既に高校を卒業したものは今年度の大学入試を受けることができる。従って大学1年生の数は膨らむことになる。
Q 高卒認定試験は通常どおり実施するか?
A 通常に実施。その際、例年通りの日程で入試を受けたいと希望する高校生がいることも想定され、例年より高卒認定試験の受検希望者が大幅に膨らむ可能性がある。
Q 来年度、小学校に新たに入学してくる児童の扱いはどうするか?
A 現小学校1年生を留め置いたまま、新たに新1年生を受け入れる。その場合、来年4月までに必要な教室と人員を確保することが急務となる。
最後に~雑感~
厚木高校を含む神奈川の全県立高校は、3月はじめという早い段階から臨時休業の措置がとられ、部活動は自主的な活動も含めて全て停止された。当初は、臨時休業がこれほど長期に渡るとは考えておらず、楽観的な向きもあったが、休校措置の延長が繰り返され、部活動の諸大会など、次々と生徒の目標が消えていく。現実を受け止め、入試に向けた準備をしようとする生徒もいるが、例えば今夏のインターハイに出場し、その後の人生を切り開いていこうと目標をたてていた生徒の場合はそれも難しい。慰めも励ましも彼らの心を癒すことはできず、今、生徒にかける言葉が無い。