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Vol.093 我々が発熱患者を断るわけ

医療ガバナンス学会 (2020年5月6日 06:00)


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匿名

2020年5月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

COVID19感染症による医療現場の報道を数多く見る毎日となりました。多くの専門家が今までの対策について問題なかったと繰り返しています。しかし、現場で実際に外来患者を診療している立場では、多くの問題点を日々感じております。

我々はいわゆる発熱外来(コロナ外来)を最初から開いていました。当初は緊急入院レベルのみに限定されていたPCR検査基準が、東京都ではかなり緩和されています。大変ありがたい事ですがやはり今でも医師が必要と判断した場合とされており、多くの場合無症状の患者にはPCRは行われません。
一方で全く発熱等を含め症状の無い患者で、別の目的で行ったCT検査にてウィルス性肺炎を疑わせる所見を認めることがあります。先日、発熱が1~2日で治まった後にコロナ外来を受診した患者がいました。CTではわずかですがウィルス性肺炎像を認めたため、PCR検査を提出させていただいたところ陽性が確認されました。
また、一部の大学病院外来でのPCR検査やクリニックでの抗体検査で感染者数がより多く、6%前後がすでに感染していた可能性が指摘されています。これらのことから考えられることはやはり無症状患者は少なからずいることです。
多くの専門家はこのような無症状患者をPCRで掘り出すことは無意味と言っており、同様のご意見を持つ医師も多いようです。本当にそうでしょうか。

今、救急患者のたらい回しと言う報道を良く見ます。救急病院の長として本当に心を痛めています。
我々は発熱救急患者をただ診たくないから断っているのでは無く、現在入院中の患者の安全性が担保できないから断っているのです。骨折でお引き受けした患者が、実は感染者で院内感染が起きた、脳血管疾患で救急搬送された患者が感染者で院内感染が起きた等の事例は全国で報告されています。
救急現場ではどのような状態の患者が来るかわかりません。「常にスタンダードプリコーションをすれば大丈夫だ」と言われていますが、重症患者であれば緊急で気管内挿管が必要になる場合もあります。今、当院ではコロナ感染症の患者が紛れ込んでいても良いように救急現場ではフル装備で対応しています。
PCR検査は結果確定に少なくとも24時間以上かかるため、現実的にはその場で感染者か否かを決める手法はありません。入院を要する場合、疑い症例では必ず個室隔離が必要であり、救急隊からの連絡を受けた段階で個室が無ければ受け入れ不能と言わざるを得ません。
大部屋に疑い症例を入院させた場合、もし感染者であれば院内感染は必発です。また、発症しなくてもPCR陽性が判明した時点でその部屋の全患者、対応した医療スタッフは濃厚接触者として2週間の隔離を要します。
「受け入れて精査した上で判断し、コロナ感染症疑いなら再度転送すれば良い」との指摘があります。今、すでにコロナ病床が満床に近いと言われており、コロナ疑い患者は昼でも転送困難であり、夜間は特に転送先が見つからないのです。

無症状患者がすでに市中に多数いることが判明しており、救急患者からの院内感染が多発し、コロナ病床不足による転送先が無いと言う現状で、救急医療機関が発熱や呼吸苦等コロナ感染症が疑われる患者の受け入れを個室の有無で決めていることが、なぜたらい回しと言う報道になるのでしょうか。
現在、市中病院の患者層は高齢化しており、80代、90代で各種基礎疾患を持つ患者さんが大多数を占めます。彼らは感染すると非常に高い死亡リスクを負っています。だからこそ我々は、個室隔離が出来ない環境ではコロナ感染が疑われる患者の救急受け入れを行わないのです。今の患者を守るための苦渋の選択であることをご理解ください。
このことで医療崩壊と言う論議があることには違和感を覚えます。病床数と利用可能スペース(ハードウエア)と医師、看護師等の医療スタッフ(ソフトウェア)は各々の病院で異なります。
個室を多く持ち、人員も豊富な医療機関が率先してこれらの疑い症例をトリアージし、その後PCR陰性が確定したら専門診療可能な医療機関に移すという仕組みを作れば医療崩壊は起きません。

現に一部の大学病院や感染症が有名な公的病院はコロナ診療に軸を置き、一般患者の制限を始めています。その中で発生するコロナ陰性の急性期治療患者を、他の医療機関で診療するというフローを作れば、トリアージ医療機関には余剰スペースが出来、結果として救急発熱患者は受け入れられ、たらい回しは起きなくなります。
このような取り組みを行うためには広域での対応と政策としての対策が必要です。コロナ診療を行う病院が足りない。コロナのベッドが無いから民間にも診療できる病院を増やして対応すべきと言う論議もあります。

感染症専門医や呼吸器内科専門医の数は少なく、多くは公的センター病院や大学病院に医師が集中しており、中規模民間病院には僅かな人数しかおりません。
対案として民間病院に大学病院等から感染症専門医を送り民間でも診療できるようにすると言う意見があります。しかし、民間医療機関には公的補助金は無く中小企業同様に金銭面での余力は少なく、看護も医師も最低限で診療しています。ここに専門家が来てもスペースも無く、補助する人員も無いので、十分な力を発揮することが出来ません。他の専門領域同様に専門医は多数いる施設こそ力が発揮できると思います。民間で重症化した患者を診る体制を作るより、センターに重症患者を集約する方針の継続が望まれます。

医療現場を守るためには広域での医療機関の有機的な協力関係を国策として即時に行っていただくことが重要であり、早急な対応を切に望みます。

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