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Vol.135 女医が調査に乗り出した「日本が低用量ピル後進国」なのはなぜ?

医療ガバナンス学会 (2020年6月29日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(2020年3月11日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2020031000023.html

山本佳奈

2020年6月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

3月8日は「国際女性デー」でした。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受け、アジアを中心に、国際女性デーに合わせた行事が中止となった一方、パリやブラジル、タイやインドネシアなど世界各地で女性の権利を求める運動や集会が行われました。

3月8日を「国際女性デー」と呼ぶようになったきっかけをご存知でしょうか。それは1904年3月8日にニューヨークで行われた参政権を求めた女性のデモでした。そして、6年後の1910年にデンマークで行なわれた国際社会主義者会議において、「女性の政治的自由と平等のためにたたかう記念の日」として正式に制定されたことから始まり、1975年に国連によって「国際婦人デー」と定められ、現在「国際女性デー」と呼ばれるようになったのです。

つまり、「国際女性デー」とは、女性の権利や政治的・経済的分野への参加など、女性が達成してきた成果を認識する記念日の一つであり、根深く残る女性差別に対する抗議や、女性の権利を求めるための運動が行われる日でもあるのです。

日本は、ご存知の通りジェンダー格差が大きい国の一つです。世界経済フォーラム(WEF)が世界153カ国を対象に、各国のジェンダー不平等状況を分析した「世界ジェンダー・ギャップ報告書2020」によると、日本は121位。過去最低の記録を更新しました。

日本におけるジェンダー格差は圧倒的な後進国と言わざるを得ませんが、ピルについてはどうなのでしょうか。国連の発行している「避妊法2019(Contraceptive Use by Method 2019)」のデータ によると、日本のピル内服率は2.9%でした。

東アジアにおけるピル内服率は、中国2.4%、香港6.2%、韓国3.3%であり、中国や韓国と同じくらいの内服率ですが、東南アジアの国々はどうかというと、ミャンマー8.4%、ベトナム10.5%、タイ19.6%、マレーシア8.8%、カンボジア13.7%であり、日本よりもピル内服率は高いことがわかります。

一方、欧米におけるピルの内服率は、ノルウェー25.6%、英国26.1%、フランス33.1%、カナダ28.5%、米国13.7%でした。欧米や東南アジアの諸国よりも日本のピル内服率は低く、まだまだ低用量ピル後進国と言わざるを得ないのが現状です。

なぜ、日本はピル後進国なのでしょうか。それは、ピルを入手するためには処方箋が必要だからです。つまり、病院を定期的に受診しないと内服を継続することができないのです。外来診療をしていると、病院に継続的に受診できず、内服できなくなり、避妊に失敗し、結果として緊急避妊薬を内服しないといけなくなって受診した方をよく見かけます。

ただ、世界を見渡してみると、日本と同様に処方箋が必要な国がある一方で、薬局でピルを購入することができる国もあります。

それを知ったのは、昨年の秋にミャンマーのヤンゴンに学会で訪問した時でした。たまたま立ち寄ったスーパーの中にある薬局に、なんと低用量ピルと緊急避妊薬が陳列してあるではありませんか。しかもとっても安いのです。日本だと2500円から3000円もする低用量ピルが、ミャンマーだと高くても500円ほどで購入でき、日本だと10000円前後くらいの値段で処方されている緊急避妊薬が、なんと100円もしない。もちろん物価の差はありますが、それでも安価であることに衝撃を受けました。

このミャンマーでの(私にとっての)発見や衝撃をきっかけに、東アジアや東南アジアで低用量ピルや緊急避妊薬が薬局で購入できるのか、弾丸で現地の薬局に行って確認するという調査を開始することにしました。

もともと東南アジアに行ったことがなかったので、初めて訪れる国ばかりでしたが、ミャンマーを訪れてからの半年間で調査に行った国は、マレーシア、タイ、インドネシア、香港、そして、ちょっと足を伸ばしてUAE(ドバイ)と計6カ国です。インドネシアでは、「病院に行ってもらってね」と言われてしまいましたが、そのほかの国では薬局で購入できました。国によって値段は異なるものの、どの国も日本よりは安価な価格設定でした。

余談ですが、ドバイでタクシーに乗った際、新型コロナウイルスの話題になりました。「中国人の観光客は全くこなくなったよ。ツアーのキャンセルも相次いでいるみたい。でも日本人は新型コロナウイルスの感染はないから大丈夫だろ。」と言われました。「日本でも感染が拡大しているよ」なんていったら、タクシーから降ろされてしまう気がして、返事ができませんでした。

東南アジアを中心に、ピルの調査を積極的にやろうと思っていた矢先の新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う入国制限によって、調査が継続できるのか先行き不透明ではありますが、いつか日本の薬局でもピルを必要とする時に購入できる日を願って、そしてその足がかりとなると信じて、各国のピル事情を引き続き調べて行こうと思います。

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