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Vol.131 新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?

医療ガバナンス学会 (2020年6月23日 06:00)


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この原稿は月刊集中6月末日発売号(7月号)に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2020年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.面会禁止措置が奏功

2020年もあっという間に半年近くなる(執筆時点は6月11日)。この半年間、世の中は、一から十まで新型コロナウィルス感染症での混乱ばかりであった。我が国に限らず、特に欧米も同様に見える。

ざっと見た印象に過ぎず正しくは適切な国際比較分析が待たれるが、世界各国と比較して、我が国は院内感染(病院だけでなく介護施設も含む。以下、同様)が少なく収まった方のように思う。いくつもの要因があろうが、筆者のたまたま接した印象では、その要因の一つとして、病院・介護施設の徹底した面会制限(実質は面会禁止)の措置が功を奏したのではないかと感じる。

1年半ほど前の2019年初め頃の季節性インフルエンザの猛威の際の教訓(大流行による病院の面会制限措置。参照・月刊集中2019年3月号「救急病院はインフル患者の診療拒否をしてもよいのではないか?」、MRIC・Vol.023)、2020年初め頃のクルーズ船の検疫の際の印象〔参照・月刊集中2020年4月号「歴史的緊急事態下での規制を正当化するものは助成措置である」、MRIC・Vol.054〕、それらによる世間の理解と政府の措置などの諸々の事情が重なり、徹底した面会禁止措置が実施でき、そして、その結果も出したように思う。

2.指定感染症・検疫・面会制限

2020年1月28日に、内閣は「新型コロナウィルス感染症を指定感染症として定める等の政令」を制定し、新型コロナウィルス感染症を感染症法第6条第8項の指定感染症として定める。基本的には結核・SARS・MERSのような2類感染症並びのものとしていたが、入院治療に関してはエボラ出血熱のような1類感染症並びのものとして、いわば強めに位置付けていた(入院治療に関する感染症法第19条第1項や第20条第1項の「1類感染症」を「新型コロナウィルス感染症」と読み替え)。それは、2類ならば「状況に応じて入院」となるところを、1類として「原則入院」としたものであった(その後、通達によって徐々に緩和し、自宅療養や宿泊療養を認めたことから、実質的には「状況に応じて入院」に変化)。

クルーズ船については、2月3日から検疫を行うこととなる。途中、2月13日には「新型コロナウィルス感染症を検疫法第34条の感染症の種類として指定する等の政令」が制定されて、法的には検疫法第16条に定める強制的な「停留」もできるようにはなった(ただし、結果的には、強力な「停留」措置までは実施せず)。

実際の医療現場においても歩みを共にして、1月末から2月になって徐々に、病院や介護施設の面会の一部制限が2~3段階に分けるなどして実施されつつあったらしい(家族・身元保証人への面会者限定、それらへの検温実施、マスク持参などの段階的制限強化措置等)。

厚生労働省健康局結核感染症課等は、この間、2月24日には「社会福祉施設等(入所施設・居住系サービスに限る。)における感染拡大防止のための留意点について」を、翌25日には「医療施設等における感染拡大防止のための留意点について」を、それぞれ事務連絡として発出する。面会制限に関して、前者は「面会については、感染経路の遮断という観点で言えば、可能な限り、緊急やむを得ない場合を除き、制限することが望ましい。少なくとも、面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断ること。」と定め、後者は「面会については、感染経路の遮断という観点から、感染の拡大状況等を踏まえ、必要な場合には一定の制限を設けることや、面会者に対して、体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断るといった対応を検討すること。」と定めた。

これらのような経緯を経て、いわばロックダウンとでも言えそうな厳格な面会禁止措置が見事に実現できたのであろう。

3.過剰な受診控えや風評被害

ところが、院内感染(や介護施設内感染)を押さえ込んだ成果は、すでに述べた要因も含めた諸々の関係者の努力によって実現できたものの、その厳格さのインパクトの大きさのゆえに、一般人には必要以上に過剰な受診控えも生じてしまったようにも感じられる。さらには、院内感染の押さえ込みが当り前にすら感じられるようになったため、逆に今度は、少しでも院内感染が生じてしまった病院等への風評被害が凄まじい。時には、それらの病院の職員への差別すら生じていることもあるようである。いずれも、余りにも過剰なものであるため、このままでは折角の院内感染の押さえ込みの実績がトータルで無にすらなってしまいかねない。第2波・第3波、そしてしばらく経ってからの再流行において、病院等はそれらの過剰な受診控えや風評被害で意気消沈してしまう。

したがって、過剰な受診控えや風評被害に対する抜本的な対策、少なくとも目先を緩和する実効的な対策を講じておく必要があると思われる。

4.必ずしも休診・公表しなくてもよい

少なくとも、今のままの「過剰な」状態が受診や風評において継続してしまうのは、患者たる一般国民にとっても、新型コロナとの闘いの中心にある病院等の職員にとっても、甚だ有害だと言ってよい。しかし、それらの「過剰さ」が解消されるようになるためには、ストレスが充満した現在の社会意識の下では、相当の時日を要することであろう。

そこで、切迫した重大な損害・被害の生じている現在の緊急な状況下においては、当面の間、しばらく落ち着くまではそれらの「過剰さ」を取り除くための暫定措置を採用してはいかがであろうか。当面、考えられるのは、できる限り休診をしないで済ますこと、及び、できる限り公表しないで済ますこと、のように思う。第1波の新型コロナを越えたことによって、各医療機関ともにその勘どころを押さえたであろうから、院内感染即一律外来休診としなくてもよいかも知れない。また、外来・入院など診療等の都合上、外部に告知した方が混乱が生じないというような事情などがある場合を除き、行政や医療界での情報共有を必須としさえすれば、すべて公表する必要もないように思う。休診も公表も、医療現場の実情に鑑み、そのあり方を見直していくことが適切だと考えられる。

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