医療ガバナンス学会 (2020年6月26日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2019年10月16日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2019101000080.html
Child Health Laboratory代表
森田麻里子
2020年6月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
子どもの睡眠不足が健康に及ぼす影響については、たくさんの研究が行われていて、肥満が増えたり、問題行動を評価するテストのスコアが悪くなったりすることがわかっています。
そして近年では、睡眠時間の不足だけでなく、睡眠をとる時間帯についても研究が進んでいます。大人では、生活が夜型になっていたり、週末に朝寝坊をしたりしているような場合、生活習慣病などのリスクが高まることがわかっていますが、子どもでも同様に健康への影響があることがわかってきているのです。
例えば、2012~2016年にかけて、12~17歳の中高生804人を対象に行われたアメリカの研究があります(※)。この研究では、5日間にわたって活動量の測定を行うと同時に、体脂肪率の測定、そして食事や生活に関するアンケート調査を行いました。すると、女子では、夜型の生活をしていたり、平日に比べて週末に朝寝坊したりしているほど肥満傾向にあり、その傾向は週末の遅起きの場合のほうが強いことがわかりました。
睡眠時間が短いことでも肥満は増えることがわかっていますが、今回の結果は、睡眠時間の長さによる影響を取り除いて調整したものです。男子では明らかな差は認められなかったものの、夜型や週末の遅起きでやはり肥満が多い傾向がみられました。
睡眠を取る時間帯は、人間の体が刻む1日のリズムである体内時計と関係しています。この体内時計が乱れていたり、社会生活のリズムと合わなくなっていたりすると、日中のパフォーマンスや健康に問題がでてきます。
10代の子どもたちの多くは、学校に通うため、朝それなりに早く起きなければいけません。部活の朝練などがあれば、さらに朝早く家を出発することになります。しかしだからといって、早く寝られるわけでもありません。夜は受験のため塾に通い、帰宅後にさらに宿題や自宅学習をする子もいます。または、スマートフォンを使って、SNSで友人とのやり取りを延々としていたり、動画の視聴に熱中して、いつの間にか深夜になっていたりする場合もあるかもしれません。
このように蓄積した睡眠不足は、どこかで解消する必要があります。そこで休日には朝遅くまで寝ているようになるのですが、そうすると、今度はさらに早寝ができなくなります。体内時計はどんどん夜型にずれていき、体にとってまだ「夜」のタイミングで起床時間になってしまい、時差ボケのようなぼーっとした状態で登校することになります。このような状態は、社会的時差ボケとも呼ばれています。
こうした体内時計の乱れは、健康にも問題を引き起こします。今回ご紹介した論文では肥満の増加が指摘されていましたが、これは体内時計の乱れにより、ホルモンの分泌や血糖値の調整が乱れることが主な原因と考えられています。
体内時計にはもともと個人差があり、朝型の人もいれば、夜型の人もいます。さらに、実は年齢や性別による差もあります。赤ちゃんや高齢者は朝型ですが、思春期の若者はちょうど夜型になりやすい年代です。ちなみに、10代後半以降は、男性の方が女性より夜型になる傾向があります。女性の方が夜型の生活に「弱い」傾向があり、悪影響を受けやすいのかもしれません。
なぜこのような差が起こるのかは、はっきりしていません。特に年齢差については、身体的成長・変化だけでなく、例えば若者であれば、学業や交友関係など、社会的な面が影響している可能性もあります。いずれにしろ、夜型になりやすい年齢にあたる中高生は、意識して、朝型の生活に整えていく必要がありそうです。
いきなり早寝をするのは難しいので、まずは休日も平日と同じ時間に早起きすることからはじめると良いでしょう。昼夜逆転など日常生活に問題が出てきていたり、ご家庭で努力してみても効果が見られなったりする場合など、専門の医療機関で相談する手もあります。少しずつ、良いリズムで十分な量の睡眠をとれるようにしていきたいですね。
(※)Cespedes Feliciano EM, Rifas-Shiman SL, Quante M, Redline S, Oken E, Taveras EM. Chronotype, Social Jet Lag, and Cardiometabolic Risk Factors in Early Adolescence. JAMA Pediatr. 2019.